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優等生令嬢の憂鬱~絶望の未来から~【書籍化】  作者: こる


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28.忘却

 ああ、お父様になんてご報告しようかしら。



 もう心配は要りません、って。あの花はすべて私が焼き尽くしましたと。

 そうよ、お父様に覚醒したこともお伝えしなきゃ! きっと喜んでくださるわ。


 家に帰り、そわそわと部屋でお父様の帰りを待っていた私に、執事のハルバードがお父様の帰宅を教えてくれた。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


「お父様! お帰りなさい!」

「コーラル! コーラルじゃないか! やぁ、今日の服も良く似合うなぁ。そうか、今日は学園の休日だったか! 元気だったかい? 学園はどうだい? 楽しいかい?」

 子供のように抱きついた私を抱きとめたお父様は、何の憂いも無い朗らかな笑顔でそう私に話しかけた。



 ――まるで、今日、はじめて出会ったような言葉。



「え? お、父様? お昼にも、お会いしましたわ」

 戸惑いながら笑顔で確認する私に、お父様は首を傾げた。

「昼? 何を言ってるんだい。今日のお昼は……ああ、そうだ、忙しくて昼食も摂ることが出来ずにいつの間にか終わっていたんだ。思い出したら、なんだかおなかが減ってきたな」

 とぼけている様子の無いお父様に、私の背中をゾクリと寒気が走った。

「お父様? あの、あの花のお話は? あの、私、久しぶりにお母様の教会に行ってきたのよ」

 もしかして、私に累が及ばないようにと、会ったことさえ無かったことにしようとしているの?

「花? なんの花かな? 教会に行くのは良いことだね、お母様もきっと喜んでいることだろう。ちゃんとお供えの花も持って行ったかい?」

 にこりと笑って頭を撫でてくれるお父様とは対象に、私の頬は強張ってゆく。

「……も、ちろんよ、お父様」

 そろりとお父様の手から逃れ、距離を取る。


「ねぇ、お父様。教会の地下に行ってみたいのだけれど」

 意を決してそう訊ねれば、ひくりとお父様の笑顔が一瞬だけ固まるが、目を伏せて首を横に振った。

「どうしたんだいコーラル? 教会の地下は神父様しか入ってはいけない場所だろう。これはまだ内緒だけどね、新しい事業を始めようと思っているんだ。もうすぐ準備が整う。そうすれば、君にもちゃんと教えてあげるから。とても重要な、そして、たくさんの人が幸せになる仕事なんだよ。ああ、早く君にも教えてあげたいが、取引相手がね、秘密を厳守しろと……まぁ、これは商売をする上では当然のことなんだがね。娘である君にも口外してはいけない事になっているんだ」

 いたずらっ子のような笑顔でそう言うお父様に、私は一歩後ずさる。


 お昼に会った時には教えてくださったのに、何故いまは秘密にするの?

「お父様……お昼から、誰かに、お会いになりました?」

 どきどきしながら訊ねる。

 口の中が、からからに渇く。心臓がいやに響く。


「おや? ウチの娘は、こんなに私の事業に熱心だったかな? ふふふ、午後からは色々な人にあったよ? 人と会うのも仕事のうちだからね」

 そうじゃない! そうじゃないのよ、お父様!

「その、新しい事業の相手とお会いしたのでは、ありませんか?」

 お父様の目が私を探るように細まった。きっと当たっている。

「伯爵家からお話を受けたとおっしゃってましたよね? それは……それはクレイロール家、ランの実家では――」

「コーラル、ここから先は大人の商売のはなしなんだ。娘である君に口外してもいけない、そういう契約で行っているんだ。これ以上この話はしないでくれないか」


 お父様の剣幕に押され、口を噤む。

 怒気を押さえたお父様は、気を取り直すように首を振ってから口元を緩めて私の頭を撫でてくれる。

「君は友人をもっと信じてあげるといい。彼女はとても君の事を気に掛けてくれているんだよ。私のことも、本当の父親のように慕ってくれているんだ」


 ざわり、ざわり、と何かが這い上がってくるような気持ち悪さを感じる。


 お父様の表情には一つのかげりもない。ずっと目を見つめて話をしていたけれど、偽りを話した様子は無かった。

 私にランを信じろと、心からそう言っているのね。


「ごめんなさい、お父様。私、お部屋に忘れ物をしてしまったわ。部屋に、戻りますね」

「どうしたんだい? 顔色が良くない。夕飯は部屋に運ばせるかい?」

「いいえ、大丈夫です。少し休んで、夕飯は一緒にいただきますわ」


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 閉めた部屋のドアに背中を付けて、両手で顔を覆い、ずるずると座り込んだ。


 頭の中が混乱する……。一体、お父様に何が起きたの? どうして、あのことを忘れているの? 私を庇うためにとぼけたりしているわけではなかったわ。


 まるで、私と昼間会ったことをすっぽりと……私と会って、シロウネ草の話をしたことを忘れているみたい。


 ゾクリと背筋が寒くなる。


 コンコン……背を付けていたドアがノックされ、驚いて喉の奥から出そうになった悲鳴を、口を押さえることでこらえる。

「お嬢様、お食事の用意が整いました」

 ドアの外から掛けられた馴染みの声に安堵し、もうそんなに時間が経ったのかと思いながらゆっくりと顔を上げ、息を吐き出す。

「わかりました、今、参ります」



 お父様に話を合わせながらなごやかに行われた夕食で、やはりお父様は昼間私と会ったことを忘れているのだと確信せざるを得なかった。


アルファポリス様開催の第8回ファンタジー小説大賞にエントリーしました。

ポチッとしていただけると、嬉しいです(´∀`*)ノシ(←正直)

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