27.シロウネ草畑
「あの植物を育てている場所は、教会の地下、その一カ所だけですか?」
問いに辛そうなお父様の首肯で答えを貰った私は、何食わぬ顔をして、お父様の会社を後にした。
空になったバスケットを持ち、涼しい顔をして。だけど、はしたなくならない程度の急ぎ足で大通りを歩き、教会を目指す。
娘がお母様の眠る教会に行くのは、何ら不自然な事ではないものね。
急いで歩く私とすれ違うように、道を飛ばず馬車とすれ違った。
「……今の家紋……」
思わず振り返ってしまった、馬車に付いていた紋は……クレイロール家のもの? ま、さかね。
背筋を冷たい汗が伝ったが、今はそれどころではない。
あの馬車にランが乗っているとは限らなく、お父様の会社の方向へ向かってはいるけれど、会社に行くなんてこと……っ。ああ、駄目、今は駄目だわ、早く教会へ向かわなければ。
それに、もし彼女がお父様のところへ行ったとしても、きっとお父様がなんとかしてくれる。
それよりも、私はシロウネ草を燃やしてしまわなければ。
止めていた足を動かし、教会へ向かう。
途中、教会にお供えするための花束を購入した。
「コーラルお嬢様、お久しぶりですね」
「ご無沙汰しております」
庭の手入れをしていた神父様に挨拶をし、人気の無い礼拝堂の中へ一人で入る。
一番奥にある一段高い場所に作られた祭壇には、いくつもの花が備え付けの花瓶に供えられていて、私の持ってきた花束も花瓶の一つに生けた。
小さな教会だから、ひっきりなしに参拝者が居るわけで無いのが幸いだわ。
壁を埋めるように色とりどりの布が掛けられ、それぞれに神獣が刺繍されている。
その布の一つを捲り、その後ろにある扉の中へ素早く体を滑り込ませ、魔法で灯りを灯す。
扉を入ってすぐの場所にバスケットを置いておく。数歩歩けば下に向かう狭い階段があり、そこを慎重に降りていった。
降りきったところにも扉があり、意を決してそれを押し開ける。
甘い、花の香りが充満していた。
魔法の灯りを大きくし、部屋全体を照らし出す。
地面は土で、壁は何本もの木の柱で補強されている。思ったよりも広いその秘密の畑には、びっちりと白い花弁を持つ八重の花が咲き乱れていた。
「綺麗……」
闇の中に浮かび上がる白い花々は幻想的で、まるで神の国のお花畑のよう。
少しの間見惚れてしまったけれど、気を取り直す。
シロウネ草を焼き尽くす事が、お父様の罪をも焼き尽くすことになるのだから。
両手を広げ意識を集中する。シロウネ草だけを燃やさなければならない。
近くに生えている一輪を高温の炎を使い一瞬で灰にする。
生きているものを燃やし尽くすのは、紙や薪を燃やす何倍も力が要る。
覚醒していなければ、無理だったわね。
一歩ずつゆっくりと歩きながら、ひと株ずつ丁寧に燃やしていった。
やがて全部を焼き尽くした時には魔力もかなり失い、立っているのもやっとの状態で。なるべく無駄な熱を出さないように燃やしたけれど、部屋の中は蒸気風呂のように熱が籠もっていた。
どこかに空気を取り入れる穴があるらしく、涼しいそよ風が入ってくる。
もう一度、燃やし残しが無いか確認してから、魔法で土を均し、植物が生えていたという痕跡すら消した。
これで、大丈夫。お父様の未来は私が守ったわ! 大丈夫! もう、大丈夫よね!
息苦しい地下を出て、礼拝堂へと戻る。
教会から出れば、まだ庭仕事をしていた神父様が居たけれど声は掛けずに、私は急いで屋敷へ帰った。
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