25.休日1
屋敷に戻ると、前の休みにお願いしてあった服のお直しがすべて終わっていた。
服が見事に形を変えられて、ずらりと目の前に並べられている。
今までのゆったりしたシルエットとは違い、すらりとしたその出来栄えに思わず吐息が漏れた。
「どうです? 全部同じじゃつまらないので、最近の流行等を調べて直したんですよ」
針仕事の得意なメイドのメリーがそう胸を張る。
「この子ったら、そのために五日も街の仕立屋に修行に行って……今も定期的に学びに行っているんですよ」
マコットが苦笑を零しながら教えてくれる。
「ちゃ、ちゃんと旦那様にも了解は頂きましたよ。わたしの技術が上がれば、繕い物全般を屋敷で賄えるようになって経済的です、って説明したら納得してくださいました」
ちゃんと利益も添えて提案するなんて、しっかりしてるのね。
彼女が自信満々なだけあって、どの服も素敵に生まれ変わっていた。
「さぁ、お嬢様! どれになさいますか!」
鼻息も荒く聞いてくる彼女に、目に付いた一枚に手を伸ばしかけて躊躇する。深い青味が掛かった緑の服は彼の瞳の色だから、気恥ずかしくなってその隣にあった深緑色の服を手に取った。
しっとりと手になじむ肌触りと、華美では無いけれど切り返しの素敵なその服を体に当ててみる。
「こちらにしますか? ではそれに合う靴と小物をお持ち致しますね」
弾む足取りで部屋を出たメリーを見送って、マコットが手伝いを申し出てくれたので、彼女の手を借りて服を着替える。
「あらお嬢様、なんだかお体がすっきりされましたね。以前よりも体つきにメリハリがついて、とてもようございますわ」
マコットに促されて衣装扉に付けられた鏡に全身を写せば、仕立て直された服は体に沿うように流れ、最近の走り込みで引き締まってきた体を包んでいだ。
そして戻ってきたメリーが持ってきた靴に履き替え、髪を整えて貰い。二人の強い勧めで化粧も施された。
最低限のマナーとして薄く施すことはあっても、しっかりと整えるのは夜会の時くらいで……太陽の下でこうして華やかなお化粧するのは初めてかもしれない。
化粧が終われば、メリーもマコットも私の装いを素晴らしいと褒めてくれた。
「ところでお父様は、会社の方にいらっしゃるのかしら?」
気恥ずかしくて話を変えれば、私の恥ずかしさなどしっかり理解している二人は微笑んで話をあわせてくれる。
「ええ、お仕事でお忙しくされておりますよ。食事をゆっくり摂ることもできないようで、少し痩せられました」
マコットが零した言葉に、これ幸いと乗っかる。
「では、私がお昼をご一緒しに参りますわ。そうすれば、嫌でもご飯を食べていただけるでしょう?」
「まぁ! それは良い考えですわ。では早速お弁当をお作りしますね」
「え、あ、うん、お願いね」
お父様と一緒に会社の近くの食堂に行こうと思っていたのだけれど、お弁当の方が二人でゆっくり食べることができていいかもしれないわね。
お父様が痩せたというのがとても気になる。
元々太ってなかったのに、痩せたりなんかしたら……。もしかして、無理をしすぎて体を壊しているのではないかしら。なんとしても、一緒にお食事しなくては。
マコットがお弁当を用意してくれている間に、屋敷の中を見回る。
伯爵家の紹介で来たというメイドの様子を知りたかった。
古参のメイド達が働いている中、例の五人を見つけることが出来なかったので、執事のハルバードを捕まえて尋ねる。
「こちらの屋敷は手が足りておりますので、会社の方の手伝いに入っております」
……伯爵家に縁のあのメイドたちが、お父様の会社に……。
嫌な予感がするのだけれど。彼も私の考えている事に気づいたのか、表情を暗くする。
「旦那様はお忙しく、なかなか屋敷に帰ることもできず。お話をする暇も……。申し訳ございません」
私に向かって深く頭を下げる彼に、慌てる。
「だ、大丈夫よ、ハルバード。私がちゃんとお父様に説明してくるわ」
「はい、お嬢様ならば、きっとお話しできます! 不甲斐ない爺で申し訳ない……っ」
肩を落とすハルバードを元気づけてから、マコットの用意してくれた昼食の入ったバスケットを持って屋敷を出た。