24.告白
二人に両腕を取られ、半ば引きずられるようにあれよあれよと言う間に、観月祭の会場から遠ざかり少し息切れして着いた寮の、カティールさんの部屋にリコルさんと一緒にお邪魔している。
「ふぅっ! 危ないところだったぁ~」
リコルさんがいい笑顔で額の汗を拭っている。
「本当ですわね。また、力技で来られるところでしたわ」
カティールさんもニコニコとしている。
ただ私だけが、驚きを持って二人を見ていた。
このお二人……いえ、ヴィゼル先生も、もしかして……。
「も……しかして、お二人共、記憶が……?」
震える私の声に二人は顔を見合わせ、それから二人してほぉ~っとため息を吐き、カティールさんが真剣な表情で私を見る。
「未来視なのかもしれないと思ったけれど、これは『記憶』なのですね? たった一つですが、まったく同じ出来事を、二人で覚えているの」
言いにくそうに言葉を窄めたカティールさんをリコルさんが引き継ぐ。
「観月祭で、コーラルさんが“炎”を覚醒する、その光景をわたしたちは覚えてるの。コーラルさんが身を焼くのに、わたしは何もできなくて……っ! 先生たちを呼びに行って、ヴィゼル先生がなんとか魔力を整えたんだけれど、二人とも酷い火傷をして……っ」
「治癒に駆けつけたハースラ先生は、ヴィゼル先生の治療を優先されて。爵位的にどうしようもなかった事なのでしょうが、そのせいでコーラルさんの治療に魔力が足りず火傷の痕が残ったんですわ」
「なのにあの女っ! 皆が必死になっているときに、影のほうで薄ら笑いを浮かべてたのよ!?」
混乱しすぎてしっかりと覚えていなかった『覚醒』の日の出来事。
「でも、もう大丈夫よね! こうして、無事に観月祭を越すことができたんだもの!」
憤怒の表情を消して力瘤をつくるリコルさんだけれど、カティールさんの心配そうな表情は消えていない。
「コーラルさん。貴女の『記憶』は? 貴女はどのような記憶があるのですか?」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
殺される未来なんて、二人には重過ぎる――正直に話すべきか否か、躊躇った。
不意に『一人で抱え込まずに相談しなさい』というヴィゼル先生の言葉が甦り、私は意を決して二人に話した。
私は婚約者を取ったランを恨み彼女を苛める事。覚醒してからはそれが一層酷くなり、彼女に危害を加えるほどになること。そしてそれを切欠に、彼女は治癒の力を『覚醒』すること。
そうして、私は卒業試合で死ぬこと……。
掻い摘んで話した私の『記憶』に二人は絶句したが、ランの行動を観察して理解していた二人の復活は早かった。
「よし! それなら、特訓は継続だね!」
何かを決意した顔でリコルさんが宣言し、続いてカティールさんも同意を示す。
「ええ、何が何でも生き残らなくてはいけませんわ! コーラルさんの成績でしたら、今後成績を落としたところで、卒業試験には出なくてはならないでしょうし。炎を覚醒しなくても勝てる位、強くならなくては」
息巻く二人に、「隠していたけれど。実は、もう覚醒しているの」と告白すれば、再度絶句され。だけど、“万が一に備えて”特訓は継続することになり、休み中の練習予定表を渡された……。
「あのね、一つだけ確認してもいい?」
「ええ、何でも聞いてください」
少しだけ気まずそうに言うリコルさんに頷く。
「コーラルさんは……いまも、ゲイツ様のこと、好き?」
問われて、ゆっくりと首を横に振る。
「彼の気持ちはもう私にありませんし。私も、もう彼を婚約者であると思えません」
「だよね! よかったぁ。もし、まだ好きだったら、どうしようかと思った!」
「リコルさんったら、あからさま過ぎますよ。でも、私も、あの方はおやめになった方がいいと思いますわ。コーラルさんにはもっと良い方ができますよ」
とても低評価ですわねゲイツ。ちょっといい気味です。
ランを警戒したリコルさんが部屋の前まで送ってくれ、自室に戻って帰宅の準備を進める。
明日からの休みはびっちり屋敷に居て、お父様の新規事業と隣国との取引について調べなくては。
お父様は世の為になる大仕事とおっしゃっていたけれど……なんだか、嫌な予感がする。ランが頻繁に屋敷に行っていたっていうのが、すごく心配だし。
観月祭を無事に乗り切り友人達に告白して彼らの協力をこれからも得られることになったけれど……実家の事を思うと不安が晴れること無く、三日間の休みに突入した。




