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16.休日6

 執事のハルバードが教えてくれた、私の帰らなかった半年に起こった出来事は、私が全く想像していない事だった。


 私がランさんをお父様に紹介して以降、彼女は度々たびたび一人でこの屋敷に来ていたそうだ。

 私に頼まれたと、書籍の名前を持ってやって来る。それは確かに我が家の書庫にあるもので、ハルバードも変だとは思いつつも丁寧に彼女に対応していたらしい。

 やがて彼女は、お父様と親交を持つようになる。きっかけは何か、商売の話で意気投合したらしい。そしてお父様は新規の事業を始める。

 ハルバードは事業の方に関わっていないので詳しくは知らないようだった。

「新規の事業が忙しいらしく、帰宅時間が遅い日もありますが。今日はお嬢様も帰られておりますので、きっと早くご帰宅されますよ」


 途中、メイドでハルバードの妻であるマコットがお茶とお菓子を持ってきてくれ、そのまま一緒に話を聞いてくれていた。

 彼女にもランの事を聞けば、少し逡巡した後、口を開いてくれた。

「お嬢様のご友人のことを言うのは心苦しいですが――」

「大丈夫よ。もう友人ではないから」

 小さく笑って促せば、一度目を大きくしてから、ホッとしたように「それはようございました」と続けた。

「あのお嬢さんは、最初はとても朗らかで、いいお嬢さんだと思ったのですが。厚かましくもお嬢様の部屋に入るわ、お茶やお菓子の催促はするわ――「私の部屋へ?」――ええ、お嬢様にブローチを取ってきてほしいと頼まれたと。確かに彼女の言うものと同じブローチをお嬢様はお持ちでしたので。でも、『あたしが、部屋から持ってきてって頼まれたの。他の人には任せられないから、早くコーラルの部屋を開けてちょうだい』なんて言って、無理矢理部屋を開けさせて……大丈夫ですよ、彼女は嫌がりましたが、わたくしがしっかり見張って、ブローチ以外の物には触れさせませんでしたからね!」

 残念だわマコット……そのブローチは私の手に届いていないもの。

 宝物入れの蓋を開けて肩を落とした私に、マコットとハルバードは事の次第を察して慌てだす。

「ブローチは諦めることにするわ。でも本は? あの子、本も持って行ったのよね?」

 話しぶりでは一冊や二冊では無いようだったけれど、本まで取られたとしたら悔しくて居たたまれない。

「本は大丈夫です。ちゃんと返しに来ておりましたから。丁度、今持ち出しているものもありません」

「そうそう、本を返しに来たついでに、ちゃっかり御飯まで食べていくのよね! 旦那様もお嬢様の友人だから無下にはできないし。それに、もう一人娘ができたみたいで嬉しいなんてお世辞で言われて『娘だと思ってください』なんて厚かましく返してるのを見た日には、もう、悔しくて、悔しくて! なんで、お嬢様は帰ってこられないのに、あの娘はひょこひょこ顔を出すんだと、屋敷の者は皆、ほぞをかんでいましたわ」

 マコットはそれはもう悔しそうに、エプロンの裾を掴んでねじり上げている。


 ……帰ってこられなかったのは、休日にあの子の尻ぬぐいをしていたからよ。週末になると、決まって何かしらやらかす彼女の後始末を何度したことか。

 そして、週末に何も無いときは、彼女に振り回されて買い物や宿題を手伝うのに費やされていた。

 今になって思えば、何故あんなに彼女の面倒を見ていたのか不思議なくらいだわ。

 手遅れになる前に正気に返って、本当に良かった。


 ――手遅れじゃないわよね?


 ひやりとした汗が背中を伝った。


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