13.休日3
「あの、フレイム……? この服、スリットが深くて、足が見え過ぎちゃうんですけれど。それに、なんだか体にぴったりしていて、恥ずかしいわ」
フレイムに連れてこられた服屋の、試着するための小部屋に押し込まれて、彼から渡された服を身につける。
深紅を基調としたすらりとしたシルエットのワンピースを着て、裾から足の付け根近くまで切れ込んでいるスリットに戦々恐々とする。
少し動けば、肌が見えてしまいそう!
「どれ。やっぱり似合うじゃないか」
鏡に向かってもじもじしていたところを、勝手にドアを開けて入ってきた彼が、にんまりとした顔で評する。
「アイシスはスタイルが良いな。なぜあんな、体に合っていないダボついた服を着るんだ? この腰も、胸も……魅せねば勿体ないだろう」
私を鏡に向かい合わせたまま、ぴったりと後ろに立った彼が、丸めて後頭部でひっつめていた私の髪の毛をほどく。
真っ黒で真っ直ぐな髪が、多少のうねりを残して背中に広がる。
「黒髪が赤い服に映えるな。綺麗だ」
解いた髪を左肩から前に持ってくると、ゆとりを持たせてリボンで縛る。
「俺は不器用だから、編んだりはできないが。こうやって、前で縛っても似合うだろう」
彼のやりたいことがわかったので、一度リボンを解いて緩く三つ編みにして胸の前に垂らしてみせる。
「こう?」
「ああそうだ、似合う。きっちりしているアイシスもいいが、こういうのもいいな」
手放しで褒められ、頬が熱くなる。
「フ、フレイムは口がお上手よね」
照れ隠しにそう言えば、彼の眉が小さく上がり心外だと肩を竦める。
「信じられんだろうが、こんなことをしたいと思ったのも、褒めたのもアイシスが初めてだ」
「そうなの? 覚醒の補助をしてくれたから、そのせいかしら?」
「そうかもな。ここにある秘密を、共有してるせいもあるかもな?」
そう言いながら、フレイムは後ろから抱き込むように私の前に腕を回し、胸の間……名誉の勲章である火傷の痕がある辺りを親指でトントンと叩く。
「っ! フレイムっ、こういうことは女性にするものではないと思うわ」
彼の手を身を捩ってかわし、胸の前で両手を交差させてそれ以上触れられるのを阻止するが、自然な動作でノックされたその場所が、熱を持つ。
「君にしかしないさ。それにしても、このスリットはちょっと深すぎるか。この肌を他の男にも見せるのは、流石に勿体ないな」
彼はそう言うと、部屋を出てすぐのところに控えていた店員に声をかけると、膝上まで縫うように指示をして部屋を出て行く。残った店員が服を着たままの状態で素早く彼の意向通りの場所まで縫ってしまった。
「さぁできましたよ。素晴らしいわ、この手の服を着こなせる方はあまりいらっしゃらないの。服も喜んでいますね」
妙齢の彼女にニコニコとそう言われて、面映ゆくなる。
「できたか? ああ、良いな。じゃぁ行こう」
そう言って手を取られてエスコートされる。
服の代金はすでに支払われていたらしく、元着ていた服は後で取りに来ると約束して店を後にした。