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cell memory  作者: pz
1/7

Memory

人間。獣人。

それぞれに手を取り合い、時に争いながらも暮らす世界。

その世界で己を探す少年が居た。

少年は幾度と無く施された手術によって身体を弄られ、最早人間だったのか獣人だったのかさえ分からない。

少年は自分が何者なのかを探す旅をする。


記憶が導くままに。


Memory 0 - 0 《プロローグ》




暗く淀んだ空気が漂う部屋。それもとても衛生的とは言えない部屋。そこには少年が1人いた。

窓は灯り取りの小さな小窓があるだけで室内には灯りはなく昼夜問わずくらく小窓には鉄格子がはめられていた。室内は寝起きするのがやっとなスペースしかない。部屋の隅の床には直径10㎝ほどの穴がありそこに排泄する様になっていた。

周りは壁で出入口は小窓のある扉1つ。その分厚い扉の上にある小窓から時折誰のものかわからないよく響く耳障りな声が部屋に入ってくる。



ガチャガチャと部屋の外から金属の擦れあう音がして暫くするとギィィと扉が重々しい音をたて開いた。扉を開けたのは白い服を着た者達だ。


「D零29番、出ろ。」


その声に従い室内にいた者はおぼつかない足取りで部屋を出た。

2日に1度、白い服の者に別の部屋に連れていかれた。部屋を出ると細い廊下があり、壁にはびっしりと同じ様な部屋があり中から何かの気配はあるものの静寂に包まれていた。


白い服の者に連れられて歩き突き当たりの部屋に入る。そこはごちゃごちゃと物に溢れ細長い筒に小さな棒が付いた物や、透明な細長いコップの様な物が沢山並んでいた。


その部屋に行くと、毎回板に寝かされ押さえつけられた。そして腕に小さな棒の付いた透明な筒を使い肌に押しあてチクッと小さな棒が刺さり、中に赤い液体が流れていく。液体が筒にある程度溜ると、今度はそれを細長いコップに移し、事が終われば俺はまた小さな部屋に戻された。



「29番は中々のできではないか?」


「いや、私はAの14番の方が良いと思うが。」


「アレは駄目だ、凶暴過ぎる。」


「それを言うなら29番は感情は無く、理解力や諸々が欠落している。まして目は死んでいる様だ。アレでは使い物にならない。」


「上からの通達に寄れば、29番は廃棄されるらしいぞ。どうやら欠陥があるらしい。」


「ならば、アレは回収しておかなくてはな。」


「そうだな、早い方がいい。」


「そうなると、14番…いや、新品を用意しなければ…。」


「だが、ここに連れて来られる奴等ってのは、運がないねぇ。」



遠くで話している白い服の者達の声が、少年には小さくけれどはっきり聞こえていた。ただ、それを聞いたからと言って自分がどうなるのか、どうしたらいいのかなんて分からなかった。



男達の声はいつの間にかしなくなり一時の静寂が訪れる。人の気配はするものの人の動く気配はなく狂気に声を上げるものもいない。そこは静まり返っていた。そんな中ガチャガチャと静寂を掻き消す様に慌しく金属の擦れる音が響いた。ガチャガチャギィー。部屋の扉がゆっくりと開き男が1人息を殺し立っていた。


「出ろ!逃げるぞ。」


いつもの男達と似た白い服の男。けれど見慣れぬ容姿のその男は部屋の中の者の手を取ると手錠もつけずに部屋を出た。


「静かに、出来るだけ物音を立てるな。」


訳がわからないまま手をひかれ廊下を走らされる。薄汚れ、擦り切れ延びきった服が手足の邪魔をして走りにくいが男はそんな事はお構い無しにずんずん進む。

良く見れば、いつもの白い服の者ではなく、最近見るようになった奴だった。


「……。」


「お前…。いや、後にしよう。今はお前を此処から逃がすのが先。」


男は走りながら振り返り、何か言おうとしたようだが、結局何も言わなかった。


細い廊下を走り十字路を何度も曲がり階段を上がり時に立ち止まり時に全速力で走りただ男に引っ張られるまま進む。



「ハァ…ハァ…」


白い服の男は息を切らしながらも休もうとせず黙々と進みやがて一際頑丈な扉の前に立つと男は息を整えるのもそこそこに扉の脇にある文字盤を6つほどおした。するとガチンッっと音が響き頑丈な扉が男の手によって開けられた。その時何か目には見えない物が体毛を撫でる様に触れた。



「ハァ…。やっと外に出れたな。」


男は手を離すと、背伸びをし、大きく息を吸い荒れた呼吸を整える。


「どうだ?外の空気は?」


男は小首を傾け此方を見る。少年はよくわからないまま男の真似をして息を吸うとそこにはいつも嗅ぎ慣れているカビ臭く淀んだ空気は一切なく澄んだ空気とどこか懐かしい不思議な臭いがしていた。


ふと上を見上げると、薄暗い天井にキラキラと光る物が幾つも浮かんでいた。


「どうした?」


「…この部屋は広い…天井に何かついている…。」


上を見上げ指差しながら男を見ると男は眉間に皴をよせ目を潤ませる。しかし、直ぐに眉間の皴をとり今度は目を細くし口角を上げ柔らかい顔になり近付いてきた。


「ここは、部屋の中じゃない。外の世界だ。」


「…そと…?」


「あぁ、だから、天井には無い。上に有るのは空。光って居るのは星と言うんだ。」


「…そら…ほし…。」


「うん。ほら、あの大きな丸い奴。アレは月と言って、毎日少しずつ形を変えるんだぞ。」


「つき…。」


男の指差した先の空と言う所にある月は何と言っていいか分からないほど少年を魅了し、少しの間目が離せなかった。


「朝になると、今度は太陽ってのが出てくる。そうなると、明るくなって空は青く輝くんだ。楽しみにしとけよ。」


「…。」



「さて、最後の難関に行くぞ。」


男はまた手を取り歩きだし少し歩くと何もない所で立ち止まり眉間に皴をよせ前を見ている。


「此処には基地を取り囲むようにぐるりと侵入者や脱走者のための結界があるんだ。出入口は別の所にあるが、警備が頑丈でな。コレに無断で触れると、警報がなり、更に触れた物を感電させるようになっている。今から言うことを良く聞け。…っと、その前に。」


男は懐から布と封筒を取出し、少年の手にその布と封筒を握らせた。


「眼帯だ。外に出たら必ずそれを付けて左目を隠せ。出来るだけ外さずにいろ。大丈夫。俺が術をかけたからそれをしていても中からは外が見える。封筒は外に出たら人に見せればいい。」


話を聞きながら受け取った眼帯を見つめていると、男の手が伸びてきて顔に触れた。


「外からは獣毛があって見えないけれど、こんなに傷が…。継ぎ接ぎだらけだ……。アイツ等は運がないんだの一言で片付けるが、そんなのあんまりだよな…。」


「?!」


男の手に力が入り男の懐に引き寄せられた。少年と男がくっ付き、男は少年の背中に回し手に力を入れ抱き締めた。


小刻みに振りえる男の身体に、少年はどうしたらいいのか分からなくただ黙って立っていた。


「外にでたらお前は色々な事を学べ。色々な事をやれ。自分がしたい事を思い切りやれ。失った物を取り戻せ。そしていつか…本当の笑顔を見せてくれ。」


男の目からは幾つもの水滴が落ち、少年の獣毛は濡れていった。



「グスッ…すまんな。」


「……。」


男はまた柔らかい顔をする。少年はこんなにも世話しなく表情の代わる奴を見たことがなく、呆気にとられて、何も聞けなかった。


「さて、話の続きだ。俺は新米だが、此処の職員だ。だからこの結界に触れても感電死するほどにはならないだろう。そして、俺が一瞬だが術を使って感電しない空間を作る。俺が合図を出したらお前はソコから出て、外に出たら振り向かず走り続けて出来るだけ遠くに逃げろ。いいな!」


少年はコクリと頷き、男はそれを見て真剣な顔になった。



「いいか。行くぞ!」


男が手を伸ばすと何もない空にピシッ!っと弾く音が鳴り男の手が前に進むにつれバチバチバチと空に破裂音と凄まじい閃光が空間を切り裂く様に幾つも走る。


男が結界に手を触れた途端、閃光とともにけたたましいサイレンの音が鳴り響いき、緊迫した空気が立ち込めた。


「っ!ッウオォオォオォオォー!!ヴリャァアァアァー!」


男は暴れ狂う閃光に呑まれ顔を歪め、手や顔から血を流していった。

壁を押すような格好で、ただ顔を苦悶に歪めるだけだった男は、それでも段々と男の触れている所から青い閃光が色を変え、ジグザグの光が消えていく。そして男の直ぐ脇に穴が空きぐんぐん広がっていく。


「ウオオオォォォ!!今だ!イケェェ!!」


男の合図と共に穴は人一人通れるほど広く開き少年はその穴に飛び込んだ。


バチーンッ!


少年が通り抜けるとたちまちその穴は閉じ、男は弾かれて地面に倒れこんでしまう。空かさず振り向く少年は、けれど男が出す鋭い気配に近付く事を臆させた。



「あ…。」


「何してる!早く行けっ!お前はもう自由だ!何にも縛られる事はないっ!行けっ!奴等に見付かる前に!急げ!奴等に捕まるなよ!お前は…ひ…うん…なんかじゃ…ぃんだ…。」


男は言葉途中で地べたに寝そべったまま動かなくなってしまい、そのまま応答は途絶えてしまった。少年はそんな男を少しばり気に掛けたが、男の言葉と迫りくる夥しい気配にその場から全速力で走り去った。



「…ヒウン…。」


あの男が最後に言い残した言葉…。途中で聞き取りにくくなってしまったけれど、確かに聞こえた最後の言葉。


ヒウン…。



その言葉がずっと頭に残っていた。




その後、白い服の奴等や火薬の匂いのする奴等が追ってきたが、月が黒い靄をかぶり空に広げてくれたためにあたりを真っ暗に包んだ。おかげで奴等は少年を見失いそのすきに少年は逃げ果せることができたのだった。



ひたすら道無き道を走り、たどり着いた塩辛い水が沢山ある所から水に浮かぶ物の荷物に紛れ、乗り込むと息を潜めて過ごした。

それから偏狭の土地に着いたのは月と太陽が5回交互に出てからだった。




少年は月が現れ人の気配が無くなるのを待ち、それを下りまた走っり、人の気配から逃げる様にして山野へ駆け込んだ。

その後どれだけ走ったのかも分からなくなった頃、少年の身体は急に動かなくなり倒れた拍子に意識を失ってしまった。



再び目覚めた時、少年は一人の男に助けられた事を知り、暫しの間、共に暮らす事となるのだった。


やかで旅に出るその日まで。






少年の成長を見守ってください。


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