第十一話 とても大事な難問
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「なんだ?」
俺は、音のした方角を見た。
何かが爆発したような音だ。
「まさか……、しまった! ぬかった!」
目の前の大蜘蛛が、途端に慌て始めた。なんなのだろうか、面倒臭い。
もう殺していいかな?
「どうしたのですか?」
サラが律儀に聞いた。
「ぐっ、動け! 某の体!」
聞いちゃいなかった。
どうやら、大蜘蛛は動かない体を、無理矢理にでも動かそうとしているようだ。
大蜘蛛の体全体が、プルプルと揺れていた。
「……取引しませんか?」
その姿を見て、サラが思いもよらない事を言った。
「取引だと?」
「はい。あなたの体を動かせるようにしてあげます。そのかわり、眷属になるのです」
「眷属?」
「はい。簡単に申しますと、ご主人様の支配下に収まるということです」
そう言って、サラは俺に目線を向けた。
つられて、大蜘蛛もこちらを向く。
八つの眼が、こちらを凝視する様は、正直怖い。
「……これの支配下に入れと?」
「はい」
「……」
「いいのですか? 急いでいらっしゃるのでは、ないのですか?」
「……仲間には絶対に手を出さないと誓ってもらえるのなら」
「契約成立ですね」
俺抜きで、契約とやらがトントン拍子に決まっていく。
改めて、大蜘蛛を見る。
体は、俺の身長よりもかなり大きい。足と腹部には、黄金色と黒色の横縞模様があり、体のあちこちからは、白い小さな毛が生えている。足は、比較的に細長く、腹部は、綺麗に丸まっている。
記憶にある蜘蛛で一番近い物は、コガネグモだろう。しかし、このような色合いはメス特有の物だったはずだ。大蜘蛛の声は、渋いおっさんの声だったから、おそらく、オスだろう。記憶と一致しないのは、やはり世界が違うからか。
まあ、とにかく結構、気色悪い。はっきり言って眷属にしたくない。というか、血を吸われたくない。
「サラ、俺、こいつ眷属にするの、反対なんだけど」
俺は、大蜘蛛に聞こえないように小声でサラに話しかけた。
「というかさ、こいつらの事なんてほっとけばいいじゃん。面倒臭い。何やる気か分からないけど、俺は協力しないよ」
「協力してくださったのなら、私の下着の色を決める権利を差し上げると、言ってもですか?」
「なにをしている。さっさと俺の血を飲め。急いで現場に向かうぞ」
俺は、大蜘蛛の口の中に、自ら傷をつけた手を突っ込んだ。
「な、何を、グオオオォォ!! 体の底から元気が湧いてくるぞぉ! それに、体の傷もみるみるうちに治っていく! なんだこれは!」
あ、ちなみに、今回は眷属化だけで、鬼人化はしない。
だって、考えても見てほしい。蜘蛛は、どこから糸を出すのかを。
そう、尻だ。正確に言えば、その近くにある出糸突起と呼ばれる部分から糸を出すらしい。まあ、どちらにせよ、大変よろしくない絵図になるのは、想像に難くない。
もちろん、鬼人化しても別の場所から糸を出せるようになるのかもしれない。だが、そうではないかもしれない。
どちらにしろ、その糸で作った服を着るのは俺達だ。ならば、少しでも嫌な思いをする可能性を削るべきだ。
それにしても、俺の血に回復効果があるとは知らなかった。
いや、回復どころか、どことなく強くなっているようにも見える。
「むぅ……、これなら! 皆、今いくぞ!」
大蜘蛛は、そう叫ぶと爆発音の聞こえた方向へ、走り出した。
俺も、サラも、その後を追う。
俺は走りながら、二つの重要な事を考えていた。
一つは、サラのやる気だ。
サラは、ここまで自分から積極的に何かを行うことは無かった。サラは基本的に、なにをするにしてもまず、俺の意志を聞いてきた。俺の事を考え、俺の為に行動してきてくれた。
しかし、今回は俺抜きに契約とやらを行い、更には、俺が嫌だ、と言った事を条件付とはいえ撤回させた。
なにか、ある。
大蜘蛛の状況を察して助けてやりたくなったとか?
大蜘蛛は、おそらく守る者がいるのだろう。彼奴らの仲間とか言っていたし、襲撃を仕掛けている者達がいて、そいつらから誰かを守るためにここで敵を待ち構えていた。しかし、襲撃者は何らかの方法でここを素通りし、皆とやらの方に攻撃を仕掛けた。さっきの爆発音はその襲撃の音。そう考えれば、つじつまが合う。
そして、その状況にサラが同情した?
……多分、違う。そうだったら条件など出さず無償で助ければよい。
何か、もっと別の意図があるはずだ。
恩を売るつもりとか?
今回の蜘蛛達のピンチを助け、半永久的に糸をもらい続けるつもりなのか?
しかし、そうなると大蜘蛛を眷属化した意味が分からない。大蜘蛛の糸は、ここら辺に張り巡らされている糸と同じもののようだ。つまり、俺たちが求めているような糸では無い。だから、糸目的では無いはずだ。
……わかんね。
まあ、いいや。後で聞けば答えてくれるだろう。
それよりも、今はもう一つの最優先事項を処理しなければ。
それは、サラのパンツの色は、何色にするのが一番か、という議題だ。
イメージとしては、大人な黒か? いや、しかし清楚な白というのも捨てがたい。彼女の髪の色と合わせて赤系統でせめてもいいかもしれない。
まあ、メイド志望なのだからガーターベルトは、はずせないよな。つまり、それに合う色ということで……薄いピンク? いや、ガーターベルトの色や種類にもよるか。ということは、ガーターベルトの色も考えないといけないということになる。
う~ん。これは、かなりの難問だ。
着くまでに、考えがまとまるだろうか?
今回、短くてすみません。