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廃棄予定の世界で  作者: 生切 メイジ
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第九話 【蜘蛛の楽園】

蜘蛛嫌いの人、少し注意です。


 さて、なぜ俺たちが【蜘蛛の楽園】なる場所に向かっているかと言えば、それはすべて服のため、そして、布団を作るためである。

 人間から剥ぎ取った服は、一着ずつしかない。四次元ポーチの中にも無かったらしい。着替えをなぜ持っていなかったのかは分からないが、無い物は仕方ない。この三日間、着続けているためはっきり言って少し臭う。


 更には、服は彼らに合わせて作られているためサイズも趣味もあっていない。サラの穿いているスカートは、かなり丈が短く、少し動いただけで色々見えてしまう。俺としては眼福ではあるのだが、サラは気に入らないらしい。下着も生理的嫌悪感をガマンして穿いている状態なのだ。つまり、服の入手は急務なのだ。


 もう一つの理由の布団は、俺の要望だ。

 あのオハナシじんもんの際、俺の目標――ぐうたらできる環境を作るという目標――をサラに話していた(けっして、言わされたのでは無い、無いったら無い)。

 サラは、大いに呆れたようだったが、最終的には俺の意志を尊重することにしたらしく、やらなければならないことを考えてまとめてくれた。

 布団の入手はその中で、最重要任務(俺調べ)であった。


 目的地である【蜘蛛の楽園】は、サラの村で絶対に近づいてはいけない場所として語り継がれていたらしい。曰く、足を踏み入れたが最後、絶対に生きては帰れないとか。

 しかし、そこは、とても肌触りがいい丈夫な糸が取れるという話だった。

 なんでも、とある冒険者がそこに足を踏み入れ、幸運にも糸を持ち帰ることができたことがあるらしく、その糸で作った服を時のシエル帝国皇帝が、金貨十枚で買い取ったことがあるらしい。

 その服は、魔法によるエンチャントがかけられていたために、それ程の値段になったらしいが、「魔法がかけられていなくとも、金貨十枚で買ったかもしれない」と皇帝が言ったという逸話が残っている。


 それほど、着心地がよく、また丈夫な糸なんだとか。

 実際に、その服を着ている時に切られたことがあるそうなのだが、服も皇帝自身も無傷だったという。

そんな糸が手に入ると聞かされては行くしかない。

 サラも、実際にその場所に行くのは初めてだとかで、情報は少なかったが、まあ、【蜘蛛の楽園】という名前なのだから蜘蛛がたくさんいる場所なのだろうと予想がつく。




「いや~、楽しみだな~」


 俺は、ついに布団の素材が手に入るということで、浮かれながら歩いていた。

 いや、もしかしたらスキップしていたかもしれない。


「落ち着いて下さい。ご主人様。これから行く場所は、情報が少ないのです。慎重に行動するべきです」

「大丈夫だって、俺の身体能力は高いし、サラは普通に強いし、何も心配いらないよ」

「……身体能力だけ・・が高いから問題なのです」


 サラが、ぼそりと何か言っていたが、よく聞こえなかった。聞こえないということにした。

 そのようなことを喋りながら、道なき道を進んでいると、ト○ロが出てきそうな木のトンネルを見つけた。聞いていた通りならば、ここが【蜘蛛の楽園】の入り口だ。

 そのトンネルは、ほんの少しだけ日の光を浴びてはいたが、穴の奥の方は真っ暗でまったく見えず、まるで俺たちを飲み込もうとしている化け物のようにも見えた。

 俺は、無意識に、ごくりと唾を飲み込んでいた。

 浮かれていた気分は、さすがに吹き飛び、顔がひとりでに引き締まった。


「……行こうか」


 俺は、ゆっくりとそのトンネルの中に入っていった。

 入った直後は、周りは暗くよく見えなかったが、すぐに目が慣れ、日の光の元にいるように見えるようになった。何も言わずともついてくるサラも同様なのであろう。

 しばらく歩いていると、開けた場所にでた。そこには、記憶の中でもよく見た物があった。

 そう、蜘蛛の糸だ。

 それが、大量に木と木の間や地面に縦横無尽に張り巡らされていた。やはり、【蜘蛛の楽園】というだけあるらしい。


「……おかしいですね」


 サラが、あたりを見渡しながらそう呟いた。


「おかしい? 何が?」

「静かすぎます」


 確かに、不気味なほど静かだった。さっきは、さすが【蜘蛛の楽園】と思ったが、それにしては、蜘蛛が一匹もいない。どころか、生き物がいる気配がしなかった。


「……何かあったのかな」

「分かりません。しかし、油断しないようにして下さい」


 サラの口調も心なしか緊張していた。


「さっさと糸を回収して、帰ろうか。それで、この糸でいいの?」


 俺は、地面にある糸を指差して言った。

 サラは、その糸を触ると首を振った。


「いえ、おそらくこれではありません。もう少し奥に行ってみましょう」


 俺は、溜息を一つつくと、警戒しながら奥に進んで行った。

 しばらく、進んだ時それは起こった。


「うわっ」


 ズボッ、という音と共に俺の方脚が糸に埋もれていった。どうやら、穴が糸で隠されていたらしい。


「何をしていらっしゃるのですか。遊んでいる場合では無いのですよ?」

「遊んでないよ!? というか、ちょっと手貸して」

「はぁ……、仕方ありませんね」


 サラが、俺の手を取ろうと近づいてきた。その時、どこからか一本の糸が飛んできた。その糸は、どういう物理法則で動いているのか分からないが、俺とサラを一緒に拘束しようとしてきた。


「……っ!」


 サラは間一髪で避けたが、動けない俺はもちろん、糸にグルグル巻きにされた。周りがまったく見えない白の世界で、俺はそれを聞いた。



 キシャアァァァアァァァァァァアァァァァァァ…………。



 なんだ? と思う間も無く、糸の外側から強烈な圧迫感を受けた。しかし、すぐにその圧迫感は無くなり、ドスンドスンと大きな物が暴れまわる音がした。

 その後も、音はあちこちを移動していった。サラの声も聞こえた。そして、最後に悲鳴のような声? が聞こえ音は消えた。

 なにがどうなった? と思いながらじっとしていると、糸がほどけていった。


「大丈夫ですよね? ご主人様」

 

 サラだった。

 

 糸をすべてほどいてもらい、手も貸してもらってようやく動けるようになった。

 目の前には、八つの脚と八つの目を持った大蜘蛛が倒れていた。おそらく、あの大蜘蛛が襲ってきたのだろう。

 大蜘蛛は、どうやら死んではいないようだが、ピクピクと痙攣を起こしている。あれでは、すぐには動けないだろう。


「助かった、助かったが……お前、俺を見捨てよな?」

「二人とも捕まるより、一人でも逃げた方が良いですから」


 糸が迫ってきた時、一瞬の躊躇も見せず俺を置いて糸を避けたサラが、悪びれもしないでそう言った。実際その通りではあるのだが、何とも釈然としない。


「そんなことよりも、ご主人様? 何か言うことがあるのではありませんか?」

「……助けてくれてありがとう」

「よくできました」


 くっそ、やっぱり何か釈然としない!


「それで、その蜘蛛どうして生かしているんだ? また、襲われる前に殺さなくていいのか?」


 俺は、大蜘蛛の方に向きながらそう言った。


「いえ、これには聞きたいことがありますので……起きて下さい」


 サラは、大蜘蛛の脚の一本を無造作に蹴った。


「聞きたいことって言っても蜘蛛なんだから、喋るわけない……」

「……ぅあ? ここは?」


 聞いたことが無い声が大蜘蛛から聞こえた。


「…………喋った?」

「何をおっしゃっているのですか。蜘蛛なのですから言葉を発するのに不思議は無いでしょう」


 なにそれ、俺の知っている蜘蛛と違う。


 私の中で、蜘蛛の鳴き声のイメージは、キシャアァァァ……、なのですが蜘蛛って鳴かないらしいですね。

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