スケルトンなわたし
気づいたら異世界トリップっていうのはまぁ、よく聞くお話。
だけど、気づいたら瀕死の重傷でそのまま異世界で客死になってそれで終わるのならまだしもこれまた気づいたら骨だけで動く魔物スケルトンになってしまったというのは斜め上過ぎる展開だと思いますわ~~~~~~~~~~~~~~~!!
はっ!ごほんっ!
失礼いたしましたわ。お初にお目にかかります。わたくし、生前は地球で女子高校生二年目を謳歌しておりました加々美 朝。死後は異世界にて骨のみの魔物(カタカタ骨が鳴ってうるさいのが難点)スケルトンをさせていただいております、アサと申します。以後よしなに。
そんなジェットコースター人生なわたくしでしたが幸いなことにこの異世界にてよい雇い主に拾っていただき日々、ご主人様のお屋敷にて誠心誠意お仕えさせていただいておりますの。
「骨。紅茶の用意をお願い………」
『カタ!カタカタ!カタカタカタ!(はい!畏まりましたわ!ご主人さま!)』
気だるい雰囲気のギリギリ過ぎるスリットの入った濃紺のドレスを妖艶に着こなすナイスバディー!な女性が心底だるそうにわたくしにそう言い付けるとそのまま色気を振りまきながら出て行かれます。
あ、今のがわたくしのご主人様です!人間の美女にしか見えませんがれっきとした高位の魔物で種族名はサキュバスだそうです。
ご主人様の種族は美人や美形がすごく多いそうなのですよ!すごいですわね!美形一族!
初めてご主人様に出会った、というより骨になってパニックになっているわたくしを拾ってくださった時のご主人様はパニックになっていることも忘れるぐらいお美しかったですわ!
どれぐらい美しかったかというとですね!
…………っとうっかりお茶の用意をするのを忘れるところでしたわ。
しばし、お待ちくださいませ。
え?そのピンクピンクした怪しい粉末は何か?ですか?こちらはご主人様が特別なお客様にのみに出される特別なものだとお伺いしておりますわ。
………そういえば、これを使用される時は何故だかわたくし、部屋から出てはいけないときつく言いつけられているのですけど何故なのでしょうか?
え?その薬を使う相手ですか?ええ、わたくしが知る限り男性の方ばかりでしたは?え、はい、夜ですけど、なにか?え?あれ?どうしてそんな赤とも青とも付かない顔色に?
え?え?え?これからも部屋を出てはならない?もちろんご主人様の言いつけを破るなんてことしませんが?あ、泣かないでくださいませ!出ません。出ませんから!
ふう………ようやく泣き止んでくださいましたね。一体何でそんなに泣いて………あああ~~追求しませんから。泣くのは止めてくださいませ!
ご主人様にお茶もお出しいたしましたし、お話の続きでもいたしましょうか。
人間に戻りたいか、ですか?
そうですね。怒涛の展開がこれでもかと続いたのであまりそんなことを考えたことはなかったのですが………わりと骨な自分に慣れてしまった感がありますし、いまさら肉がついても周囲を驚かせるばかりなきがしますからね………それに中途半端に肉が付いてうっかり動く死体にでもなったらそれこそ一大事ですよ。それだけは絶対阻止ですわ!ええ、乙女として!
骨はいいのかって骨か腐りかけか二者択一だったら骨を選びますわ!
それにわたくし骨密度には自信がありましたし。肉(おもに胸)は貧相でしたけど(ぼそ)。
なんでもございませんわ!聞き返さないでくださいまし!
ああ、もう!お話はこれまで!お仕事に帰らせていただきますわ!
カタカタと骨を鳴らしながら去っていくメイド服姿のスケルトンをあたしはガシガシと鉛筆で頭をかいて見送った。
人間領からうっかり魔族領に迷い込んでしまったあたしだったが運良く、人に好意的な魔物に拾われたらしく衣食住と命の保障を得た。
そうなると滅多にお目にかかれないあれやこれやが気になるのは新聞記者魂というもので。
あれやこれやと聞いて回っていたらとてつもなく珍しいものを見つけてしまった。
滅多にいないといわれるスケルトン。
おもに未練を残して死んだ人間がなるといわれている魔物だが綺麗な骨だけのスケルトンが生まれるよりも腐りかけで動き出す動く死体の方が圧倒的に多いためあんな綺麗に肉が落ちたスケルトンなんて滅多にお目にかかれない。
おまけに死体系の魔物は意識が希薄で本能で動いていることが多いのにあのメイドスケルトンは自我もしっかりしている上に理性も知性もあるようだ。
話してみてびっくりな異世界の人間だったようだし、ここまでネタを詰め込んだ骨はそうはいない。
「さてはて、特大スクープの臭いがしますよ!」
スケルトン密着取材を決めたあたしはその後、色々あって魔界で初の新聞社を立ち上げそこの初代編集長となり様々な新聞を出しながら魔族領に骨をうずめることになるのだがそれはずっとず~~~~っと先の話。
「ちょっと待ってそこの骨のメイドさん!もっと色々お話聞かせてよ!」
今はまぁ、とにかく機嫌を損ねてしまった骨のメイドさんを宥めましょうか!