鍛錬
翌日、何事もなく予定通り移動を進めた彼らは、いつも通り野営の準備をし始める。
渡り戦士と皇子が準備を終える頃に、護衛隊長が五人の護衛を伴って訪れた。
「護衛隊所属、アルギルスです」
「同じくイルレオンです」
「アルジェドです」
「アラムです」
「カルナギウスです」
順番に名乗って礼をする。
「とりあえず、この五人からよろしくお願いします」
「確かにグレンと背格好が似てるな」
「ああ。これなら一緒にいればかなり誤魔化せるだろう」
アルライカとソイエライアが五人を品定めして頷く。
「じゃあ、今日はあたしが飯当番だから、男同士で頑張っといで」
アウレシアに送り出され、天幕からほんの少し先の開けた場所に移動する。
「はじめるか」
アルライカが剣を抜く。
「様子見だから、グレンと、あと二人かかってこい」
「では、俺とレオンが行きます」
アルギルスがイルレオンとともに前に出る。
「おう。護衛の腕前見せてもらうぜ」
そうして、些か厳しすぎる稽古が始まった。
アルライカは三人相手にしても全く動じず、あっという間に三人の剣を叩き落す。
「つ、強い……」
信じられないように、イルレオンとアルギルスが呟く。
イルグレンは前にも経験しているが、やはり面白くない。
「ライカ。稽古にならん、少しは長引かせろ」
そういわれて、ぽりぽりと頭をかく。
「面倒だな。じゃあ、もう一度かかって来い」
気を引き締めて、もう一度イルグレンが向かっていく。残りの二人も皇子に遅れて隙をつこうと両脇に回り込む。
今度はアルライカが傍目に見てもわかるほど手加減したので、ある程度稽古としては長引いた。
しかし、三人が汗だくで息も絶え絶えになっているというのに、アルライカは全く疲れた様子も見せていない。
「よし、次来い」
残りの三人が最初の三人と交代する。
息を整えながらも、今度はアルライカの動きを観察する。
相変わらず惚れ惚れするほどの戦いぶりだ。
三人は決して弱いわけではないのに、アルライカにかかると赤子の手をひねるように簡単に翻弄されてしまう。
戦士としての見事な戦いぶりに、改めて強くなりたいと思わせる。
「よし、最後は俺とだ。五人まとめてかかってこい」
残りの三人が動けなくなる前に、ソイエライアが立ち上がる。
イルグレンを除く五人が剣を構える。
「グレン、よく見とけ。お前の体つきじゃ、俺よりもソイエの戦い方のほうが合ってる」
「わかった」
先ほどのアルライカのように、ソイエライアも強かった。
五人を同時に相手にしても、全く隙がない。
後ろに目がついているかのように的確に動きを捉え、剣先を触れさせることすらない。
何より、動きが速すぎる。
多分ソイエライアが本気を出したら、あっという間にこの稽古も終わっているに違いない。
わざと長引かせるために、剣以外の手技や足技は使わない。
師としても上出来だ。
アウレシアの戦い方とも共通する優雅な動きを、イルグレンは食い入るように見つめた。
「今日はここまでだな」
ソイエライアの声で、その日の稽古が終わりを告げる。
「――あ、ありがとう……ございました」
息も絶え絶えなアルギルスの声が聞こえる。
残りは草の上に倒れこみ、満足に動けない状態だ。
「まあ、はじめにしちゃ頑張ったほうだな」
アルライカが座り込んだまま革袋の水を飲んだ。
それから、栓をしてソイエライアに投げてやる。
軽々と受け取ったソイエライアも、残った水を飲み干す。
「ああ、いい腕だ。この間の刺客より、筋がいい。東の護衛は質が高いな。護衛隊長仕込なら、ソルファレス様とも手合わせをしてみたいもんだ」
疲れたふうもなく、アルライカとソイエライアは座って話し込んでいる。
さすがに今日は護衛の稽古が目的なので、最初しか参加させてもらえなかったイルグレンは、体力的にはまだまだ大丈夫だったので、こてんぱんにやられて転がっている護衛達の元へ行った。
「どうだ、ライカとソイエは強かっただろう?」
気さくに話しかけられ、へとへとの五人が慌てて体勢を整えようとする。
「お、皇子様」
一番ましなアルギルスが剣を支えに立ち上がろうとするのを止める。
「よいのだ。座っていろ」
「は、はい――では失礼します」
なんとか五人全員が体を起こして座り込む。
イルグレンもそこに座り込む。
「命令だ。私を皇子と思うな。そのように扱ってもならぬ。渡り戦士達のようにグレンと呼べ」
「そ、そんな――」
「皇子などと呼ばれたら、近くに刺客がいたらすぐばれてしまうではないか。別に敬語も使わなくてよい。渡り戦士達のように話せ」
さすがにみんなは慌てる。
「それは無理です!」
「無理でもやれ!」
「せ、せめて丁寧語だけは許してください!」
「――では、全員に使え。それで誤魔化せるだろう」
「は、はあ……」
全員が弱りきったように顔を見合わせる。
稽古で翻弄され、今度は皇子の言動にも振り回されそうな予感に、彼らは慄いた。
そして、その予感は当たらずとも遠からず、現実のものになりつつあった。




