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暁に消え逝く星  作者: ラサ
第五章

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43/67

折合


「――落ち着いたかい?」


 互いの熱を吐き出した後、呼吸が整ってからアウレシアは問うた。

「ああ。――その、すまなかった」

 言い淀むイルグレンに、アウレシアはくすりと笑う。

「何で謝るのさ」

「自分でもよくわからないが、こんな時に、こんな場所で、不謹慎だと思って。しかも、お前を乱暴に扱った」

 あくまでも真面目な皇子の言いように、アウレシアはもう一度小さく笑う。

「仕方ないよ。あんた今日が初めてだろ、実戦は。戦闘の高揚感が高まると、男はよく、そうなるらしいし」

「そうなのか? 女は違うのか?」

「女は、状況にもよるかな。でも、別に無理矢理でもなかったし、乱暴でもなかったから、謝らなくていいよ」

「そうか――よかった」

 ほっとしたように笑うと、イルグレンは、今度は優しく、アウレシアを抱きしめた。

「レシア」

「ん?」

「人を殺すと言うのは、嫌なものだな」

「――そうだね」

「だが、私は嬉しくもあったのだ」

 言いたくなかったが、全てを話してもおきたかった。

 この女戦士なら、自分の全てを受け入れてくれるように思えたからだった。


「命を奪っておいて、喜んだ。自分の身を自分で守れることを。もう、我慢しなくていいことを。怒りを、押さえずに剣を揮えることを」


 怒りに任せて、全てを壊してしまいたい衝動。

 感情の赴くままに、全てを巻き込んで、めちゃくちゃにしてしまいたい衝動。

 今まで自分だと思っていたものは、たやすく揺らいだ。

 なす術もなく飲み込まれ、混乱した。

 同時に、自分というものがわからなくなった。


 こんな激しい衝動が、自分の中にあったとは。


「私は、おかしいのか? だから、こんなことを思うのか?」


 アウレシアは両手で優しくイルグレンの頬を引き寄せる。

 触れるだけの優しいくちづけが、ささくれだった心を慰撫する。

「おかしくなんかないよ。人間なら、誰でも一度くらいそういう気持ちを持つもんだよ。あんた、ずっと我慢してきたんだろ?」

「――そうらしい。我慢していたつもりはなかったが、今日、人を殺して、初めて気づいた」

 近すぎる距離で、アウレシアは微笑った。

「まったく、幸せなんだか不幸なんだかわかんない皇子様だね。我慢しても、いいことなんてないよ。もう少し我儘言いなよ。皇子様って、普通そんなもんだろ。付き合ったげるからさ」

「お前といるときは、我慢しなくてもいいのか?」

「いいよ。あんたの我儘なんて、かわいいもんさ」

 軽くあしらわれて、イルグレンはむっとしたような表情になる。

「子ども扱いするな」

 そうして、アウレシアの唇を塞いで、自分の上にいた身体を草の上に押し付ける。

「では、もう一度だ。今度は、私が上で」

 アウレシアは笑ってイルグレンの首に腕を絡めた。

「いいよ、今度は、あんたが上で」



 ソイエライアの気配が近づいてくる。

 茂みをかき分ける音が大きく聞こえるのは、わざとだろう。

 その頃には、身支度をすでに済ませていたイルグレンとアウレシアは、立ち上がり、そちらへと向かう。

「ソイエ。どうだった?」

「大分遠くまで行ってみたが誰もいない。今日のところはこいつらだけらしいな。戻るぞ」

 そこで、イルグレンがソイエライアの腕を掴む。

「どうした、グレン?」

「ソイエ、その――ありがとう」

 礼を言われて、ソイエライアはふっとやわらかく笑った。

 先程のように優しく頭を撫でられる。

 ソイエライアには、子ども扱いされても不思議と腹は立たなかった。

「落ち着いたな。もう平気そうだ」

「ああ。次は――大丈夫だ」

「初めて人を殺した夜は、俺も動揺した」

「ソイエもか?」

「ああ。お前よりもっとひどかったかもな。泣き喚いてみっともなかった」

 ソイエライアの慰めが、イルグレンの心に素直に届いた。

「だが、自分の気持ちには、結局、自分で折り合いをつけるんだ」

「皆、そうしているのか」

「ああ」

「わかった、私もそうする」

 素直なイルグレンに、ソイエライアは笑った。

「上出来だ」




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