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暁に消え逝く星  作者: ラサ
第五章

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衝動


「――」

 最後の一人を斬ってから大分時が過ぎている。

 それなのに、息は整わず、鼓動は早鐘のように熱く脈打っている。

 うまく息ができなかった。

 見下ろした視線の先には、自分が斬り殺した刺客達が転がっている。

 目を閉じている者もいれば、大きく見開いたままこと切れている者もいる。

 不自然に投げ出された身体。

 未だ流れる血。

 衣服についた返り血の臭いが、時折ひどく鼻につく。


 初めて、命を奪った。

 この手で。


 肉を斬る感触が、まだまざまざと残っている。

 肉を斬る際に、剣が骨にぶつかった感触も。


「グレン」


 名を呼ばれて、身体が震えた。

 ゆっくりと振り返る。

 アウレシアとソイエライアが自分を見ている。

「……レシア」

 言葉は、震えて漏れた。

「グレン、しっかりしな。呆けてる場合じゃない」

「――レシア」

「あんたは生きるために殺したんだ。悪いことじゃない。あんたは最後まで生き残らなきゃ。そうだろ」


 そうだ。

 生き残らねば。

 自分の代わりに命を落とした母の分まで。


 そう言い聞かせて、今まで生きてきた。


 だが、そのせいでもっと多くの命が失われるのだとしたら?


 何のために生き残る?

 誰のために生き残る?

 どうしてそれが、自分であらねばならないのだ?

 自分が生きるために死んだこの刺客達より、自分に生きる価値があるのか――?


 答えの出ぬ問いが、頭の中で繰り返し自分を苛む。

 そして、殺しながら、気持ちは高揚していた。

 命を奪うことを躊躇いながら、もう一方で自分の命を一方的に奪おうとする者に対する、ずっと長く溜めていた怒りが、昇華されたような――そんな高揚感を感じたのだ。

 そう。

 自分はずっと怒りを感じていた。

 命を狙われ続けるこの境遇に。

 自由に生きていけない身分に。

 だから、嬉しかった。

 我慢しなくていいことが。

 だから、喜んだ。

 怒りのままに、人を殺せたことを。

 そんな自分が、どうしようもなくひどい人間に思えた。

 それまで、不満など感じたこともなかったのに。

 生きていられるだけでありがたいと思っていたのに。

 心の奥底では、全く違うものを抱えていたのだ。


 産まれたことを感謝していた。

 生きていくことを呪っていた。

 そのままでいたかった。

 全てを破壊したかった。

 生きたいと切望した。

 死にたいと絶望した。


 相反する感情に、混乱する。

 息ができない。

「レシア――」

 握っていた剣が落ちる。

 アウレシアの身体を抱き寄せ、溺れる者がするように、しがみついた。

「グレン、大丈夫だよ」

 抱きしめ返してくれる腕を感じる。

 身体の震えは止まらない。

 自分ではどうにもならない衝動に、ますますアウレシアをきつく抱きしめる。

 横から、ソイエライアの声がかかる。

「レシア、周りを見てくる。一時間で戻る。その間にグレンを宥めとけ」

「わかった。ありがと、ソイエ」

 ざっ、と茂みをかき分ける音がしてソイエライアの気配が遠ざかる。

「グレ――」

 言いかけたアウレシアの唇を、己のそれで塞ぐ。

 舌を絡めると、すぐに応えてくれるその感触に、何度も求める。

 くちづけたまま、二人は動いた。

 アウレシアの背が、木の幹にぶつかる。

 しかし、そこでアウレシアは体勢を変えて、イルグレンの背を幹に押し付けた。

 そのまま、ずるずると下がって座り込むイルグレンの脚の上に跨る。

「レシア?」

「今日は、あたしが上だよ」

 そうして、覆いかぶさるようにイルグレンの唇を塞いだ。

 一瞬戸惑ったが、目の前の温かく柔らかい肌の感触に、熱に浮かされたようにイルグレンは夢中になった。



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