実戦
木々の間を縫ってやってくる男達は、皆覆面をし、顔を隠していた。
十人以上は確実だ。
「そこにいろ」
ソイエライアが先に前に出る。
「グレン、ソイエが言ったように、どこか斬るなら確実に身体の真ん中を一撃で。腕や脚は無駄だよ」
「なぜだ?」
「刃に血や脂がつけば、斬れにくくなる。そうなったら、骨のない下腹を突くしかなくなるからさ」
生々しい言葉で、にわかに状況が現実味を帯びる。
これはお遊びでも稽古でもない。
生死をかけた戦いだ。
剣を持つ手に力が入る。
ソイエライアはすでに三人、走りざまに斬り捨てた。
今は四人を同時に相手にしている。
残りがこちらへ向かってきた。
二人の周囲を取り囲む。
「後ろは気にしないで、前の敵だけ斬りな。後ろはあたしが斬る」
「わかった」
一人目の攻撃を右にかわすと、かわしざまに脇腹に剣を滑らせた。
衣服と一緒に、肉を斬った。
思ったより柔らかで生々しい感触にぎくりとする。
だが。
休む暇もなく次の刺客が迫ってくる。
剣を受け止め、アウレシアのように力を流して横によける。
相手が力加減を計れずに体勢を崩してよろけると、その背中を斜めに斬り捨てる。
くるりと振り向きざまに別の男を狙う。
剣は受け止められたが、その素早さに驚いているようだった。
一人残さず殺さなくてはならない。
初めての戦闘に、イルグレンはやがて没頭していった。
イルグレンの戦いぶりに安堵しつつ、アウレシアは確実に刺客を足止め、倒す。
取り囲む敵が、一斉にイルグレンに向かわないために、長剣とともに短剣も使い、一度に二人の相手をする。
斬り合って気づいた。
刺客の型は、東のものとは違う。
西の――?
どういうことだろう。
追手は東からではなく西から来たということは。
まさか、サマルウェアからの刺客なのか。
「くそっ、強い」
「女を先に捕まえろ」
アウレシアはさらに驚いた。
自分を捕まえて、どうするつもりなのだ。
狙っているはずの皇子が、目の前にいるのに?
アウレシアは向かってくる刺客を斬り捨てながら、確信した。
イルグレンを狙っているのではない。
それどころか皇子だと気づいてもいないのだ。
「好都合ってもんだ」
低く呟いて、アウレシアは思い切り剣を揮った。
最後の一人が倒れたとき、アウレシアはイルグレンへ目を向けた。
「グレン、怪我は?」
「ない。大丈夫だ」
振り返らずに、イルグレンは答えた。
肩が揺れて、息が上がっている。
周りを見れば、死体だらけだ。
生きている気配はないか見回すと、視界の端に、動いているものを捉えた。
逃げようとしたのか、茂みへと這って向かうところの男の脚を、戻ってきたソイエライアが踏みつける。
それから、身体を引き上げ、手近な木の幹に押し付けた。
血で濡れた腹部を押さえて、男は呻いた。
「脇腹を刺されたんだ。死ぬまでにはまだ時間がある。その前に、懺悔してから冥府へ行け」
低く冷たく、ソイエライアの声が響く。
「誰に雇われたか言え」
「――」
ぎり、っと奥歯を噛みしめる音がした。
「!?」
ソイエライアが咄嗟に顎を押さえたが遅かった。
刺客の身体が前のめりに傾ぐ。
「くそっ、毒を飲んだ――」
刺客の男の唇から、血が滲み出していた。
ソイエライアはこと切れた男の身体を乱暴に押しのけ、訝しげに呟く。
「こいつら、皇子の顔を知らないのか?」
「そうらしいね。目の前にいたのに、気づきもしなかったよ」
「確かめてから襲ってくるぐらいの分別もないのか。最近の刺客は殺り方が杜撰だな」
「無理ないさ。皇子様が堂々と出歩いているとは、誰も思わないだろ」
そうして、二人はその皇子に視線を移した。
イルグレンは剣を持ったまま背を向けて立ちつくしていた。
その様子がおかしいことに、二人は気づいた。




