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暁に消え逝く星  作者: ラサ
第四章

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33/67

回想    死


 町へ入るなり、男は呆然とした。

 あまりの町並みのかわりように。

 最後に訪れてから一年と経たずに、その界隈は貧民窟と化していた。

 乾いた石畳の上に横たわる痩せこけた人々。

 骨と皮ばかりの手を伸ばし、物乞うたくさんの人々。

 通りはそんな情景に溢れている。

 胸騒ぎを覚え、男は走った。

 見慣れたはずの少年の家へと急ぐ。

 些か乱暴に扉を叩くが返事がない。

 錠のおりていない扉は、簡単に開いた。

 薄暗い室内で、男は異臭を嗅いだ。

 病んだような、饐えた臭い。

 年老いたものの死に逝くような、そんな臭いを。

 寝台に横たわる小さな身体を視界に捕らえたとき、男は叫んだ。


「リュマ!!」


 あの愛らしい顔には、すでにその面影は失われていた。

 頬は痩け、落ち窪んだ眼窩。

 骨と皮ばかりの細すぎる腕。

 薄い布越しに浮かび上がる肋骨。

 土気色の喉からは、乾いた音が漏れるだけ。

 少年はひび割れた唇を震わせていた。

 何かを語ろうとしていた。

 だが、もはや声を出す力さえ、残されてはいなかったのだ。

 男は寝台に駆け寄り、膝を着くと、腰に下げていた皮の水袋の口を開け、少年の口元に寄せる。

 乾いた唇の間に、水が流し込まれる。

「……」

 骨の浮き出た喉が、何度も大きく動いた。

 嚥下した後、少年は辛うじて聞き取れるほどの声を喉の奥から振り絞った。


「お姉、ちゃんからの、手紙が、こないん、だ」


 皇宮からの便りが途絶えて、すでに半年は経っていること。

 心配になって何度会いにいっても、取り次いでもらえなかったこと。

 以前姉からの手紙と仕送りを運んでくれた女も来なくなったこと。

 荒い息の中、必死で少年は言葉を搾り出す。

 姉を探してくれと。

 会いたいと、少年は告げた。

「大丈夫だ。俺が探してやる。探して、連れてきてやる」

 男は少年を抱きあげ、そう言った。

 ここにいてはいけない。

 抱き上げた少年は、背に負った剣よりも軽かった。

 その時すでに、確信した。


 この子は、もう助からない。


 医者に診せたとき、少年の魂はすでに冥界へ足を踏み入れようとしていた。

「みず、を」

 それが最期の言葉だった。

 一口、飲み干すと少年は満足そうに笑った。

 そうして、そのまま息を引き取った。



 その時、男の脳裏を占めていた感情は、悲しみよりもまず怒りだった。


 どうして、もっと早くリュマのもとへ来なかったのか。

 もっと早く来ていたら、こんなことにはならなかったのに。


 たった十で、あの子は死んでしまった。

 餓えて餓えて、骨と皮ばかりになって、たった一口の水に満足して死んでいった。


 あの子が何をした。


 世の中には、死んでいい人間がたくさんいる。

 生きる価値などない悪党など、ごまんといるではないか。

 それなのに、なぜ、あの子が死なねばならないのだ。

 あの善良で優しいリュマが死ぬ理由が、どこにあったのだ。

 こんなにか弱く稚い命が、簡単になくなってしまう国。

 民を餓えさせ、尊厳を奪い、惨めに死なせる国。

 それが、麗しの皇国か。

 神々の末裔の住まう国なのか。

 激しい怒りが、男を動かした。


 皇宮に入らねばならない。


 あの聳え立つ白亜の壁を越えて、少年の姉を探さなければならない。

 最期まで姉を恋うていた少年に、してやれることはそれしかなかった。




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