↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第2部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
93/99

寿綾乃という女 第2部 93

…本当にそうか?…


 このシナリオは、当初からのものだったのか?


 それとも、途中から、佐藤ナナが、出現したことで、昭子が、シナリオを作ったのか?


 考えた…


 どこから、シナリオを作ったのかが、重要だからだ…


 そう、考えたとき、昭子が、


 「…さあ、皆さん、お食べになって…」


 と、声をかけた…


 「…料理が、冷めないうちに…」


 そう言って、自らが、手本になるべく、料理を食べ出した…


 その昭子の姿を見て、私たち三人も、また料理に、箸をつけた…


 それから、四人は、黙々と、食べ続けた…


 一言も、会話がなかった…


 いや、


 そもそも、この四人は、敵対している(笑)

…


 だから、会話など、あるはずもなかった(爆笑)…


 私と、ユリコは、犬猿の仲…


 また、この佐藤ナナと、私は、諏訪野伸明を、巡って、争っている…


 そして、ユリコは、昭子と、五井造船の株を巡って、争っている…


 それを考えれば、なんというか…


 実に、凄い面子だ(爆笑)…


 この4人が、みんな誰かと、争っているのだ…


 これが、リングの上なら、どうだろう?


 考えた…


 私が、いきなり、ユリコをぶん殴るのだろうか?


 それとも、


 私は、佐藤ナナに、襲いかかるのだろうか?


 私にとって、ユリコと、佐藤ナナが、敵だからだ…


 が、


 ユリコにとっては、私以外に、もう一人、敵がいる…


 他ならぬ、昭子だ…


 だとすれば、私か、昭子、どちらかと、先に戦わなければ、ならない…


 果たして、ユリコの優先順位は、どちらが先だろうか?


 私だろうか?


 それとも、


 昭子だろうか?


 また、昭子の立場で、いえば、敵は、ユリコと、佐藤ナナ…


 佐藤ナナと、伸明が、結婚しては、困るからだ…


 ユリコとは、五井造船の株を巡って、対立している…


 だから、昭子にすれば、佐藤ナナと、ユリコのどっちと、先に戦うか?


 見ものだ…


 つまり、昭子、ユリコ、佐藤ナナ、そして、私と、この4人が、複数の敵を、作っているということだ…


 見ように、よっては、これほど、面白いものはない…


 まさに、リング上で、戦って、誰が、誰と、戦うか、見てみたいものだ…


 不謹慎ながら、そう思った…


 そう、思いながら、懐石料理を、無言で、口に運んだ…


 また、私を除いた、残りの三人も、同様だった…


 無言で、料理を口に運んでいたが、その表情は、複雑というか…


 食事をしながらも、それぞれの顔を、ときどき、見回していた…


 まるで、敵が今にも、襲ってくるのを、警戒したような感じだった…


 獣でいえば、自分の餌を食べながらも、いつなんどき、敵が、襲ってくるか、わからない…


 そんな感じだった…


 人間でいえば、


 まるで、戦争だ…


 戦場だ…


 そう、思ったときだった…


 またも、どこかで、スマホの音がした…


 やはりというか、昭子のスマホだった…


 昭子は、


 「…ちょっと、失礼…」


 と、言いながら、食事をする手を止めて、スマホの電話に出た…


 それから、少しばかり、電話を聞くと、


 「…そう…わかりました…ありがとう…」


 手短に、言って、電話を切った…


 私たち3人は、そんな昭子の様子を、箸を止めて、見ていた…


 …一体、なんの電話だろう?…


 誰もが、そう思った…


 私たち3人の視線に、気付いたのだろう…


 電話を終えた、昭子が、


 「…たいしたことじゃないのよ…」


 と、恥ずかしそうに、言った…


 「…昔から、懇意にしていた方から、電話を頂いただけ…」


 「…懇意にしていた方? …それは、誰?…」


 と、ユリコが、遠慮なく聞いた…


 昭子は、一瞬、言おうか、どうか、迷った感じだったが、


 「…大場小太郎さん…」


 と、告げた…


 「…大場小太郎? …あの大場小太郎? …代議士の…」


 「…そうです…」


 「…その大場小太郎が、なんて…」


 ユリコが、興味津々に、尋ねる…


 まるで、昭子をからかうようだった…


 が、


 またも、昭子の方が、上だった…


 「…高雄さんが、手を引くと…」


 昭子の発言に、


 「…エッ?…」


 と、ユリコが、絶句した…


 「…アナタ…高雄さんを出しにしようとしたでしょ?…」


 …出しに?…


 …どういう意味だろ?…


 私は、思った…


 「…アナタが、手にした五井造船の株…高雄さんは、3倍で、買い取れなんて、一言も言ってないそうね…」


 ユリコが、物凄い形相で、昭子を睨んだ…


 「…せいぜい、二倍が、関の山…投資をするものなら、この株は、どこまで、上がるのか、見極めるのが、常識…」


 「…」


 「…アナタのスポンサーが、山田会の高雄組だという情報は、掴んでいた…アナタ、本当は、仕手戦を仕掛けるつもりだったでしょ?…」


 昭子が断言した…


 すると、佐藤ナナが、


 「…仕手戦って、なんですか?…」


 と、口を出した…


 「…簡単に言うと、株の売買…」


 と、昭子が説明する…


 「…ほら、今でいうオークションと同じようなもの…」


 「…オークション?…」


 「…ヤフオクとかあるでしょう…アレと同じ…」


 「…どういうことですか?…」


 「…株も、ヤフオクの出品物も同じ…誰かが、買おうとする…すると、別の誰かが、また、それを買おうとする…結果的に、競争相手が競りあうことで、出品物も、株も価格が上がる…」


 「…」


 「…ただ、オークションは、一番高い価格をつけなければ、その出品物を落札できないけれども、株は、みんなが買えば、上がる…」


 「…上がる?…」


 「…例えば、百円が、二百円、三百円と上がる…でも、それには、金を持つ協力者が、いなければ、ダメ…」


 「…協力者?…」


 「…オークションは、実際に買わずとも、入札すれば、価格が上がるけれども、株は、実際に買わなければ、価格が上がらない…だから、実際に、その株を買える財力がある人間が、必要となる…」


 「…」


 「…ね? …そうでしょ? …ユリコさん?…」


 昭子が、ユリコに語りかける…


 が、


 ユリコは、なにも、言わなかった…


 いや、


 言えるはずが、なかった…


 だから、私が、ユリコの代わりに、


 「…協力者って、誰ですか?…」


 と、聞いた…


 昭子は、すぐさま、


 「…中国政府…」


 と、答えた…


 「…中国政府?…」


 私は、仰天した…


 …まさか、中国政府の名前が、こんなところで、出るなんて…


 想像もしていなかった(苦笑)…


 「…といっても、堂々と、中国政府の名前は出してない…いわば、政府の名前を隠したダミー会社…」


 昭子が説明する…


 「…それを知って、高雄さんは、降りると、言ったそうよ…」


 昭子が、ユリコに、告げた…


 「…たかだか、ヤクザが、中国政府と、株の仕手戦を演じるつもりはないって…」


 「…」


 「…途中で、梯子を外される危険を恐れたみたい…」


 昭子が、苦笑した…


 「…つまり、ババを掴まされる危険を感じたって、ことですか?…」


 私が、口を挟んだ…


 「…その通り…仕手戦は、どこまで、株が上げるかで、上がりきったところで、今度は、売りに転じる…だから、うまく、逃げ切れなければ、ならない…例えば、百円が、三百円になっても、本当は、百円の価値しかない…だから、大量に買う人間が、いなくなれば、すぐに、下落して、元の百円に戻る…そして、相手が中国政府では、信用できないと、思ったのでしょう…例えば、今の例で、いえば、百円が、三百円になったところで、売りに転じると、約束しても、中国政府が、約束を反故にする可能性が、高いと、思った…中国人は、なにより、利益を追求することが、大切だから…だから、平気で、相手を裏切ると、思った…」


 昭子が、笑った…


 が、


 当たり前だが、ユリコは、笑うどころではなかった…


 自分の目論見が、すべてバレたのだ…


 まさに、顔面蒼白だった…


 すると、佐藤ナナが、楽しそうに、


 「…バレバレ?…」


 と、笑った…


 が、


 ユリコは、なにも、言わなかった…


 怒るどころでは、なかったのだろう…


 「…ユリコさん…」


 と、昭子が、ユリコに話しかけた…


 「…アナタは、高雄組にスポンサーになってもらって、今回、仕手戦を仕掛けようとした…それで、仕手戦をしかけるのに、もう一方の相手に、中国政府を選んだ…」


 「…」


 「…でも、それを、高雄さんに、伝えなかった…伝えれば、高雄さんが、手を引く可能性が、あったから…」


 「…どうして、手を引く可能性が、あったんですか?…」


 思わず、私は、口を挟んだ…


 「…ヤクザというものは、危険なことに、手を出しません…」


 「…ヤクザが、危険なものに手を出さないって?…」


 思わず、私は、素っ頓狂な声を上げた…


 「…彼らは、ばくち打ちでは、ありません…投資家です…確実に、儲かるものしか、手を出しません…」


 昭子が断言する…


 「…五井造船の株は、たしかに、儲かる可能性が高いです…でも、相手が、中国政府では、高雄さんも尻込みしたんでしょう…」


 昭子が、笑う…


 「…彼らに、ビジネスマナーは、ありません…弱ければ、徹底的に、食い物にする…相手として、これ以上、厄介な相手は、いません…彼らが、相手だと知った時点で、高雄さんは勝負を降りた…裸足で逃げ出したでしょう…」


 昭子が、笑った…


 「…だから、ユリコさんは、高雄さんに、教えなかった…違いますか?…」


 昭子の質問に、


 「…どこから…」


 と、ゆっくり、ユリコが、口を開いた…


 「…どこから、それを聞いたの…」


 「…私は、大場さんと、長い付き合いなの…大場さんは、高雄さんと、仲がいい…だから…」


 「…大場小太郎と…」


 と、ユリコは、声を上げた…


 それから、


 「…そうね…菊池重方(しげかた)も、大場派だから…それを忘れていた…」


 「…重方(しげかた)は、関係ありません…」


 昭子が、語気を強めた…


 ぴしゃりと言った…


 「…重方(しげかた)は、別です…」


 昭子の強い語気に、今さらながら、昭子の重方(しげかた)に対する怒りを感じた…


 決して、許さない!


 そう、思えた…


 そして、その怒りの裏には、冬馬の死があるのだろうと、思った…


 重方(しげかた)共々、五井家を追放するしかなかった冬馬…


 重方(しげかた)が、米倉平造と組んで、五井にちょっかいを出さなければ、冬馬を追放する必要はなかった…


 そう思っているのかも、しれない…


 冬馬は、五井家で、評判が、悪い…


 だから、父親の重方(しげかた)を、追放すれば、本当は、息子の冬馬に、後を継がせればいい…


 五井東家を継がせればいい…


 が、


 それができなかった…


 一族内で、嫌われていたからだ…


 だから、一度、重方(しげかた)共々、追放して、菊池リンの夫として、五井家に復帰させる…


 そんな、裏ワザというか、ウルトラCを考えたのだろう…


 しかし、またも、重方(しげかた)が、邪魔をした…


 実の娘の、佐藤ナナを、伸明のお嫁さん候補として、出現させたからだ…


 結果、伸明は、この佐藤ナナに心奪われ、それを知った、昭子は、それを妨害するために、本来、冬馬と結婚させるべきだった、菊池リンを、再び、伸明と結婚させようとした…


 その結果、五井に復帰できなかった冬馬は、自殺した…


 だから、この昭子が、重方(しげかた)を許すわけがなかった…


 すべては、重方(しげかた)のせい…


 重方(しげかた)が、自分の利益のために、米倉平造と組んで、佐藤ナナを、伸明に近付けなければ、冬馬は、自殺に、追い込まれなかった…


 そう、考えたのだろう…


 それを、思えば、昭子が、重方(しげかた)を許すはずもなかった…


 そして、今さらながら、考えた…


 この昭子が、実は、冬馬を溺愛していたのではないか?


 という事実を、だ…


 昭子は、冬馬を嫌っていた…


 誰が、見ても、嫌っていた…


 が、


 それは、演技の可能性が高い…


 嫌って見せることで、周囲の人間が、誰もが、昭子は、冬馬を嫌っていると、思わせる…


 が、


 本当は、違う…


 昭子は、冬馬を、五井家内に、留めたかったに違いない…


 が、


 それは、できない…


 冬馬が、一族で、嫌われているからだ…


 だから、あえて、重方(しげかた)共々、追放して、菊池リンの夫として、五井家に復帰させる裏技を使った…


 五井家に復帰はさせるが、従来の五井一族の権利は、制限する…


 権利は、はく奪する…


 そうすれば、他の五井一族を納得させることができるからだ…


 が、


 なぜ、そこまで、溺愛するのだろうか?


 ふと、思った…


 自分の息子だから…


 腹を痛めた、自分の息子だから…


 それが、弟の重方(しげかた)の息子として、育てたから…


 いや、


 それをいえば、この昭子は、自殺した、伸明の弟の秀樹の死も、冷淡だった…


 いや、


 秀樹は、冬馬とは、違った…


 秀樹は、策士だった…


 策を巡る男だった…


 そして、その秀樹を、実の父親である、五井本家の先代当主である、建造は、嫌っていた…


 だから、実の息子の秀樹ではなく、血の繋がらない、兄の伸明を、後継者に推していた…


 伸明は、欲がなかったからだ…


 対して、秀樹は、欲望の塊だった…


 上昇志向の塊だった…


 それが、嫌だったのだろう…


 なにより、欲望の強い人間は、嫌われる…


 他人に譲ることができないからだ…


 手柄を独り占めする人間…


 そんな人間が、好かれるはずがない…


 それを、建造は、見抜いていた…


 だから、血が繋がった自分の息子にも、かかわらず、自分の後継者に推さなかった…


 秀樹では、五井をまとめらないと、見抜いていたからだ…


 そして、それは、この昭子も同じだった…


 昭子から、秀樹のことを、聞いたことがなかった…


 つまりは、秀樹は、それほど、両親に好かれていなかったのだろう…


 今さらながら、思った…


 そして、好かれてなかったゆえに、秀樹は、五井家の当主を目指したのではないか?


 ふと、思った…


 両親に好かれてなく、能力も、実績も、乏しい…


 だから、当主になって、見返してやりたかったのではないか?


 ふと、気付いた…


 秀樹は、誰にも認められない…


 だから、当主になることで、皆に、認めてもらいたかったのではないか?


 そして、真逆に、周囲の者は、秀樹のそんな姿勢を見て、余計に嫌悪したのではないか?


 そう、思った…


 能力がない人間が、高望みをしている…


 それが、あからさまだから、余計に、恥ずかしい…


 そう、思ったのではないか?


 と、そこまで、考えて、あらためて、冬馬のことを、考えた…


 冬馬は、険のある目を持つ男で、嫌な男だったが、周囲の評判ほど、嫌な人間には、思えなかった…


 ありていにいえば、なぜ、そこまで、嫌われているのか、わからなかった…


 そして、それは、冬馬と二人で、建造の墓にクルマで、行ったときに、感じた…


 それは、やはり、冬馬が、私に恋をしていたせいであろうか?


 私を好きだったからだろうか?


 どんな性格の悪い人間でも、好きな人間の前では、素直になれる…


 優しくなれる…


 そういうことだろうか?


 私は、考えた…


 考え続けた…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。