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寿綾乃という女 第2部  作者: トモサン


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73/99

寿綾乃という女 第2部 73

この菊池重方(しげかた)という男…


 どこまで、信じていいのだろう?


 考えた…


 まだ、会ったのは、二度目だから、評価ができない…


 信頼できるか?


 と、問われれば、首を横に振る…


 ならば、


 信頼できないか?


 と、問われれば、これもまた、首を横に振る…


 つまり、見極められない…


 これは、困った…


 どう判断すれば、良いのか、わからなかった…


 しかしながら、大抵の人間は、この重方(しげかた)と、いっしょだ…


 普通は、誰もが、判断に苦しむ…


 会って、すぐに、善人か、悪人か、わかる人間は少ない…


 が、


 たしかに、会ってすぐに、わかる人間も、少数ながら、存在する…


 そして、それは、善人よりも、むしろ、悪人に多い…


 出会ってすぐに、なにか、嫌な雰囲気を感じるのだ…


 それまで、自分の見知っていた人間と、明らかに違う人間…


 異質な人間だ…


 だから、わかりやすい…


 そして、そういう人間は、少数派…


 明らかに異端だから、わかりやすく、目立っている…


 そして、そういう人間が、なにが異質なのかと、いえば、雰囲気が、異なるのだ…


 なにか、オーラ=雰囲気が、違う…


 おそらく、自分自身は、気付かないと思うが、明らかに世間で、異質…


 少し、おおげさに言えば、一般的な社会生活を営めないような、独自の雰囲気=オーラがある…


 これは、ヤクザ=暴力的な雰囲気が、わかりやすいが、必ずしも、そうではない…


 ヤクザとて、人間…


 その多くが、一般的な社会生活を営んでいる…


 だから、そうではなく、ただ、雰囲気が異質なのだ…


 常人とは、異なっている…


 私は、そういう人間をかつて、見たことがあった…


 が、


 逆に言えば、その人間以外、見たことがない…


 それほど、異質だった…


 それほど、わかりやすかった…


 会社で、いえば、どこへいっても、まともな会社では、採用されない…


 たとえ、東大を出ていても、だ…


 なにか、変なのだ…


 見たことのない、オーラ=雰囲気を持っている…


 自分自身は、気付かないと思うが、明らかに異質…


 そして、何度も言うが、それは、少数派…


 私の体験でいえば、一人、二人と、数えるほど、しかいない…


 私は、この菊池重方(しげかた)を、見ながら、そんなことを、考えた…


 が、


 重方(しげかた)は、重方(しげかた)で、別のことを、考えていたようだ…


 「…寿さんの目的が分かりません…」


 いきなり、重方(しげかた)が、言った…


 「…目的?…」


 「…ハイ…寿さんは、どうして、伸明クンと付き合っているんですか?…」


 あまりにも、意外な質問だった…


 自分でも、返答に詰まった…


 「…失礼ながら、寿さんは、同居する恋人が、おありでしょ?…」


 私は、重方(しげかた)の言葉に、


 「…」


 と、言葉もなかった…


 まさか…


 まさか、この菊池重方(しげかた)に、そんなことを、言われるとは、思わなかった…


 気付いている…


 私が、藤原ナオキと同居している事実に、気付いている…


 私が、どう言おうか、躊躇していると、


 「…もしかしたら、寿さん…天秤にかけてるんですか?…」


 と、いきなり、佐藤ナナが、口を挟んだ…


 「…天秤って?…」


 「…だって、この菊池さんが、言った恋人って、あの藤原ナオキさんのことでしょ?…」


 佐藤ナナが、告げる…


 しまった!


 遅まきながら、気付いた…


 もしかしたら?


 もしかしたら、罠にかかった?


 この菊池重方(しげかた)と、佐藤ナナの罠にかかった…


 そう、気付いた…


 そして、おそらくは、この重方(しげかた)と、佐藤ナナは、あらかじめ、組んで、私をここへ、誘い出した…


 だから、私が、佐藤ナナに会いに来たのではない…


 佐藤ナナに誘い出されたのだ…


 その事実に、気付いた…


 …さて、どうするか?…


 …さて、どうするべきか?…


 自分自身に問うた…


 まさか、この場所から、逃げ出すことはできない…


 まさか、いきなり、これから、用事があるからと、この場から、逃げ出すことはできない…


 さて、どうしよう?


 いや、


 この菊池重方(しげかた)の質問に、どう答えよう?


 悩んでいると、


 「…寿さんって、イケメン好きなんですよね?…」


 と、突如、佐藤ナナが、言った…


 私は、驚いて、佐藤ナナを見た…


 すると、褐色の肌の顔が、いたずらっぽく、笑っていた…


 「…諏訪野伸明…藤原ナオキ…共に、長身のイケメン…寿さんは、イケメンが、好きなんですよね?…」


 まるで、からかうように、言う…


 佐藤ナナの以外な一面を見た感じだった…


 五井記念病院で、看護師であったときは、決して、見せない姿だった…


 「…そうね…」


 私は、ニコニコ笑いながら、曖昧に、答えた…


 すると、佐藤ナナが、怒った…


 「…そうね、じゃありません…」


 きつい口調で、言った…


 「…そうに、決まってます…」


 「…決まってる?…」


 「…決まってます…」


 強い口調で、断言した…


 私は、そんな佐藤ナナの態度に驚きながらも、ふと、ある疑問に、気付いた…


 「…佐藤さん…アナタ、何者?…」


 「…エッ? …どういうことですか?…」


 「…アナタの正体よ…」


 「…どういうこと?…」


 「…アナタが、五井南家の血を引く人間であることは、間違いないでしょう…でも、最近、日本にやって来たというのは、違うでしょう…」


 「…違う? …どう違うんですか?…」


 「…アナタの日本語の発音…イントネーション…」


 「…イントネーション?…」


 「…スラスラと、よどみなく答える…まるで、純粋な日本人のように…」


 「…」


 「…いえ、5年前、10年前に来日した外国人のように…」


 「…」


 「…アナタは、ウソ…私に、ウソをついていた…」


 「…」


 「…アナタが、来日したのは、ずっと、以前…おそらく、3年やそこらより、ずっと前…違う?…」


 「…」


 「…そして、佐藤ナナ…アナタは、この菊池重方(しげかた)さんの娘…」


 「…」


 「…この菊池重方(しげかた)さんが、ベトナム人の女性との間に、作った娘ね…」


 私は、断言した…


 重方(しげかた)が、絶句した…


 そして、驚愕した表情になった…


 それは、傍らの佐藤ナナも、また同じだった…


 「…どうして、そんな、荒唐無稽な話を…」


 重方(しげかた)が、緊張した声で、言う…


 「…簡単ですよ…」


 「…簡単?…」


 「…私を見張るには、自分のもっとも、信頼できる人間を、つけるのが、一番…それは、肉親…」


 「…でも、この佐藤ナナは、五井南家の人間…どうして、ボクが、彼女の父親なんですか?…」


 「…重方(しげかた)さんが、本当は、南家の人間だからじゃないですか?…」


 「…ボクが、南家?…バカな?…」


 「…バカでも、なんでも、ありません…」


 「…ふざけるな!…」


 突如、重方(しげかた)が、激高した…


 「…どうして、ボクが南家なんだ? …ふざけるにも、ほどがある…」


 私は、その重方(しげかた)の怒りが、むしろ、私の指摘が正しいと、確信した…


 「…証拠があるなら、言ってみろ!…」


 「…証拠? …証拠…ですか?…」


 「…そうだ?…」


 「…証拠は、彼女です…」


 目の前の佐藤ナナに視線を向けた…


 「…彼女?…」


 「…彼女が、五井南家の血を引くことは、菊池リンの祖母、和子さんも、断言しました…その佐藤さんのDNAと、重方(しげかた)さんのDNAを比べれば、父娘であることは、証明できるんじゃないですか?…」


 私の言葉に、


 「…」


 と、重方(しげかた)は、答えなかった…


 「…それとも、この後、3人で、五井記念病院に、行って、お二人のDNAを調べますか? …そうすれば、すぐに、わかるはずです…」


 私の言葉に、


 「…」


 と、言葉もなかった…


 「…どうしますか?…」


 私は重ねて、問うた…


 が、


 重方(しげかた)は、返事をしない…


 「…」


 と、黙ったままだった…


 …勝負あった…


 …私の勝ちだ…


 そう思った…


 が、


 ことは、そう単純ではなかった…


 「…だったら…」


 「…なんですか?…」


 「…五井東家は、なんなんだ…ボクが、五井東家の当主だったんだぞ…息子は、冬馬は、ボクの…」


 「…甥ですよね…息子ではなく…」


 「…甥?…」


 「…案外、冬馬さんの正体は、伸明さんの弟じゃないんですか?…」


 「…弟? …バカな?…」


 「…いえ、そう考えると、今回の騒動…色々、読めて来るんですよ…」


 「…どう、読めて来るんだ?…」


 「…菊池リンの祖母、和子さん…」


 「…姉が、どうかしたのか?…」


 「…彼女は、冬馬さんを、溺愛していると、言った…」


 「…そうだ…」


 「…真逆に、昭子さんは、冬馬さんを嫌っている…」


 「…」


 「…でも、ホントは、違うんじゃないんでしょうか?…」


 「…どう、違うんだ?…」


 「…昭子さんが、冬馬さんを、溺愛して、和子さんは、それほどでもない…」


 「…なぜだ?…」


 「…だって、冬馬さんは、昭子さんの息子でしょう…」


 私は、断言した…


 重方(しげかた)の表情が、固まった…


 文字通り、固まった…


 それは、隣の、佐藤ナナも同じだった…


 「…そう考えると、色々見えてくるものがあるんですよ…」


 「…なにが、見えてくるんだ?…」


 「…例えば、重方(しげかた)さん、なぜ、アナタが、国会議員に立候補したか?…」


 「…どういう意味だ?…」


 「…だって、五井は、原則、国会議員になることは、禁止されてるのでしょ?…政治に関わることは、禁止されてるんでしょ?…」


 「…」


 「…にも、かかわらず、重方(しげかた)さんは、立候補できた…これは、なにか、あると、考えるのが、自然…」


 「…なにが、あるんだ?…」


 「…昭子さんの弱点を、握っているか、あるいは、逆に恩を売っているか? …そのどっちか?…」


 「…どっちなんだ?…」


 「…両方でしょう…」


 「…」


 「…昭子さんの息子を、自分の子供として、育てる…その見返りに、本来、五井が禁止している、国会議員に立候補することに、目をつぶった…」


 「…」


 「…昭子さんとしては、嫌でも、目をつぶるしか、なかった…なにしろ、弟とはいえ、自分の息子の面倒をみてもらっている…」


 「…だったら、なんで、姉は、昭子姐さんは、冬馬に厳しいんだ…」


 「…それは、簡単です…」


 「…どう、簡単なんだ?…」


 「…だって、優しくしたら、自分の息子だと、バレてしまうでしょ?…」


 「…」


 「…だから、自分は、いつも、厳しく冬馬さんに接して、代わりに、妹の和子さんに、優しく接するように、させた…そうすれば、バレない…」


 「…バカバカしい?…」


 「…いえ、バカバカしくは、ありません…」


 「…」


 「…私が、そのことに、気付いたのは、リンちゃん…菊池リンちゃんが、冬馬さんと結婚して、五井東家を継ぐと、聞いたときです…」


 「…それが、どうして?…」


 「…だって、普通なら、一度、五井家から追放した人間を戻すなんて、ありえないでしょ? 一体、どうして、そこまで、するのか?…」


 「…」


 「…そして、これが、あの昭子さんと、和子さんが、結託して、仕組んだことだと、思えば、納得します…昭子さんは、和子さんに、頼んで、孫の菊池リンと結婚させることで、五井家に復帰させようとした…」


 「…だったら、ボクは…ボクは、どうして、五井家を追放されたんだ…」


 「…重方(しげかた)さんは、やり過ぎたんじゃないんでしょうか?…」


 「…やり過ぎた? …なにをやり過ぎたんだ?…」


 「…上を狙い過ぎた…」


 「…」


 「…大場派の幹部でいる間は、いい…でも、自分の派閥まで、立ち上げようとした…それで、昭子さんの堪忍袋の緒が切れた…」


 「…」


 「…違いますか?…」


 私の質問に、重方(しげかた)が、顔を真っ赤にして、私を睨んだ…


 まさに、憤怒の表情だった…


 「…だったら、さっきの話に戻そう…どうして、ボクが、この佐藤ナナさんの父親なんだ…いや、仮に、ボクが、彼女の父親だとしても、彼女は、五井南家の人間だ…この佐藤ナナさんを、五井本家の養女として、引き取る代わりに、五井南家は、本家側になった…五井の主流派になった…それを、どう説明するんだ?…」


 「…説明する必要はありません…」


 「…必要はない? …どうしてだ?…」


 「…問題は、五井南家が主流派になることです…この佐藤さんが、南家の血を引いているかどうかは、関係ありません…」


 私は、断言した…


 「…バカバカしい…」


 吐き捨てた…


 「…寿さん…アナタが、こんなバカな女とは、思わなかった…」


 「…」


 「…伸明クンの妻として、失格だ…」


 重方(しげかた)が怒鳴った…


 当たり前だった…


 私とて、この重方(しげかた)と、同じ意見だった…


 私は、今、カマを賭けたのだ…


 この菊池重方(しげかた)と、佐藤ナナ…


 この二人を見て、思ったことを、わざと、口にした…


 下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるの理屈だ…


 わざと、気付いたことを、言って、この重方(しげかた)と、佐藤ナナの態度を見た…


 態度の変化を見た…


 動揺を見た…


 動揺したことが、真実…


 真実に違いないからだ…


 その結果、わかったことがあった…


 やはりというか、この佐藤ナナと、菊池重方(しげかた)が、父娘ではないかという疑惑だ…


 この佐藤ナナの日本語は、流暢すぎる…


 うますぎる…


 どう考えても、来日して、すぐの人間の日本語ではない…


 現地で、日本語の先生に教わったと言っていたが、私にすれば、眉唾物…


 信用できない…


 そして、私に対する今の態度…


 看護師時代には、見られなかった態度だ…


 なぜ、いきなり、私に、諏訪野伸明と、藤原ナオキの名前を出すのか?


 私が、藤原ナオキと同居している事実に、気付いていても、以前なら、ここまで、あからさまに、突っ込むことはなかった…


 普通に考えれば、すでに、看護師を退職しているから…


 だから、以前のように、看護師と、患者という立場にこだわる必要は、ないともいえる…


 しかしながら、一番考えられるのは、今、ここに、この菊池重方(しげかた)と、いっしょにいるからではないか?


 この重方(しげかた)が、いるから、強気になれるのではないか?


 私は、そう思った…


 自分一人ではない…


 後ろ盾がいる…


 そして、問題は、その後ろ盾と、この佐藤ナナの関係だ…


 普通に、考えれば、父娘の関係が、一番しっくりとする…


 まさか、男女の関係とは、思えない…


 だが、


 本当にそうか?


 今一つ、確信が持てない…


 それは、やはり、この佐藤ナナが、五井南家の血を引いているといった和子の言葉だ…


 やはりというか…


 彼女が、本当に、五井南家の血を引いていなければ、彼女は、五井本家の養女にはなれなかったし、その見返りとして、五井南家が、五井の主流派になれない…


 つまり、やはり、この佐藤ナナが、キーポイント…


 この佐藤ナナの正体が、菊池重方(しげかた)の娘であることは、間違いない…


 その点は、確信できる…


 が、


 ならば、どうして、この佐藤ナナが、五井南家の血を引くのか、納得のできる説明が、私には、できなかった…


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