↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寿綾乃という女 第2部  作者: トモサン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
46/99

寿綾乃という女 第2部 46

…五井の混乱の張本人?…


 どうして、私が、五井の混乱の張本人なの?


 聞かずには、いわれなかった…


 五井一族でも、なんでもない、私が、どうして、五井一族を混乱させることができるのか?


 聞いてみたくなった…


 だから、


 「…菊池さん…どうして、私が、五井の混乱の張本人なの?…」


 と、聞いた…


 「…佐藤ナナ…」


 即答した…


 これは、意外だった…


 ここで、佐藤ナナの名前が出るとは、思わなかった…


 「…佐藤さんが、どうしたの?…」


 「…彼女が、五井南家出身であることは、知ってますね?…」


 「…ええ…知ってるわ…」


 「…彼女の出現で、五井の力関係が崩れました…」


 「…どういうこと?…」


 「…五井南家…あの分家が、五井東家に代わって、五井本家を、仕切ろうとしているんです…」


 「…本家を仕切る?…」


 「…一体、どういう?…」


 「…五井南家は、今の五井の分裂騒動で、キャスティングボードを握ろうとしています…五井南家が、本家につくのか、それとも、他の分家といっしょになって、本家に歯向かうのか、そのキャスティングボードを握ってます…」


 私は、菊池リンの言う意味を理解した…


 たしかに、五井家は、五井保存会の株を握ることで、五井の会社を支配している…


 そして、その五井保存会の株は、本家が、30%、東西南北の分家が、それぞれ10%、残りの30%を、他の8家の分家で分けていると、言った…


 だから、今、本家と東家が、40%を、握り、一族を支配している…


 が、残りの分家が、束になれば、60%で、勝ち目がない…


 だから、南家を味方につければ、本家側が、50%になり、互角になる…


 そうなれば、他の分家が、束になって、本家に歯向かうとは、限らないので、事実上、勝負は、決する…


 だから、南家の去就が大事…


 本家につくのか?


 反本家なのか?


 わからないからだ…


 ただ、いずれにつくかで、大勢が決するので、キャスティングボードを握ることができる…


 だが、その南家と、私が、なんの関係があるのだろうか?


 「…菊池さん…どうして、私が、ゴタゴタの張本人なの?…」


 と、再び、聞いた…


 「…それは、綾乃さん…アナタが、伸明さんを、惑わせるからです…」


 「…惑わせる? …それは、どういう?…」


 「…綾乃さん…まだ、わからないんですか?…」


 菊池リンが、スマホの向こうから、じれったそうに、言った…


 「…伸明さんは、アナタに会わなければ、惑うことも、なにもなかったんです…」


 「…なに、それ?…」


 「…伸明さんは、綾乃さんに、会ったから、変わったんです…」


 「…私に会ったから、変わった?…」


 「…そうです…」


 意味がわからなかった…


 一体、私に会ったことで、諏訪野伸明のなにが、変わったのだろう?


 「…菊池さん…伸明さんが、変わったって?…」


 「…伸明さんは、本来、五井家を第一に考えるひとでした…」


 「…」


 「…でも、綾乃さんに、会って、変わった…」


 「…変わった? …なにが?…」


 「…伸明さんは、自分の幸せを考えるようになった…」


 「…自分の幸せ?…」


 「…本来、伸明さんは、五井家を第一に考えてました…だから、以前、私との結婚が、話題になったとき、私は、伸明さんと、結婚するのは、歳が離れすぎているから、不本意でしたけど、伸明さんは、真剣に考えざるを得なかった…」


 「…」


 「…でも、歳が離れすぎてるから、伸明さんも躊躇うものが、あった…そして、その根底には、私の幸せがあった…」


 「…菊池さんの幸せ?…」


 「…歳が離れすぎてるから、自分と、結婚しても、うまくいかないんじゃないか? とか、私には、もっと、歳の近い、男と結婚すれば、幸せになれるんじゃいか? とか、私の幸せを考えてくれた…」


 「…」


 「…でも、今の伸明さんは、違う…明らかに、迷っている…」


 「…迷ってる?…」


 「…自分の幸せと、五井の未来をはかりにかけてる…」


 「…どうして、わかるの?…」


 「…自分の結婚相手を決めれない…」


 「…それは、どういう?…」


 「…以前の伸明さんなら、私でも、五井南家の佐藤ナナでも、どっちを選べと、言われれば、どっちかを選んだ…それが、今は、迷っている…」


 「…」


 「…その選択肢に、綾乃さんが、入っている…」


 「…私が?…」


 仰天の言葉だった…


 思いもしない言葉だった…



 でも、それは、本当だろうか?


 考えた…


 ブラフ=ハッタリではないのだろうか?


 考えた…


 と、同時に気付いた…


 以前、伸明の母、昭子は、伸明の結婚相手として、この菊池リンではなく、私、寿綾乃を推した…


 あれは、やはり、ウソだったのだろうか?


 私を騙したのだろうか?


 思った…


 が、


 そんなことを、考えてる間にも、菊池リンは、しゃべり続けた…


 「…伸明さんは、そんなひとじゃなかった…」


 スマホ越しに、菊池リンが、泣いている声がした…


 菊池リンは、伸明が、変節したことが、悔しいのだろう…


 その悔しさが、涙になって、現れた…


 と、同時に、気付いた…


 以前、会ったとき、菊池リンは、諏訪野伸明を認めてなかった…


 伸明は、前当主、建造の実子ではない…


 だから、菊池リンは、諏訪野伸明を認めてなかった…


 それが、一転、今回は、諏訪野伸明を認めている…


 これは、一体、どういうことだ?


 どんな心境の変化があったのだろうか?


 考えた…


 だから、


 「…菊池さん…」


 と、声をかけた…


 「…なんですか?…」


 「…アナタは、この前、会ったとき、伸明さんを、認めてなかったでしょ?…」


 「…エッ?…」


 「…伸明さんは、前当主の建造さんの血を引いていない…だから、認めないと、言っていた…それが、どういう心境の変化?…」


 私の質問に、


 「…」


 と、絶句した…


 答えなかった…


 「…それを教えてくれない?…」


 つい、いつもの上から目線で聞いた…


 これは、失敗だったかもしれない…


 が、


 すでに、言ってしまった…


 口にして、しまった…


 が、


 予想外に、菊池リンが、


 「…状況が変わったんです…」


 と、告げた…


 「…状況?…」


 「…五井南家の背後に、米倉平造の影があるんです…」


 「…米倉平造?…」


 まさか、ここで、米倉平造の名が出てくるとは、思わなかった…


 あまりにも、意外だった…


 「…菊池さん…米倉平造は、アナタと、関係があるんじゃ…」


 私は、つい、言ってしまった…


 あのとき、私に、


 「…食えない女…」


 と、吐き出すように、言った…


 あれは、明らかに、誰かの影響…


 そして、その誰かとは、米倉平造か、菊池重方(しげかた)の二人だけだった…


 だから、私は、あのとき、わざと、二人の名前を口にして、菊池リンの反応を見た…


 すると、菊池リンは、見るからに、動揺した…


 あの姿を見て、私は、米倉平造と、菊池重方(しげかた)の、どちらか、あるいは、両方が、菊池リンの背後にいる…


 そう、確信した…


 が、


 今、菊池リンは、五井南家の背後に、米倉平造がいると言った…


 これは、一体、どういうことなんだろ?…


 「…綾乃さん…米倉平造は、五井家の主だった人間には、皆、接触している…」


 菊池リンの発言に、私は、


 「…」


 と、絶句した…


 唖然としたと、言っていい…


 「…米倉平造は、私から、五井南家に乗り換えた…そういうこと…」


 あっけらかんと、内幕を暴露した…


 「…乗り換えた?…」


 「…私の背後には、和子おばあさまがいる…だから、意のままに、操ることはできないと、悟った…」


 たしかに、菊池リンの言う通り…


 この菊池リンは、伸明の母、昭子の一卵性双生児の妹…


 なにより、昭子同様、女傑だ…


 とてもではないが、誰かのいいなりになる人間ではない…


 だから、菊池リンのことは、諦めたのだろう…


 本当ならば、菊池リンは、五井東家の人間…


 五井東家は、他の西南北家の分家同様、五井の分家では、本家についで、地位が高い…


 だから、ハッキリいえば、この4家に狙いを絞るのは、わかる…


 そして、菊池リンがダメならば、他の3家に狙いを定めたのだろう…


 私は、思った…


 と、同時に気付いた…


 ということは、どうだ?


 あの佐藤ナナの背後に、米倉平造がいるということなのだろうか?


 私が考え込んでいると、


 「…状況が変わった…」


 と、菊池リンが、繰り返した…


 私は、その言葉で、気付いた…


 これは、すべてに当てはまるのではないか? ということだ…


 以前、昭子がやって来たとき、この菊池リンと私を比べて、私を選ぶと、断言した…


 あれは、リップサービスでもなんでもなく、本気で言っていると、私は、信じた…


 しかし、あの言葉は、あの状況での本気…


 つまりは、今と、状況が、違うということだ…


 今であれば、昭子はあのような言葉は、口にすまい…


 そして、これは、妹の和子もまた同じだろう…


 以前、和子は、孫の菊池リンの結婚は、本人の意思に任すと、私に言った…


 しかしながら、この状況下では、そうはいくまい…


 五井が割れるかもしれない危機に、個人がアレコレ、好きだ、嫌いだ、言ってられない…


 そういうことだ…


 今、会えば、また違うことを、言うだろう…

 そして、それを、きれいごとと言うつもりは、まったくない…


 誰もが、そのときに、置かれた状況で、発言が変わるからだ…


 それは、仕方がないことだからだ…


 子供ではないのだから、状況が変われば、発言が変わっても、仕方がないと思う…


 私は、そう思った…


 思いながら、今、一番、驚いたのは、諏訪野伸明のことだった…


 嬉しいのは、諏訪野伸明が、真剣に、私との結婚を考えていると、言った、菊池リンの言葉だった…


 まさか…


 まさか、菊池リンの口から、そんなことを、聞くとは、思わなかった…


 これは、嬉しいと、同時に、驚きだった…


 私の中では、すでに、終わったことになっていた、諏訪野伸明との結婚が、脳裏に、ハッキリと、浮かんだ…


 ありえないと、思いながらも、どこか、ボンヤリとした、諏訪野伸明との結婚が、私の中で、復活したのだ…


 そんなことを、考えていると、


 「…綾乃さん…」


 と、菊池リンが、スマホの向こう側から、言った…


 「…なに?…」


 「…私も、綾乃さんが、嫌いじゃありませんよ…むしろ、好きです…」


 一体、どういうつもりで、いきなり、そんなことを言うのだろう?…


 怪訝な気持ちだったが、


 「…そう…ありがとう…」


 と、礼を言った…


 「…でも、五井にとっては、迷惑極まりない存在です…」


 いきなり、断言した…


 「…綾乃さんは、個人的には、好きですが、私にとっては、五井の方が、大事です…五井あっての私です…綾乃さんには、申し訳ないですが、綾乃さんが、いなければ…いえ、綾乃さんと、伸明さんが、出会わなければ、伸明さんは、私か、佐藤ナナさんのどちらかと、結婚しました…いえ、今は、佐藤ナナさんかな…」


 菊池リンが、息せき切って言った…


 「…今は、五井南家かな…五井南家が、本家側につけば、五井の争いに勝てる…」


 菊池リンが、明言する…


 だが、それから、一転して、トーンを落として、


 「…でも、南家が、本家側につけば、どんな条件を出すか、わからない…」


 「…条件?…」


 「…今の本家は、事実上、五井東家…そこへ、五井南家が入れば、南家出身の佐藤ナナさんが、伸明さんと結婚するだけでなく、なにかと、注文をつけてくる可能性が高い…」


 「…」


 「…それでも、今の状況では、南家の佐藤ナナさんと、伸明さんが、結婚するのが、ベスト…丸く収まる…そのためには、綾乃さんが…」


 と、そこまで、言って、後は、言葉を飲み込んだ…


 要するに、私に、自分から、身を引いて欲しいと、言っているのだ…


 これは、あの諏訪野マミと、菊池冬馬が、私に言ったことと、同じだ…


 ふと、思った…


 ふと、気付いた…


 もしかして?


 もしかして?


 この菊池リンの背後には、あの二人が、いるのではないか?


 気付いた…


 いや、


 二人ではない…


 冬馬…


 菊池冬馬がいるのではないか?


 なにしろ、冬馬は、この菊池リンと、結婚することで、五井家から、追放されるところを、首の皮一枚で、繋がった…


 本来、五井東家は、菊池冬馬が継ぐはずだったが、この菊池リンと結婚することで、菊池リンが、五井東家を継ぎ、夫となった、冬馬も、五井家に残れることになった…


 ただ、権限はない…


 権限は、妻となる、この菊池リン…


 それを、思い出した…


 つまりは、すでに菊池リンが、冬馬と結婚する以上、伸明と結婚する、五井一族は、佐藤ナナだけ…


 彼女だけ…


 伸明は、私か、佐藤ナナのどちらかを、選べばいい…


 そして、私が辞退すれば、残るは佐藤ナナだけ…


 実に、都合がいい…


 それに、気付いた…


 だから、


 「…菊池さん…」


 と、声をかけた…


 「…なんですか?…」


 「…同じことを、諏訪野マミさんと、菊池冬馬さんに、言われたわ…」


 「…」


 「…二人に頼まれたの? …それとも?…」


 私は、わざと言った…


 「…米倉平造にでも、頼まれたの?…」


 図星だった…


 明らかに、驚いた様子で、スマホの、向こう側から、声が聞こえなくなった…


 「…どうして、そう思うんですか?…」


 少し間を置いて、菊池リンが、聞いた…


 「…だって、それは、菊池さん…アナタが言ったでしょ?…」


 「…私が?…」


 「…米倉平造は、五井家の主だった人間には、皆、接触しているって、言ったでしょ?…それは、つまり、その中に、菊池さん…アナタも入っているってこと?…」


 「…」


 「…米倉平造が、なにを狙っているかは、知らないけど、おそらく…」


 「…おそらく…なんですか?…」


 「…冬馬さんの父の重方(しげかた)さんの復権じゃないかな?…」


 この仮定の話に、またも、菊池リンは、


 「…」


 と、答えなかった…


 少し間を置いて、


 「…どうして、そう思うんですか?…」


 と、聞いた…


 「…冬馬さん…アナタの夫…冬馬さんは、やはり、追放された父の重方(しげかた)さんが、気がかりでしょ?…」


 「…」


 「…それが、アナタたち夫婦のアキレス腱…米倉平造は、そこを突いてきた…」


 私の言葉に、


 「…」


 と、菊池リンは、沈黙した…


 それから、少し間を置いて、


 「…私は、まだ、冬馬さんと、結婚したわけじゃありません…」


 と、反論した…


 「…でも、その運命と言うか、結婚する予定に変わりはないんでしょ?…」


 私の言葉に、またも、


 「…」


 と、沈黙した…


 「…菊池さんは、五井東家の当主になり、冬馬さんは、五井東家の当主の座にはなれなかったけど、五井家を追われることは、なくなった…でも、冬馬さんの父の重方(しげかた)さんは、違う…追放された…」


 「…」


 「…冬馬さんの立場なら、重方(しげかた)さんを助けたいでしょ?…」


 「…」


 「…そうでしょ?…」


 念を押した…


 しばらく、沈黙した…


 まるで、電話が切れたように、声が聞こえてこなかった…


 そして、ようやく声が聞こえたとき、


 「…綾乃さん…甘いです…」


 と、菊池リンが、言った…


 「…甘い? どういう意味?…」


 「…そんなにうまくいきません…米倉平造は、そんなに甘い男じゃないし、昭子さんもそう…和子おばああさまにしても、そんなに甘い未来を夢見ているわけじゃありません…」


 今度は、私が、


 「…」


 と、絶句する場面だった…


 「…どっちにしても、事態は、動いてます…綾乃さんを、この先、綾乃さんを巻き込まないためにも、綾乃さんに身を引いてもらうのが、一番だったんですが…」


 後は、言わなかった…


 ただ、二人とも、黙りこくったままだった…


 そして、


 「用は済みました…これで、電話は切ります…」


 と、言って、菊池リンが、一方的に電話を切った…


 私もまた、無言で、スマホを眺めたままだった…


 すでに、言葉は尽きた…


 なにを言っていいか、わからなかった…


 その数日後だった…


 五井の主要な関連会社の一つ…


 五井情報が、米倉の大日グループ入りをした…


 そんな真偽不明な情報が、兜町を発信源に、日本中を駆け巡った…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。