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寿綾乃という女 第2部  作者: トモサン


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31/99

寿綾乃という女 第2部 31

その日を境にと、言うと、大げさだが、私の気持ちは、前向きになった…


 いよいよ、退院が現実になる…


 そんな環境に、心躍らせたというか…


 ウキウキした気持ちの半面、これから、自分が巻き込まれるであろう、騒動を、思うと、気分が、落ち込んだ…


 …一波乱ある…


 …五井の騒動は、まだ、なにも、終わっていない…


 当たり前だが、そんな現実を見据えていた…


 週刊誌やネットでは、当初こそ、重方(しげかた)、冬馬、父子が、五井家から、追放されたのを、契機に、アレコレ書き立てたが、話題が、続かなかった…


 最初こそ、上級国民の一族の内紛と、捉え、国会議員である、菊池重方(しげかた)や、五井記念病院の理事長である、息子の冬馬のことを、面白おかしく、報じていたが、中身が続かなかった…


 父親の菊池重方(しげかた)は、自民党で、菊池派の立ち上げを画策したが、すぐに、呆気なく、断念…


 軌を一にして、息子の冬馬が、五井記念病院の理事長を、実質、解任された…


 これは、五井家の内紛に違いないと、話題に飢えていた、マスコミは、色めきだったが、後が続かなかった…


 菊池重方(しげかた)、冬馬、父子の続報が、なかったからだ…


 誰もが、重方(しげかた)、冬馬、父子の反撃を予測したが、なにもなかった…


 あるいは、なにか、水面下で、仕掛けているのかもしれないが、その動きが、報じられることがなかった…


 もしかしたら、水面下で、仕掛けていても、あっさりと、あの五井家の女帝の昭子に、反撃の芽を潰されたのかもしれなかった…


 いずれにしろ、目に見える形での反撃は、なかったと、言える…


 それゆえ、すぐに、世間から、忘れ去られた…


 続報が、続かないのだから、ある意味、当たり前だった…


 そして、私はと言えば、だいぶ、動けるようになってきた…


 一人で、松葉杖をついて、歩くのは、もちろんのこと、五メートルぐらいの短い距離ならば、松葉杖なしでも、歩けるようになってきた…


 私のあまりの進展と言うか、体力の回復に、担当の看護師の佐藤ナナも目を見張った…


 「…寿さん…凄い…」


 文字通り、目を丸くした…


 「…ありがとう…」


 私は、皮肉でも、なんでもなく、素直に、礼を言った…


 「…これで、もうすぐ退院できる…」


 私の言葉に、佐藤ナナが、微妙な表情になった…


 「…ということは、もうすぐ、お別れですね…」


 「…そうね…」


 「…寂しいです…」


 「…私も…」


 私と、佐藤ナナは、病院の外の庭を散歩しながら、言った…


 この外への散歩が、毎日の日課となっていた…


 やはり、散歩は、外に限る…


 病院の廊下を、松葉杖をついて、歩いても、リハビリには、なるが、それでは、つまらないし、なんだか、味気ない…


 病院の庭に出れば、たかだが、建物から、一歩外に出たに過ぎないが、目の前の光景が、変わる…


 景色が変わる…


 そういうことだ…


 そして、前回、初めて、この病院の庭に出た頃、あの菊池重方(しげかた)と、この場所で、会った…


 そんなことを、思い出した…


 重方(しげかた)は、あらかじめ、この場所で、私を、待ち構えていた…


 この佐藤ナナが、冬馬に、連絡し、その冬馬が、父の重方(しげかた)に、教えた…


 そういうことだ…


 だが、なぜ、重方(しげかた)が、私に接触したか?


 今もって、その理由が、わからなかった…


 まるで、私が、五井家の騒動のキーパーソンのような扱いだった…


 まあ、そんなに深く、考えずとも、実際は、私が、諏訪野伸明と結婚するかもしれないから、私に接近したというのが、真相だろう…


 五井家当主、諏訪野伸明の妻となる女と、親交を得ることは、悪いことではない…


 むしろ、五井家内で、生きるのに、際して、五井本家の人間と、親交を深めるのは、必須だ…


 と、ここまで、考えて、気付いた…


 これでは、話が、逆だ…


 これでは、重方(しげかた)が、五井家残留に、必死になっているように、思える…


 現実は、五井家残留ではなく、五井家の本家を、乗っ取ろうとしていたのだ…


 私は、思った…


 と、思いながら、気付いた…


 諏訪野マミの言葉を、だ…


 重方(しげかた)は、周囲に流されやすく、気の弱いところがあると、彼女は、言っていた…


 そして、息子の冬馬は、それを嫌っていた、と…


 その重方(しげかた)を、嫌う原因は、冬馬もまた、自分自身が、父の重方(しげかた)同様、ひとに、流されやすい面があり、それを自覚していたからだ、と…


 ということは、どうだ?


 あのとき、重方(しげかた)が、私に、接触してきた真意を、だ…


 菊池重方(しげかた)は、米倉平造という人物と、組んで、五井家を乗っ取ろうとした、と、藤原ナオキは、言っていた…


 米倉平造は、やり手として、知られる人物だと言った…


 要するに、米倉平造は、菊池重方(しげかた)が、くみしやすいと、見たに違いなかった…


 あるいは、


 利用しやすいと、見たに、違いなかった…


 重方(しげかた)を、そそのかして、五井家の分断を狙ったのかもしれなかった…


 そして、そんなふうに、他人に御しやすいと、見られる、重方(しげかた)を、姉の、昭子は、嫌っていたに違いない…


 重方(しげかた)は、無能ではない…


 だが、他人に御しやすいと、思われる、人間的な弱さがある…


 その弱さゆえ、他人に利用されやすいから、国会議員になることを、反対したに違いない…


 国会議員になれば、五井家の金を目当てに、寄って来る輩(やから)が、たくさんいるからだ…


 それを、昭子は、恐れて、重方(しげかた)が、国会議員になることを、反対した…


 が、


 結果は、どうだ?


 重方(しげかた)は、自民党の大場派の幹部…


 五井の金を使ったか、どうかは、わからないが、現在の地位を見たときは、昭子の目は、狂っていたことになる…


 間違っていたことになる…


 なぜなら、自民党の派閥の幹部の位置に就けたからだ…


 大多数の国会議員は、その地位に就けない…


 ということは、どうだ?


 菊池重方(しげかた)は、国会議員として、出世したということになる…


 成功したということになる…


 つまりは、昭子の読みは、間違っていたことになる…


 ということは、どうだ?


 昭子は、本当は、重方(しげかた)を、恐れていた?


 そんな仮説も、成り立つ…


 恐れているがゆえに、国会議員になることを、反対した…


 国会議員になれば、力を持つことができる…


 必然的に、五井家内での地位も、上がる…


 すると、どうだ?


 なにが、困る?


 息子の伸明の邪魔になることを、恐れたのではないか?


 力をつけた重方(しげかた)が、伸明の邪魔をしたり、あるいは、伸明をはるかに超える力を得ては、困る…


 ありていに、言えば、五井家内での、パワーバランスが、崩れる…


 そういうことだ…


 それを、恐れた可能性もある…


 それゆえ、息子の冬馬共々、追放した…


 そうともいえるのではないか?


 私は、思った…


 が、


 これは、仮設…


 あくまで、仮説に、過ぎない…


 重方(しげかた)の本当の評価は、国会の関係者に聞いてみなければ、わからない…


 私が、そんなことを、考えてると、傍らの看護師の佐藤ナナが、


 「…寿さん…なにを考えてるんですか?…」


 と、いきなり、聞いてきた…


 「…なにを、考えていると、言っても…」


 私は、曖昧に、言葉を濁した…


 私と、佐藤ナナは、前回、菊池重方(しげかた)と、会った時と、同じ、ベンチで、二人とも、腰かけて、座っていた…


 いわゆるリハビリの散歩の最中で、休憩を取っているところだった…


 「…やっぱり、結婚ですか?…」


 佐藤ナナが、私をからかうように、ニヤニヤして、問いかける…


 「…結婚?…」


 考えもしなかった…


 たしかに、私と諏訪野伸明の結婚は、噂されてるが、当の私は? というと、半信半疑というか…


 本当に、私でいいのだろうか?


 という気持ちと、


 なにか、裏があるのではないか?


 という気持ちが、半々…


 いや、


 明らかに猜疑心が、勝っている…


 あの昭子自らが、私を伸明の嫁にと、言ってくれたが、どうにも、信じられないのだ…


 なにより、私の当面の課題は、体力の回復だった…


 松葉杖を用いず、以前のように、普通の生活ができることだった…


 癌のことは、あるが、こればかりは、考えても仕方がない…


 いずれ、遠からず、天に召されるであろう…


 その予感はあるし、それは、予感というよりも、確信に近いものだった…


 だから、どうしても、結婚について、深刻に考えることができなかった…


 「…その様子だと、あまり考えてないようですね…」


 「…ええ…」


 私は、曖昧に返事した…


 「…どうしてですか?…」


 「…どうしてって?…」


 「…だって、寿さんは、諏訪野さんと、結婚するんでしょ?…」


 「…それは、わからない…」


 「…わからない…どうして、わからないんですか?…」


 「…なんとなく、実感が湧かないというか…それに…」


 「…それに、なんですか?…」


 「…私の病気…」


 「…病気?…」


 「…今、こうして、松葉杖をついているのも、そうだけど、癌のこともある…」


 「…」


 「…だから、どうしても、自分の体調が、優先になるというか…一番になる…」


 「…」


 「…あとは、五井家のゴタゴタ…」


 「…ゴタゴタ…」


 「…私は、ただ、この五井記念病院に、入院しているだけなのに、なぜか、五井家のゴタゴタに、巻き込まれている…」


 「…」


 「…正直、どうしてだか、わからないけど、五井家の人間が、次々と、私の元にやって来る…私は、ただの病人なのに…」


 私が、わざとボケても、佐藤ナナは、笑わなかった…


 むしろ、


 「…ただの病人…」


 という言葉に反応した…


 「…ただの病人じゃないですよ…」


 「…どういう意味?…」


 「…だって、寿さんは、有名人じゃないですか?…」


 たしかに、有名人に違いなかった…


 私が、諏訪野伸明の、事実上の婚約者のような扱いだったのを、最初は、この病院の一部の者しか、知らなかった…


 菊池冬馬や、長谷川センセイ、そして、この佐藤ナナだけしか、知らなかった…


 しかしながら、重方(しげかた)、冬馬、父子が、五井家を追放され、冬馬は、この五井記念病院の理事長を、実質、解任された…


 それが、週刊誌に載り、私の存在が、明らかになった…


 五井家の内紛が、世間に公になり、その五井家の当主と、結婚するかもしれない、女が、今、五井記念病院に、入院している事実が、明らかになった…


 それで、この病院の入院患者を、含めた、病院の関係者全員が、私の存在を知ることになった…


 認知することになった…


 いや、


 違う…


 もしかしたら、冬馬と、病院の廊下で、やり合ったときが、ダメ出しだったかもしれない…


 この五井記念病院の理事長と、入院患者が、やり合ったのだ…


 口げんかをしたのだ…


 病院中の話題になることは、必然だった…


 私は、そんなことを、考えた…


 考え続けた…


 すると、つくづく、結婚が、遠いと思った…


 なんだか、わからないが、ゴタゴタが、多すぎる…


 それに、私の体調…


 正直、結婚どころではなかった…


 私が、ジュン君の運転するクルマにはねられ、入院した…


 が、


 運よく、九死に一生を得た…


 生き延びた…


 辛うじて、九死に一生を得た、私の姿を見て、諏訪野伸明は、私と結婚したいと、思ったに違いなかった…


 自分で、言うのも、なんだが、なくなって、初めて、気付くものがある…


 誰もが、一番、思い当たるのが、肉親の死…


 両親でも、祖父母でも、いたときは、あまり、好きではなくても、やはり、いざ、亡くなってみると、その存在感の大きさに気付くというか…


 いかに自分にとって、大切な存在だったのか、実感する…


 それと、同じ…


 おそらく、私と知り合った当時は、諏訪野伸明は、私のことを、そこまで、大切な存在には、思っていなかったに違いない…


 が、


 危うく、私が、死にかけたことで、私が、自分にとって、得難い存在だと、気付いたのだろう…


 自分で、こんなふうに自分のことを、言うのは、おもはゆいが、それが、事実だろう…


 私は、思った…


 事実、私と、諏訪野伸明は、たしかに、互いに、惹かれ合ったが、以前は、結婚を意識するまでの関係ではなかった…


 すべては、私が、事故で、入院して、死にかけたことで、関係が変わったというか…


 進化したというか…


 それが、現実だった…


 以前は、互いに、惹かれ合ったが、結婚を意識するまでの、関係では、なかった…


 それを、思えば、僥倖(ぎょうこう)…


 まさに、禍を転じて福と為すだった…


 危うく、事故で、殺されかけたことが、運命のいたずらか…


 その後の人生を大げさに、言えば、決定づけた…


 そもそも、あの事故がなければ、私が、諏訪野伸明と、結婚するかもしれないなどと、いうことは、なかった…


 まさに、あの事故が、運命の分かれ目だった…


 私の人生の分かれ目だった…


 と、ここまで、考えて、気付いた…


 私が、その後、この五井記念病院に担ぎ込まれた経緯を、だ…


 私が、ジュン君の運転するクルマにはねられて、それを知った、菊池リンが、私を、この五井記念病院に入院させるべく、手配したと、後で、聞いた…


 つまりは、別の見方をすれば、なにが、起こるか、あらかじめ、予想がついていたと、いうことだ…


 いや、


 予想がつかずとも、なにかが、起きることを、知っていた…


 つまりは、あのとき、FK興産の社長室で、私は、藤原ナオキの元の妻である、藤原ユリコと、対峙した…


 その結果、ユリコは、私の正体…


 つまりは、私は、寿綾乃を名乗る女であり、本当は、別人…


 従妹に過ぎないということ…


 本物の寿綾乃は、亡くなり、私、矢代綾子が、寿綾乃と、入れ替わった…


 それを知った…


 それを、発案したのは、母…


 亡くなった母だった…


 従妹の寿綾乃は、大金持ちの隠し子…


 そのときは、五井家の人間の隠し子だとは、知らなかったが、その寿綾乃になりすますことで、今後の私の人生が、好転すると、信じていた…


 平凡な母が、娘の私にできる、ただひとつのことだった…


 母が、自分の死に際して、できる、ただひとつのことだった…


 金持ちの娘と、入れ替わることで、将来、莫大な財産を得られる可能性が、高いからだ…


 ルール違反も甚だしいが、それが、母が、私にしてくれた、最大のプレゼントだった…


 そして、私は、母の言う通りにした…


 生まれ育った故郷を離れ、寿綾乃として、生きた…


 それを、あのユリコが、掴んだ…


 その秘密を掴んだ…


 その秘密を、勝ち誇って、私に告げるユリコに、私もまた、反撃した…


 ユリコの息子、ジュン君が、誰の子供か?と、聞いたのだ…


 ジュン君は、藤原ナオキの子供…


 これは、周知の事実だった…


 が、


 私には、どうしても、そうは思えなかった…


 たしかに、姿形は、似ている…


 父子といえば、疑うものは、いないに違いない…


 にもかかわらず、私が疑問を持ったのは、ほぼ十年以上前に、別れて、姿を消した、ユリコが、突然、現れた…


 が、


 ユリコは、ジュン君とは、会うが、ナオキとは、一切会わなかった…


 これが、疑問を感じた点だ…


 いくら離婚しても、十年以上経って、再会すれば、ナオキと会っても、いいはずだ…


 が、


 それを一切しない…


 しかも、ユリコとナオキは、互いに憎み合って、別れたわけではなかった…


 結果的には、私が、ユリコからナオキを盗った形になった…


 私としては、不本意だが、それが、事実だった…


 妻帯者のナオキを、無理やり、寝取った形になった…


 だから、ユリコと、ナオキの間に憎しみはないに違いない…


 にもかかわらず、ユリコは、ナオキと会おうともしなかった…


 私には、それが、引っかかった…


 だから、あのとき、


 「…ジュン君は、誰の子供ですか?…」


 と、聞いた…


 ジュン君の父親は、ナオキではない、確信があった…


 普通は、ジュン君と再会すれば、ジュン君の父親のナオキとも、会おうと思うに違いないからだ…


 それをしない、ユリコを疑った…


 それを突かれた、ユリコは、動揺した…


 そして、ほどなく、ジュン君の父親が、ナオキでない事実を認めた…


 今の時代、DNA鑑定をすれば、容易に、血縁関係の有無がわかる…


 それをほのめかした私に、ユリコが、白旗を上げた感じだった…


 そして、それらの一切の出来事を、あの菊池リンは、近くで、息を潜めて、聞いていた…


 私が、社長室を出たときに、菊池リンの姿を、見て、なぜ、彼女が、こんなところにいるのだろう?


 と、疑問に思った…


 が、


 やがて、私が、会社を出て、ほどなく、ジュン君の運転するクルマにはねられて、菊池リンの正体に気付いた…


 なぜなら、あのとき、ハンドルを握るジュン君は、泣いていた…


 涙を流していた…


 ということは、なにか、ショックを受ける出来事があったに違いない…


 そして、思い当たるのは、ジュン君が、藤原ナオキの息子でないことを知った…


 それだけだった…


 私は、ジュン君と同居していて、ジュン君のことは、なんでも知っている…


 その日までは、ジュン君は、自分の父親は、藤原ナオキだと信じていた…


 しかし、それが、事実でないと知ったとしたら、菊池リンからの連絡に違いなかった…


 菊池リンは、ジュン君とも交流があった…


 だから、ジュン君のスマホの番号は知っている…


 それゆえ、あのとき、菊池リンが、ジュン君に、教えたと、確信した…


 が、ここで、言いたいのは、そのことではない…


 あのとき、なぜ、ジュン君が、私をクルマで、はねたということだ…


 もしや?


 もしや?


 あのとき、菊池リンが、ジュン君に、私をクルマで、はねることを、命じないまでも、ほのめかすような真似をしたのではないか?


 不意に、そんな疑問が、脳裏に浮かんだ…


 だから、それが、実際に起こったときに、すぐに、私を五井記念病院に、運ぶよう、手筈を整えていたのではないか?


 そう思った…


 つまりは、もしかしたら、菊池リンが、ジュン君を操った?


 ということは、どうだ?


 それは、菊池リンの発案か?


 それとも、菊池リンの背後に誰か、いるのか?


 それが、問題となる…


 そして、普通に考えれば、誰かいる…


 ジュン君に、クルマで、私をはねるように、仕向けた人間が誰かいる?


 それが、誰かということだ…


 普通に考えれば、それは、五井家の人間…


 五井家の誰かということだ…


 それは、一体誰?


 私は、考えた…


 諏訪野伸明…


 諏訪野昭子…


 諏訪野リン…


 諏訪野和子…


 菊池リン…


 とにかく、ありとあらゆる五井家の人間の名前を脳裏に浮かべた…


 誰だか、さっぱりわからないからだ…


 諏訪野伸明たちは、疑いたくないが、リストから消すことはできなかった…


 なぜなら、彼もまた五井一族だからだ…


 私が、そんなことを、考えてると、


 「…寿さんって、ホント、面白いですね…」


 と、傍らの佐藤ナナが言った…


 …面白い?…


 …どういう意味だろ?…


 私は、思った…


 だから、


 「…佐藤さん…私が面白いって、一体?…」


 と、聞いた…


 「…寿綾乃…自分が、いる立ち位置に最後まで、気付かないんだもの?…」


 「…立ち位置?…」


 と、思わず、呟いて、絶句した…


 一体、この佐藤ナナは、なにを、言いだすんだろう?


 いや、


 そもそも、この佐藤ナナの正体は?


 私の頭の中で、そんな疑問が、めまぐるしく回転した…


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