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砂浜の上の僕ら  作者: 蜜樹


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崩壊の自覚

ベンチの冷たさが、太もも越しにじわりと伝わる。

直人はホームの端に座り、うつむいたまま動けずにいた。

さっきまで立っていた車内のざわめきが、まだ耳の奥で反響している。

視界の白さは引いたが、身体の芯が抜け落ちたような感覚は残っている。

駅員がしゃがみ込み、穏やかな声で言う。

「少し休みましょう。無理しないで」

無理。

その言葉が、妙に引っかかる。

無理していたのかな。

自分なりに問題なくやっていたはずだった。

スマホを取り出す。

会社へ連絡を入れなければならない。

画面に映る社名。

指が震える。

「体調不良のため、本日お休みをいただきます。」

それだけの文章を打つのに、五分以上かかった。

送信ボタンを押した瞬間、胸が強く締めつけられた。


返信はすぐに来た。

「了解しました。ゆっくり休んでください。」

責める言葉はない。


やがて逆方向の電車がホームに来た。

いつもなら職場に着いている時間だ。

その逆方向の電車に乗り込んだ。

ドアが閉まり電車がゆっくりと動き出す。

窓の外に、新宿のビル群が遠ざかる。

ガラスに映る自分の顔は青白い。

三鷹へ戻るまでの時間は通常よりも長く感じた。


三鷹の空は、澄み切った青空であった。

ロータリーでは、保育園児の列が横断歩道を渡っている。

朝の通勤時間帯とは違う光景。

直人は人混みを避けるように歩く。

自分だけが、本来ここにいるべきではない時間に立っているような感覚がする。


玉川上水沿いのベンチに座る。

冷たい木の感触。

呼吸は落ち着いている。

だが胸の奥に空洞がある。


会議室。

課長の声。

「数字を並べるだけなら、誰でもできる。」

怒鳴られてはいない。

正論だった。

その時の健一の笑みは何だったのだろう?

直人は自分の両手を見る。

わずかに震えている。


アパートのドアを開けると、いつもの匂いがする。

社会人になってから、この部屋にこの時間にいるのは初めてだった。

カーテンを閉める。

部屋が薄暗くなる。

スーツのまま床に座り、壁にもたれる。

全身の力が抜ける。

昼間の住宅街の音が遠くから聞こえる。

郵便受けに何かが落ちる音。

子どもの笑い声。


社会は動いている。

新宿のオフィスもいつもと変わらず通常通りだろう。

自分だけが外れた。

その事実が、怖い。


床に寝転び目を閉じる。


今朝の電車が蘇る。

動かない中央線。

逃げ場のない車内。

心臓が早くなる。

直人はゆっくり息を吐く。

だが震えは止まらない。

そのとき、直人は初めて思う。

「病院に行くべきかもしれない。」

六畳の天井を見上げながら、

直人は静かに、自分が壊れていっていることを感じた。

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