表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
砂浜の上の僕ら  作者: 蜜樹


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/28

波が引くとき

カーテンの隙間から差し込む光が、ゆっくりと角度を変える。

起きようとしてもどうにも身体が起き上がらない。

スマホが震える。

健一からだ。

「明日の定例会議の資料、佐藤君に作成してもらおうと思ってるからよろしく。」

既読をつけることが怖い。

心臓の音がうるさい。

呼吸が浅い。

指が震えながら、返信を打つ。

「申し訳ありません。体調が悪く、課長に連絡し、本日お休みをいただきました。」

送信。

すぐに既読になった。


昼過ぎ、健一から通知が届く。

「正直突然休まれると困る。社会人としての責任は持ってください」 

スマホが手から落ちる。

床に当たる鈍い音。

「ごめんなさい」

涙が止まらない。

その時、母からの電話。

一瞬、出るのをためらったが、電話に出る。

「もしもし」

声が掠れる。

「直人?声、変だよ」

いつも通りの声。

柔らかい。

それだけで、涙が溢れる。

「ごめん⋯」

「どうしたの?」

「また、行けなくなっちゃった」

一瞬の沈黙。

「そっか⋯。海ね、今日は静かだよ」と母。

直人は目を閉じる。

九十九里浜のあの広い海を思い浮かべる。

「波ってずっと寄せてるわけじゃないじゃない」

母は続ける。

「寄せては引いて、また次が来る」

その言葉が、胸の奥にゆっくりと沈みこむ。

電話を切ったあと、直人はベランダに出た。

三鷹の空は、薄い夕焼けに染まっている。

引く波の静けさを思い出す。

それは敗北ではない。

力を溜める時間。


夜、課長からメールが届く。

「体調は大丈夫ですか?現在の状況を踏まえ、明日、今後の働き方について話し合いの場を設けたいと思います。」

スマホを握る手に、汗が滲む。

怖い。

ベッドに横たわる。

恐怖は消えない。

胸は重い。

その時、母の言葉を思い出す。

逃げるのではなく、引いている。

寄せる前の、静かな波の音が聞こえる気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ