表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

8/30

8.国王陛下に会う

グレーのパンツスーツを着た私を、舌打ちしそうな勢いで睨み付けているメイド1号さんと、いつまでも続く小声悪口二人組。


(ねぇ、あんな服見たことある?)


(あるよ、私のお爺さんが着てた)


(ホントに?あんたのお爺さんヤバくない?)


(は?この前花瓶と話してたけど文句ある?)


(だからかー)


(寝るとき着てたよ、クスクス)


このスーツ、寝巻きだと思われてるんだ。そこそこ高かったけど、場所が違えば常識も違うから仕方ない。


でも国王陛下に会うのにはきっと適さない服なんだろうなー。メイド1号さんの視線だけで私の終了をひしひしと感じる。



いよいよ時間となり、護衛騎士さんが迎えに来たとメイド1号さんが教えてくれた。


「大聖女様、ご案内…させていただきます」


護衛騎士さんが私の服装を見て戸惑っている。たぶん普段は動揺したりしないんでしょうね。色々頑張ってもらったのですが、結果コレです…。


しかもこの世界に来て初めて宰相と話したときに後ろにいた、厳ついお顔の護衛騎士さんでした。


その護衛騎士さんともうお一人の騎士さん、メイド1号さんと例の二人…、期待を裏切ることなくクスクス祭りは続いている。


5人と私で長い廊下を歩くこと数分。

 自称少々ぽっちゃりの私には息が切れる距離だった。護衛騎士さんのあとを少し小走りで追いかける。


この家なんなの?ビルなの?本当に広い、広過ぎる。誰かいないと迷子になって、二度と私に与えられた部屋に戻れないと思う。


私の息切れのはぁはぁが聞こえたのか、騎士さんが立ち止まった。


「大聖女様、申し訳ありません。一度呼吸を整えましょう」


止まってくれてもまだ私がはぁはぁしているのを心配そうに見ている騎士さんと、例の二人。


(ちょっと、ブヒブヒ言ってるよ!)


(えー?前足も使えば早いのにね!)


(だよね!ヒヅメも使えばいいのにね!)


(クスクス、四足歩行の方が絶対に早いし楽だと思う───


小声悪口二人組が休むことなくクスクスしていると、二人の方を向いた騎士さんが、


「おい、お前たちは誰の指示で同行している?お前たちはここまででいい。持ち場に戻れ、もう必要ない」


あら、騎士さん。意外と気が短いのかな。私は何となくあの二人が面白くなってきたのだけど。


「「はぁい、わかりましたー」」


えっ?引くの早くない?

もう少し食い下がってほしかったけど、あー行っちゃった。


「大聖女様、適切な教育を受けていない、品の無い者がお側にいたこと、申し訳ありませんでした。この事はフェリクス殿下と侍女長に報告します」


騎士さんが言い終わるとすぐにメイド1号さんが、


「えっ?あっ、すっすみません、急に体調が優れませんので、私も下がらせて頂きます…」


あら、騎士さんが王子様に言い付ける発言の途端、メイド1号さんも信じられない素早さでいなくなりました。


「……大聖女様、数々のご無礼を何卒お許し下さい。今後、大聖女様に安心して過ごして頂けるよう誠心誠意努めて参ります」


「頭を上げてください、私は…大丈夫です」


こんな扱いを受けて、たぶん私が怒って暴れてもきっと誰も文句は言わないだろう。だって私を必要として呼び寄せたのだから。


たまたまハズレのメイドさんだったと思いたい…

この騎士さんのように親切な人もいるとわかれば、仕方ないと思うしかない。


騎士さんはまた少し心配そうな顔をすると、歩いても良いかと私に確認したあと、今度は私の歩調に合わせて目的の場所まで歩いてくれた。


国王陛下と会うための部屋に通され、ソファーに座って待つこと…ややしばらく。

……。体感ではもう1時間は経っている。


待つのは構わない。ここでの私には何の予定もない。


でも時間を守ることは、相手を大切に思っていたり、誠意を見せるのには重要なことだと入社式でも会長が話していたけど、子供の頃から当たり前のこととして生きてきた私には謎でしかない。


急に都合が悪くなったのなら、連絡してくれればいいのに。知らないところに一人で待つのって不安だし怖い。


本当なら今日は治験の患者さんの話しを聞いていたはずだ。あの薬の治験は私が初めて担当したから、最後まで結果が知りたかったな…。私の仕事、誰がやってるんだろう。



静かな部屋にお腹がキュルルーと鳴る音が響いた。


それにしてもお腹空いた…。

昨日の朝から何も食べていない私は、座った時から目の前にある皿に置かれた小さなクッキーのようなものに釘付けになっていた。


いよいよ空腹に耐えきれず、すがるように先程の護衛騎士さんをチラッと見ると、騎士様はゆっくりと目をつぶる。


えっ?いいの!良いんだよね!?やったー! 私はこんなに素早く口に入れたことが無いと言うくらい皿の上のクッキーを秒で平らげた。

あ~久しぶりの食べ物、染みるわ~


お礼をしようと護衛騎士さんを見ると、大きく目を見開き固まっている。


あら?これは?やったの…?私やってしまったの?でも、飢えた私の前に罠のような餌を置かれたら、それは私のせいだけでも無いのでは……


その瞬間、ガチャっと扉が開き、王子様にそっくりな、背の高い40代?くらいの男性が入って来た。


豪華な服の左胸には無数の宝石で作られた勲章のようなものが輝いており、その黒い上着は金の糸で緻密な刺繍が装飾されていて、左肩から下げられた布がマントのように靡いていた。

名乗らずとも誰かわかる。


白に近い金色の髪に濃く青い瞳、鼻の下にはお髭が整えられており、このお髭がなければ国王陛下か王子様か私なら見分けがつかないかもしれない。


国王陛下はチラッとテーブルの上にある空のお皿に目をやると、わずかに目を細めた。

終わった、私が終了します…。

 怖い、一生刑務所とか嫌だな。何のためにこの世界に来たのかますますわからなくなる。


聖女として呼ばれたのに、王様のクッキーをペロリして終了。



「待たせたな、貴女が聖女か。宰相の話しでは大聖女だと聞いたが…」


国王陛下は低い声でそう言うと、私を値踏みするように頭から足の方までゆっくりと目線を落としていき、あからさまなため息をつくと、


「せいぜい己の役割を果たすんだな。召喚時に聖女の待遇について大層ごねたらしいな。準王族として扱うことに何の不満がある。これ以上の要求は一切受け付けない。神官長の指示に従い聖女としてのスキルを上げるんだ」


一方的に言うことだけ言うと、たくさんの護衛を引き連れて出ていってしまった。

出ていく時に、私を案内してくれた厳つい顔の護衛騎士さんに、


「ちゃんと躾ておけ」


と低い声で言い、部屋を出ていった。


あっという間の出来事に唖然としてしまい、一言も発することなく終わってしまった。


待たせた謝罪も無いし、なんでこの国の人って初対面なのに怒ってる人ばっかりなの?ヤダもう…


しかも待遇にごねたって言ってたけど、なんのこと?そもそもこの世界に住むつもりもないのに。


私を拉致した首謀者であろうあなたは罪にならず、帰りたいと当たり前の主張した私がヤバい人扱いで躾られる立場になるって…おかしくない?



それに私、誰にも一度も名前を聞かれてないし、教えてもらってない。


この世界に来て私の名は『聖女』という役割の人間となり、

『岡本美麗』として生きてきた人間は誰も求めていないんだ。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ