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7.異世界1日目

目を覚ますと暗い部屋にいた。


見慣れない天井は天蓋のようで、それに続く布がベッドの端に垂れている。

 自分の部屋のベッドではないことが、さっきまでの出来事が夢じゃなかったんだと、絶望にも似た感情が胸の辺りを重くする。


私、知らない世界に召喚されて聖女だって言われて、ここに残ることになって……


美結ちゃん無事かな。

ぶつかる前にちゃんと戻って、新聞配達最後まで出来たかな。


美結ちゃんも帰ってしまって、私一人になっちゃった。


誰も知ってる人のいないところで私は生きていくんだ。そういえば聖女は100年生きるって言ってたよね。完全アウェイの状況で100歳まで…辛いな、辛すぎる。


それにあのおじさん、神官長さんがあの時呟いた言葉、


なんでコイツなんだ───


やっぱり美結ちゃんの方が見た目からしても聖女っぽいよね。聖女ってまだよくわからないけど。


それに宰相とか護衛の一番強い感じの人とか、黒いマントの人とか、何人か私の前に跪いておめでとうみたいなこと言ってたけど、最後まで王子様は来なかったな。


王子様も美結ちゃんが聖女であって欲しいと思ってたんだろうね。


自分では少しぽっちゃりと思っていても、厳しめの人には痩せなよーって言われてたから、裕太が言うように私は一般的にはおデブなのはわかってるし。


ここに来てから、私のお仲間のような親近感湧く体型の人は一人もいなかったもんね。だからかなー。


しかも美結ちゃんの見た目も美少女と言う言葉がまさに当てはまる可愛さだったし。


おデブさんと美少女を比べたら、どちらが良いかなんて聞くまでも無いもん。


あー、私はこれからどうなるんだろう。こんな気分の時こそお父さんと一緒にスイーツを食べたい。

でももうお父さんの中に私は存在しない。お母さんの中にも裕太の中にも。


そしてこっちの世界で受け入れて貰えなかったら、私くじけるかも知れない。

お父さん、お母さん、裕太──


目を閉じても次から次へと流れる涙は止めることも出来ず、またそのまま眠りに落ちていた。



ガタンッ、ジャッ、バサッ──

「起きてください!いつまで寝てるんですか!」


心臓が物凄くドキドキしている。

いきなりの物音に、ベッドに付いているカーテンを開けられ、掛布団を剥ぎ取られた。

驚きと急に冷気にさらされた体が強ばり、動悸がおさまらない。

怖い、なんで朝からこの人こんなに怒ってるの……?


「ずいぶんと睡眠時間長いんですね、まるでブタみた、あー失礼しました。もう朝食の時間はとっくに終わりましたよ、まあ1食抜いたくらいじゃなんともないですよね」


あぁ… こういう感じでくるのか…。終わったな、私。

きっとこの程度はまだ優しい方だと思っておいた方が良いのかな。


元の世界でも、冷たくされて当たり前でしょ?っていう態度の人が度々いた。

 自己管理が出来ていない人間は同じ立場に立てないと遠回しに言われた。その時の悲しさがよみがえる。


 「すみません、夜中に目が覚めたらそのあと寝付けなくて…」


そのメイド服を着た人はスタスタとバスルームに向かって行った。

私の言葉を聞いてもくれないんだなーと思っていると、同じようなメイド服を着た人が二人部屋に入って来た。


 「「失礼しまーす」」


(やっと起きたんだね)


  (ホント、起きないかと思った)


  (クスクス、ダメだよこのまま一生 寝てれば良いのになんて言ったら)


 (クスクス、やだ言ってないよ、ブタの睡眠時間は長いなんて)


 (やだもうークスクス)


小声ならもっと徹底して小声でお願いしたい。聞かせるつもりならハッキリ言ってくれて良いのに。その方がスッキリするでしょうに。



 「すみません、着替えてもらえます?って、えっ?その顔何ですか?元から?」


えっ?どういうこと?

一番最初に来た怖い人、メイド1号さんが物凄く面倒くさそうに私に手鏡を差し出した。


「あ、ありがとうございます…って、えっ、ヒドい…なにこの浮腫み……!」


そうか昨日の夜泣きながら寝たからかな?こんなこと初めて、どうしよう、治るのかな。


(ねぇ、浮腫みって言ってるよ、嘘でしょ、元から目まで太ってるよね?)


(ちょっと止めて吹き出しちゃう!だって聞いた?昨日倒れた時運ぶの大変だったらしいよ!)


(聞いた聞いた、怪力の騎士団長が一瞬戸惑ったって)


(えー?こんな樽、一人で持てるかって?嘘でしょ!)


(樽って!止めてよクスクス)


あぁ、もう聞こえてますよ。なんであの二人いるんだろうね?


「今日はこれから国王陛下の謁見があります。失礼の無いように身だしなみを整えますから!」


それからは凄く大きなお風呂に入れられ、さっきの小声悪口二人組に体を洗われながらまたクスクス笑われ、

メイド1号さんに顔がちぎれるかと思うほどのマッサージを受けて、浮腫みも何とか取れた。顔が痛い。


その後がまた大変だった。

私の体に合うドレスが無いと、メイド1号さんはぶちギレて、小声悪口二人組はまたクスクスクスクスと永遠に悪口を言って笑っている。


はぁ、なんでこんなことに…

私だってここに居たくて居るわけじゃないのに。これってずっと続くのかな。


しかも思い起こせば昨日の朝から何も食べていない。昨日の朝食べたお母さんのおにぎり美味しかったな、でももう食べられないんだよね。


そう思うと涙がポロポロと溢れた。


すかさず横からメイド1号さんが、

「ちょっと!せっかく丁寧にマッサージして化粧したのに止めてください!涙を止めなさいっ!」


「はい!ずみばせん、グスッ…!」


渡された小さなハンカチでお化粧が崩れないようソッと涙を拭って、垂れた鼻水もこっそり拭いた。


(やだ、泣いてるよ?)


(違うよ、汗だよ!ほら、あーいう人って冬でも汗かいてるでしょ)


(クスクス、えー?目からも汗?)


(そうだよ、目も太ってるって言ったじゃない)


(クスクス、でも──)


「うるさいっ!あんたたちいつまでもうるさいのよ!黙りなさい!」


メイド1号さんが今度は小声悪口二人組に盛大にぶちギレている。

あぁもう怖いから止めて欲しい…本当に心臓が止まりそう。


「「はぁーい、すみませーん」」


そのあと、どこかから私でも着れそうな服を持って来て、お腹にコルセットを巻かれ、メイド1号さんと小声悪口二人組の三人がかりでギュウギュウと締め上げられた。

苦しくて息も絶え絶えとなったにもかかわらず、持ってきてくれたワンピースのような服も入らなかった。


メイド1号さんはさらにぶちギレて、小声悪口二人組はクスクスクスクスとずっと笑っていた。


あんなに怒られ笑われ締め上げられたけど、結局私は自分の着ていたグレーのパンツスーツを着ることになった。





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