5.残酷な選択②
「帰れるのはどちらかお一人だけです」
私の肉肉しい体にしっかりと抱き付いていた美結ちゃんの腕の力がフッと抜けた。
「何故ですか?何故二人とも帰れないのですか?二人同時に召喚したなら、二人同時に帰ることも出来ますよね!?」
争い事は嫌いだから、今までの人生で誰かに大きめの声で詰め寄ったことなど一度もない。
そんな怖いことするくらいなら、黙ってその場をやり過ごす方が良い。それが私なのだ。
だけどこの時は、私たちが今までの生活に戻れるかもしれない可能性がかかっている。さすがに強い口調になった。
王子様の隣に座っている宰相も、後ろに立っている兵士二人も、眉間にシワを寄せて難しい顔をして私たちを見ている。
「この召喚の儀で二人一緒に召喚されたことは過去に例が無い。そして今まで召喚された聖女様が、元いた世界に戻りたいと言った例もほとんど無いんだ。
過去に召喚された聖女様は皆が幸せだったと、今年旅立たれた聖女様も不満は言わなかった。我々は貴女方が幸せに過ごせる準備はしてある。
それでも帰りたいと言った場合の救済方法も、女神クリスティーナから授けられている。しかしそれはあくまでも一人が前提だ。
そもそも召喚するのは一人のはずだから。
ところが我々もこの度なぜ二人の聖女様を迎えることになったのかわからない。無理に二人を帰還の儀で送り出したとして、無事に二人ともが元いた世界に戻れると言う保障はない。それに…」
王子様は宰相の方をチラッと目をやり、話し難そうに続ける。
「我々の召喚の儀の目的は、聖女様に我が国の魔物と瘴気の問題を解決していただきたいからだ。
そして今の段階では貴女方のどちらが聖女様なのかわからないのだ。
元いた世界に帰りたい気持ちは十分理解している。が、しかし我々にとっても国の存亡をかけた問題でもある。このまま私の大切な国民を魔物の餌食にするわけにはいかないんだ。そこは理解して欲しい。
その上で聖女判定を受けて頂きたい。
どちらが聖女様なのか、我々もこの召喚の儀のために長年尽力してきた。しかしせっかくお招きした聖女様に帰られてしまってはその努力すら無駄になる。
こちらの都合ばかりなのは承知している。帰還の儀を本物の聖女様に執り行うことは出来ない」
言葉も無かった。
理屈はわかる。もし元いた世界で同じような事が起きるとして、助かる方法があるなら何故それを使わないの?となるだろう。
同じように異世界から無関係な人を召喚しても、世界を救ってくれてありがとうとは思っても、巻き込まれた可哀想な人だとすぐには思い至らないかもしれない。
でも、帰りたい。この世界の人が大変な目に遇うと聞いた今でも、私は家族のもとに帰りたい。
それに、王子様は聖女様と言って美結ちゃんに手を差し出していた。その確信があるのだろう。
美結ちゃんは私の腕に美結ちゃんの腕を絡めているが、押し黙って下を向いたまま、ポタポタと落ちる涙を拭うこともせず固まっている。
「そんな、勝手過ぎませんか?そちらの都合ばかり、酷い…」
「どんなに責めて貰っても構わない。この責任は私が全て引き受ける。そして帰るとするなら今日中でなければならないのだ。
貴女方の世界からここに来るのに、女神の揺らぎという道に乗って召喚される。
その揺らぎは1日経つと閉じてしまう。閉じた揺らぎはもう二度と開かないので、同じ場所には帰れなくなってしまうのだ」
なんてこと!?のんびりしていたら二人とも帰れない。
「二人きりで話す時間をください」
私は美結ちゃんと話し、お互いに納得できる方法を相談したい。
この部屋いた全員が出ていくと、軽く息を吐き隣にいる美結ちゃんに体を向ける。
「美結ちゃん、疲れたね。でもあの人、私たちに正直に帰る方法があると教えてくれただけマシなのかも。美結ちゃんお家帰りたいよね、私も帰りたい」
私たちはとても疲れていた。召喚されてからたぶん2時間位しか経っていないと思うけど、もう頭が混乱し過ぎて考えることを止めようとしてしまう。
「帰りたいです。でも私が帰ったら美麗さんはここに残ることになって、私は私だけ帰ってもたぶんずっと苦しいと思います… もう美麗さんとも二度と会えないんですよね?そんなの辛すぎる」
「そうだよね、それは私も同じ気持ちだよ。美結ちゃんを一人残して帰っても、きっと今まで通りの生活なんて出来ない。でも、帰る方法があるなら……」
「そうですね、聖女判定?を受けてみてどちらか帰れるなら」
「うん。…それとね、日本での私たちの今の状態はどうなっているんだろうね?やっぱり行方不明で捜索されているのかな。
突然帰ったら驚かれるよね?その辺をさっきの王子様に聞いて見ようか?」
「そうですよね、例えば美麗さんだけ帰って見つかったとなって、じゃあ私はどこにいるんだってなったとき、美麗さんが疑われても困ります」
「この世界の事を説明したら、私は間違いなく入院させられるね、変なこと言い出したって。ねえ、覚えてなければ良いのかな?私と美結ちゃんがぶつかる前に戻して貰うとか」
「うん、そうしてもらったら一番良いと思います」
「美結ちゃん、こんなことが無ければこんなに良い子で可愛い美結ちゃんと出会って話すことも無かったよね。私、この場に美結ちゃんがいなかったらどうなってたかわからない」
「私も美麗さんがいなかったらって考えたら怖すぎて倒れそうです」
私たちがまた抱き合っていると、扉をノックすると同時に、先程までいた人たちが入ってきてまた同じ位置に座った。




