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24.遅れてきた謝罪

私は貴賓室に通された。

もちろんノアさんも一緒だ。


まず、この人たちは信用ならない。


私は、私やノアさんが不快に感じたり、メルトル村に危険が及ぶような話しになれば、話しの途中でもすぐにこの場から消え去ること、そうなれば、あなたたちの要求には絶対に応じないと伝えた。

そして、カプセルバリアについても説明して、捕まえようとしたり、近寄ったりしないでと念を押した。


王様も宰相も顔を強張らせていたが、そのような愚かな行いは二度はないと言い了承してくれた。


「ノアさん、絶対に私から離れないで下さいね」

座るように言われたソファーに座ると私はまたノアさんにピッタリとくっつき、いつでもすぐに瞬間移動できるようにノアさんの手を握った。


ノアさんがビクッとなったので、あっセクハラ行為!と慌てて手を離そうとしたが、ノアさんががっちりと握ってきた。ノアさんも怖いんだ…申し訳なさすぎる。私の事情に付き合わせて、怖い目に遭わせてごめんなさい!と思いながらノアさんの手を再度ギュッと力を込めて握り返した。


ノアさんは驚いた顔で私を見たが、私がいるから大丈夫!と強く頷き笑顔を作ってノアさんを見た。



「あー、大聖女殿、こちらに出向いてくれて感謝する。私は、覚えておられるだろうか…このユストル王国国王カーティス・ユストルだ。此度の貴女の召喚から我々の数々の非礼を謝罪したい。すまなかった」


国王陛下は私の向かいに座って頭を下げている。


あの時ゴミを見るような目で私を見たあと、自分の言いたいことだけ言って私に背を向けた人。

あまりの態度の変わりように驚いていると横からノアさんが、

「レイ、頭を上げるように言って」と小さな声で教えてくれた。


「頭を上げて下さい」


私が声を掛けると、

国王陛下はゆっくりと顔を上げた。その顔は前に見た時のような若々しさは無く疲労の色が濃く陰っていた。


「そうですね、そもそもの話しです。なぜ異世界から無関係の人間を召喚しないとならないのですか?自分の国の災いなのに、なんの罪もない人間を異世界から拉致して、当然のように生涯自分の国を守るために働かせる。

もしあなたが私と同じように他国へ召喚されて、この国のために働けと言われて、はいわかりましたってその場ですぐに言えますか?今の国王陛下という立場も家族も捨てて、帰りたくても帰らせてもらえない。そんな状況にすぐ納得できますか?」


途中、謁見の時の横暴な言動を思い出し怒りの感情が込み上げたが、感情的に話しても私の悔しさは逆に伝わりにくくなると思い、静かに淡々と話した。


それに私はこの国の人間ではない。

向かいに座っている人がこの国の国王陛下だとしても、この国の人間ではない私がこの人に敬意をはらう施しも受けてないし、なんなら私にとっては私を拉致した罪人だ。名前でも呼びたくない。だから「あなた」と呼ぶことに躊躇いもない。


そのことに国王本人も周囲の者も何も言わないのは、余程私から怒りを感じるのか、私を放置した後ろめたさがあるのか。


国王陛下は眉間にシワを寄せ、テーブルの上のカップに視線を向けていたが、スッと私に目線を合わせた。


「我が国の情勢は常に魔物の存在に左右される。いつの時代もなくなることの無い魔物の恐怖に国民は怯えて暮らしている。そんな状況で聖女がいてくれる心強さは計り知れない。

聖女召喚は女神クリスティーナを信仰する我が国に女神が授けてくれた力なのだ。その聖女でなければ魔物の浄化は出来ない。聖女殿に頼るしか得られない我々の安全な日常を理解していただけないだろうか。

それでも、貴女の言っていることはもっともだ。貴女の人生を奪う権利は我々には無い。その代わりに王族に準じた生活を提供することで、許されると勝手に思っていた。過去の聖女たちの記録にも不満があったという記載は無かったのでな…」


この国の傲慢さがよくわかる。結局は自分たちの思う良い暮らしを与えるから、それで文句を言うなということだろう。


「召喚された人が不満を言わなかった、ではないですよね?言えなかったのでは?

知らない世界に連れてこられて頼れるものは目の前の人だけ。この人に逆らえば、何をされるかわからない恐怖を想像できますか?面と向かって文句なんて言えませんよ、怖くて。

従うしかない状況を作って、お前は聖女だと言って働かせる。

その人の人生の何もかもを奪って。

囚人と何が違うのでしょうね?

私が思うに豪華な生活が出来る囚人です。

あなた方はそれをわかっている。わかっていてなお、拉致してこの世界に監禁している、自分たちの生活のために。

しかも聖女しか魔物を倒せないと言い、聖女として働かなければ国民が被害に遭うと脅しまでして」


国王陛下の隣に座っている宰相の表情が険しくなった。国王陛下は私の目を真っ直ぐに見ていたが、厳しい表情をつくり目を閉じた。

私は言いたいことを言いに来た。ここで終わりでは無い。


「そしてあなたは私に、

『己の役割を果たせ。準王族の待遇に何の不満がある。これ以上の要求は受けない』と言ったんです。

私を値踏みするように見て、私に言葉を出すことを一切許さず、たっぷり一時間以上も待たせておいて。

それに、そんなに聖女が必要な状況なのに、あの態度だったんですか?

私がいつ準王族が不満と言ったのですか? 元の世界に帰りたい私が、あなたたちの言う待遇に興味があると思えないのですが」


表情を変えず国王陛下を見据える。その私の表情を見てまた目線を下げ、


「…私が、愚かだった。聞いた話しのみで貴女の人となりを判断した。一国を統べる者としてあまりにも軽率で短慮だった。本当に申し訳ない、どうか許して欲しい」


到底許せる気持ちにはなれない。

私は私の人生を奪われ、大好きな家族も失った。それなのに、この人たちの召喚後の私の扱いはゴミ以下だった。


「聞いた話し?聞いた話しとは?あの時私があなたとの謁見の前に話しをしたのは、そこの宰相と王子様だけですよ。それに私が言ったことは、家に帰して欲しいと当然のことを言っただけです。

それがなぜ待遇に不満を言っているとなったのですか?」


顔色が更に悪くなっている宰相が言葉を挟む。


「大聖女様、仰る通りです。…その、私とお話しさせて頂いた内容が、その、誤解を受ける形で伝わってしまったのがすべての原因でございます」


「あなたが国王陛下に過った情報を伝えたのがすべての元凶なんですね?」


宰相は怯えたような表情で、私に縋るような目を向けた。

そもそもこの国の在り方自体が間違っているけど、それに加えて国の重要な人物があってはならないミスをするなんて、やっぱりこの国は信用ならない。


「大聖女殿、違うのだ、間違った解釈をしたのは、…私の息子であるフェリクスなのだ。あやつが、貴女が不満を言っていると勘違いしたのだ。この宰相だけの問題ではないことはわかって欲しい」


国王陛下が宰相を庇って、我が子である王子様の失態を告白した。

そうだ、あの王子様は美結ちゃんが聖女であって欲しいと思ってたんだ。だから、私を排除したかったのね。


「王子様は私が聖女と認めたくなかったようですね。私だってこの状態はまったく望んでないです。望んでいない上にそちらの勝手な誤解で私は酷い扱いを受けた。

私はあの一月、放置された一月は本当に辛かったし、悲しかった。

ずっと、なぜ?どうして?が頭の中を巡って絶望していた。勝手に私を拉致しておいて、私を居ないものとしたことを理解できなかった。

私が魔法を使えることに気が付かなければどうなっていたか。命さえも気遣ってもらえなかった、その恐怖をあなたたちは一生理解できない。私はあなたたちを許しません」


国王陛下は一瞬縋るように私を見たあと、深く項垂れた。


私はノアさんと繋いだ手汗のかいた手を離そうとチラッと見ると、また優しい顔で私を見て頷いていた。言いたいことを遠慮なく言ったけど良かったみたい。


この国の人たちを許す気はないけど、私もズルいから鬼にはなりたくない。

それにこの国の国民が、魔物とやらに命を奪われるのを黙って見ているなんて、そんな怖いこと出来るわけない。


「でも、私の命を救った私の魔法も、この国に拉致されたことで身に付いたのは、やはりあなたが言うように聖女としての働きをしなければならないからだと思います。

罪もない人間が傷付くのを見て見ぬふりをすることが、どんなに酷く残酷なことか被害者である私が一番よくわかっていますから、国民の皆さんの安全を守ることはしたいと思います」


私がそう言うと、国王陛下も宰相も顔を上げて私を見た。その顔はまだ難しい表情をしているが、


「…大聖女殿、すまなかった。本当に申し訳ない。今後、貴女を害することは無いと誓う。貴女の心に感謝する」


国王陛下も宰相も深く頭を下げていた。

召喚は絶対ダメだけど、それとは別に、最初から人として友好的に接してくれさえいれば、ここまで拗れなかった。


家族に会えなくなって辛いけど、そんな私に寄り添ってくれていたら、私だってもっと協力的になれたかもしれない。今さらな話しだけど。



この人たちを許すことはない。

けれど、今後のことについて話し合う必要はある。宰相が姿勢を正しくし話し出した。





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