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23.ノアさんとお出かけ

その少し前。


カイル食堂からの帰り、私の緑の家まで送ると言ってくれたノアさんと歩いていた。


「ノアさんどうしよう。私、この村にあの人たちを一歩も入れたくありません」


「…レイ、こんな凄い結界を張ったら誰も何も入れないよ…」


  私が村に無意識に張ったバリアは誰にも理解出来ない構造の結界で、村の上空も覆われており、地中も掘り返すことなど出来ないくらい深く張られているそうだ。ノアさんが教えてくれた。


そういえば私、ミサイルも貫通しないくらい強化したんだった。音のオンオフも出来る。


…そうだ!村の中があちら側から見えないようにしよう。あの人たちの姿を、このメルトル村で穏やかに過ごしているみなさんの視界に入れたくない。


あ、そうだ!マジックミラー方式にしよう。こちらからも見えなくすると、どこに敵が潜んでいるかわからないから逆に危険だ。

よしマジックミラーのイメージで…よし!オッケー!これで安心だわ~


「レイ?また何かしたね?何した?」


ノアさんがなぜか無表情だ。


「えっとですね、バリアの向こう側の声はこちらの都合で聞いたり聞かなかったり出来るので、それならば向こうの姿はこちらからは見えるけど向こうからは見えない、という仕組みを足しました。

あ、バリアを通過出来るのは、この村の皆さんと皆さんが必要とする方のみになります。今のところ月一の商人さんですね」


ノアさんが瞬きもせず私を見ている。あら、怒られる?勝手なことしてメッてされる?


「…大聖女についての書物は読んだが、本の中のことを想像するのと実際は次元が違うな…」


ノアさんは、うーんとしばらく唸っていたが、

「なあレイ、これだけの装備が出来るんだから、もう城に行ってみないか?王家に追われるよりお前の言いたいことを言って、お前の望むことを、例えば平穏な暮らしを条件に大聖女の仕事もするからほっといてくれ、とか言ってしまった方がいいんじゃないか?」


なっ、なんてことでしょう!その手がありましたね。そうですよね、いつあの人たちがここに来るか怯えて過ごすより、私の神の領域の瞬間移動の魔法を使ってサクッと行って、ワーッと文句言って、またサクッと帰ってきましょうか。


「ノアさん!素晴らしい案です!あの人たちにメルトル村に来ないでって言って来ます。あの場所に行くのは怖いけどカプセルバリアがあるし。たった今強化したマジックミラー方式を採用したカプセルバリア(改)があれば頑張れます」


ノアさんはうんうんと頷き、あーうーん、と言い頭をガシガシ掻いて、


「あー、本当に一人で行けるの?無理そうなら、その、…俺も行けるよ?」


えっ!? えー!ノアさん優しい…。

一人で行くのは正直怖かった。でも、これは私の問題だから一人で頑張ろうと思ってたけど、どうしよう、お言葉にべったり甘えたい。


「その、俺もその、カプセルバリアを装備してもらえるのなら有り難いが」


「もちろんです!それはマストです!瞬間移動も一緒に、それはもうサクッと」


ノアさんの顔が無からどんどん険しくなる。


「…瞬間…移動?」


「あっはい、このメルトル村に来たときも、安全な場所へって願ったら一瞬で辿り着いたんです。凄いですよね、安全な場所ってだけでメルトル村に来れるって、この世界で一番安全ってことだから、私はついてるなぁーって。そしたら、この村の皆さんが──」



ノアさんが私の使える魔法がもはや神となんら変わりないと思いながら、ノアさんの生まれた国のことや、自身の抱える問題など色々と考えを巡らせているとは、その時は知らなかった。



「じゃあ行ってきます。すぐに帰ってきます。本当にすぐに帰ってきます」


私は、少し出掛けて来るとカイルさんとララさん、マーゴットさんに伝えた。そして、この村を覆っているバリアの仕組みも伝えた。


「ずいぶんと“すぐに”を強調してるけど、王都に行くんだろ?ゆっくりしておいで」


マーゴットさんに至っては、私の事情を知らないのにニヤニヤしている。なぜ?


「…マーゴット婆さん!あとでララさんにレイのことを聞いておいて!」


ノアさんが少しあたふたしてるように見えるのは気のせいか?


私はカプセルバリアを自分とノアさんに発動し、『あの城へ』と呟いた。




そして今だ。

私は今、大きな扉の前にいる大きな護衛騎士さんの前にいる。


「っ!えっ!どこから!?えっ?」

護衛騎士さん、驚いたらそんな声が出るのですね。


「突然すみません。私、捜されているそうで。そちらで言うところの大聖女です。私を捜していると小耳に挟んだもので、こちらから出向きました。どなたか私の対応をしてくれる方にお取り次ぎ願いたいのですが」


相変わらず、えっ!あっ?と言っている護衛騎士さん。隣のもう一人の騎士さんが、

「お、お待ちください!」と言って目の前の大きな扉に入って行った。


私が扉の手前のところで待っていると、中から大きな声が聞こえてくる。

 「何が来たんだ、この忙しい時に!面会申請の無い者を通すなど、お前は何のためにそこに突っ立っているんだ!」


あら?ご立腹だわ。

怖いから一度帰ろう。チラッと私の後ろにいたノアさんを見ると、首を横に振っている。

帰ったらダメなの?でももうカイルさんとララさんのいるところにすぐに帰りたい!


「そうですか、では帰らせて頂きます」


私はノアさんの言うことを聞かず回れ右をすると、護衛騎士さんが叫びながら私の前に立ちはだかる。


怖い。嫌だ、帰りたい。

ノアさんに触れていないと一緒に瞬間移動が出来ないのに、護衛騎士さんが壁のように立ちはだかってノアさんに手が届かない。

私だけ逃げてノアさんが人質になってしまうのは絶対ダメだ。


「陛下!大聖女様だと仰る方です!」

護衛騎士さんは私に触れないように、でも必死に私が出て行かないようになおも私の前に立ちはだかる。


「なんだと!?」

部屋の奥から聞こえる、あの召喚の次の日に私に言いたいことだけを言った人の声だ。国王陛下がいるんだ。それだけで気が滅入った。


「大聖女様お待ちください!どうか我々をお許し下さい!どうか話しを、お願いいたします、どうか!」


この声の人、私と美結ちゃんがこの世界に召喚されて、元の世界に帰れないことは“ある程度”の犠牲と言った人、宰相だ。


嫌だ。

あの時突然知らないこの世界に連れてこられた恐怖が込み上げてくる。


気が付くとすぐ近くにノアさんがいた。

「レイ、俺がいる。言いたいことを言え。大丈夫だ」

ノアさんが優しく微笑む。


そうだ、そのために来たんだ。

私はノアさんがいるから大丈夫だと自分に言い聞かせながら、国王陛下の部屋の方に振り返った。


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