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21.大聖女覚醒

ノアさんは光の元を辿ってカイル食堂に来た。


先程の真っ白い光は、少なくともこの村全体に広がっていたそうだ。


驚いた村人たちが家の外に出てきた時、その村人たちが更に驚いた。

今まで体調が悪く寝たきりだった者や、膝の怪我で歩けなかった者、腰が痛くてゆっくりしか歩けなかった者が、スタスタと歩いて家から出てきたから。


「おい、青い家!大丈夫なのか?心臓が悪いのに!」


「ああ、黄色い家、薬を届けてくれてありがとう、それが今の白い光に包まれたあと体が急に楽になったんだ!生きているうちに起きて歩けるなんて思ってもみなかった、…なんてことだ、女神様の奇跡だ」


屋根の色でお互いを呼び合う人は、この村で生まれ、女神の元に旅立つまで生涯この村で過ごす長老たち。


腰の痛かったサイモン爺さんは走り出し、背中の曲がったお婆さんは背筋が真っ直ぐ伸びていた。


すべての村人の体調が、当人たちの理想通りに回復していたのだ。



私はあの光のあとカイル食堂でカイルさん、ララさん、ノアさんにこれまでのことを話した。


突然こちらの世界に召喚されたこと、しかも偶然居合わせた少女と二人で。


同意もなく連れて来られたのだから帰りたいと言ったが、帰すことは出来るが一人だけだと言われ、私が大聖女だとわかると少女だけが帰され私はお城に残された。


だけど一人残されたそのお城ではずっとひとりぼっちで、私の部屋には誰ひとり来ることなく、食べるものも無くて辛かった。

 幸い偶然にも魔法が使えることがわかり生き延びたけど、何故かお城の人に嫌われていて、居ないものとして放置された。


 この世界に勝手に呼ばれて来たのに寂しくて悲しくて辛かった。


この世界には私に優しくしてくれる人はいないと思い、どこか安全な場所で一人でこっそり生きて行こうと思って移動したら、このメルトル村にたどり着いた。


だけど、出会ったマーゴットさんを初め、この村の人たちが優しくて嬉しくて、ここでずっと暮らして行きたいと思っていたが、いらないはずの私を王家が捜していると知り混乱してしまった。


カイルさんもララさんも驚きと苦しそうな表情をしながら私の話を黙って聞いてくれた。


「レイちゃんあんた、何か事情があるとは思ってたけど、大聖女様だったんだね」


「ああ、本来なら俺らのような平民が口をきけるようなお方じゃないんだけど…」


大聖女というのは私が決めたことではなく、こちらの世界が決めたことだ。

私は日本の製薬会社で働く23歳の庶民から生まれた岡本美麗だ。

だから、今まで通りに接して欲しいとお願いした。


「そうかい、あんた本当はミレイちゃんて言うんだね。……23歳!?えっ、23って言った!?」


驚くとこがそこなのは最近知った。この世界では16歳で成人し、ほとんどの人が成人したら20歳くらいまでには結婚するのだそうだ。

私の23歳未婚は不祥事案件を疑われる年齢なのだ。


そして、身長153cm、体重は恐らく元の世界の半分くらいになったと思うから推定45kgくらい?……数字にすると迫力ある体重だったね、私。

今は美容系のお手入れはまったくしてないけど、スッキリ体型でお父さん似のイケメン美少女になった。


「こんなに小さくて可愛いからてっきり14歳くらいかと思ってたよ」


「ああ、成人前の子供が一人でこの村に来たってときは驚いた。何か事情があるのだろうとは思ってたけど…」


訳ありで怪しい私をこの村の人たちは受け入れてくれた。


もしかしたら私のせいで村の平穏が乱されるかもしれないのに、嫌味を言ったり邪険にしたり、城の人たちのように無視することだって出来ただろう、そんな素振りをした人は一人もいなかった。


ただ単にお人好しではないのだ。裏切られるかもしれない事も含めて覚悟ができている。

私もこの村の人たちのように強くなりたい。


 「メルトル村の皆さんに受け入れてもらって、この世界でひとりぼっちじゃなくなりました。ずっと怖かったけど、やっと安心出来た気がする。今までずっと胸の中につかえていた苦しさが無くなりました」


嬉しくて泣きそうだった。泣き笑いのような顔でヘラッと笑顔を作ると、3人とも穏やかな顔で私を見ていた。


「レイ、それがさっきの白い光、あれはお前が放った光だ。村中を覆ったあの光は間違いなく聖女様がもつ癒しの力だ。ここに来る時、村人たちの怪我や病気が治っていた。青のルドルフ爺さんが歩いていた」


カイルさんとララさんが息を飲んだ。


「…っ!だってルドルフ爺さんは、もう、長くないって、ライナルト先生が言ってたのに…」


ルドルフ爺さんはこの村でずっと調理師として働いていたが、引退した矢先に心臓の病気が悪化し始めた。


カイルさんとララさんに料理を教えたのがルドルフ爺さんだった。


 ここ数年は寝たきりとなり、村医師のライナルト先生が治療してくれていたが、そろそろ心の準備をと言われていたそうだ。


「レイちゃん、本当にありがとう。あの爺さんは俺たちの親同然なんだ」


筋肉質の大きな体で涙を潤ませるカイルさんが、エプロンで涙を拭いているララさんの肩をそっと抱いた。


「でもレイにとっては良くないかもしれない。あの白い光は空を貫くように光の柱となって現れた。恐らく強い魔力を持つ者、鑑定魔力を持つ者は察知しただろう。この癒しの光を持つ者は大聖女様しかいないから」


え… 私が真っ先に浮かんだのは、あの黒いマントの魔法省長官だと言ったライルさんと、白い帽子の神官長だ。


嫌だ、会いたくない。


「なんでコイツなんだ」

と言った神官長の嫌悪する声色、私の手を汚い物のように掴んだライルさんの指。

またあの人たちに心を潰されるのはイヤだ。


私を捜しにこの村にあの人たちが足を踏み入れるのはもっと嫌だ!

私の大切な家族がいる場所をあんな人たちに踏み荒らされたくない!


「レイ!?…何をした…?」

ノアさんが突然辺りを見渡して、驚いた顔を私に向けた。


「へっ?…えっ?」


私は特大のカプセルバリアでメルトル村の境界線まで覆い尽くしていた。




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