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13.私の家

いろんな意味で村人の皆さんから圧力を感じたノアさんは、すぐに空いてる家に私を案内してくれた。


 マーゴットさんは一度自分の家に戻ると言って、私をノアさんに託していった。


私は改めてノアさんにご挨拶をした。


「よろしくお願いします、レイと言います。家族はいません。一人で何でも出来ます。ご迷惑にならないようにします」


ノアさんは少し驚いたように私を見た。年齢は私より少し上くらい?20代は間違いないと思う。

私は特別怪しいけど、ノアさんも何か訳有りなのかな。


「ああ、俺はノアだ。ただのノア、ただのというのは平民ということだ。今はこのメルトル村に流れ着いて、平和なこの村が好きでなんとなく住み着いて管理者をしている。君と同じかもね」


やっぱりここは平和なんだ。ということは、ノアさんも揉め事や争い事は苦手な人なんだろうな。良かった、私を邪険にする方の人じゃなくて。

そっか、名字の無い人は平民なんだ。それならあのお城の人たちはたぶん全員貴族だよね。やっぱり名前を確認しないと、うっかり近付き過ぎてまた辛い思いするのは嫌だ。


ノアさんも何か事情があって住む場所を探してこの村に来たということなのかな。

それでもノアさんはこの世界の人だけど、私はこの世界の人間じゃないから怪しさが数段違うし、今度機会をみてノアさんには私のことを話しておこう。


ノアさんが町の中を案内しながら、目的の家まで歩いた。


「ここは緑の家だ。2年ほど空き家だが手入れはされている。村の中心に近いから、安全性も利便性も良い。ここがまずはお勧めかな」


ノアさんは鍵の束を取り出し、屋根と同じ緑色の鍵で玄関の鍵を開けた。緑の屋根に白い土壁、小さな庭はガーベラのような花が満開に咲いている。

可愛い!なんて可愛い家なのー!


中に入ると右にキッチンとダイニング、奥にバスルームがあった。左側は居間のような感じでソファーがあって、その奥に階段がある。

階段を上がると2階はワンフロアで寝室だった。


はぁ~何もかも最高~!

こんな家に憧れていたんだよね。

私の家は建て売り住宅だったけど、お母さんが小さな庭をイングリッシュガーデンのようにお洒落に手入れをして、家の中はカントリー調にして穏やかで暖かくて、家に帰るのが楽しみだった。

その愛すべき家を思い出させるこの家に住めるなんて…


「あの、本当にこの家に私が住んもで良いんですか?」


振り返り、窓の立て付けを確認しているノアさんに聞く。


声を掛けた私を見たノアさんが、えっ…と声をあげ、目線を泳がせながらおずおずと近付いてくると、胸ポケットからハンカチを出して私に差し出した。


涙が溢れていた。家族を思い出すと反射のように涙が溢れてくる。

人前で涙を流すのはとても恥ずかしいし、本当に泣きたくない。

でもこの世界に来てからは止めることの出来ない涙を何度も流してしまっていた。


「すみません、懐かしい家族を思い出すお家だったので…」


ノアさんは不自然じゃない方向に目線をそらし、涙を流した私を見ないよう気遣ってくれた。


「家族…… あっ、いや、気に入ってくれたのなら良かった。次の家を見に行こうか」


ノアさんは視線は反らしたまま階段の方に向かって歩き出した。


「あっ、ノアさん!私この家が良いです!この家に住ませて欲しいです」

私が慌てて伝えると、ノアさんは私をジーッと見つめたあと、わかったと言ってこの家の契約をすることになった。


契約する際に、この世界のお金を持っていなかったことに気付き、土下座する勢いで謝罪すると、


「何か事情が有りそうだし、いつかその辺も聞かせてもらいつつ、ゆっくり返してくれたらいいよ」


と、ノアさんは全開の笑顔を向けてくれたが、なぜか子供の頃の裕太がいたずらを隠している時の少し悪い顔になっていたような気もした。


契約手続きが終わると、マーゴットさんが私を迎えに来てくれて、

「今日は私の家に泊まりな。今日この家で寝るには準備が間に合わないでしょ」

と言ってくれた。優しい。嬉しい。


お言葉に甘えて可愛いらしいマーゴットさんの家に泊めてもらった。

マーゴットさんのひとり息子さんは結婚して王都に住んでいるらしい。なんと、ひ孫が生まれて2年経つが、距離が距離だけにまだ会えていないと寂しそうだった。


旦那さんは5年前に旅立たれたと言うが、部屋のあちこちに旦那さんとの優しい思い出が残っていた。


夜にマーゴットさんの手作り料理をご馳走になったけど、とても美味しいうえに体中の細胞が喜んでいるような、生きる力が湧き上がり、血が駆け巡っているような感覚があった。


今まで魔法で食を満たしてきたが、やはりあれは満腹感があっても、必要な栄養はあまり無かったようだ。あのぽっちゃりワガママボディがこんなにほっそりとしてしまったのだから。




「あ~快適すぎる~幸せ~」

メルトル村に住み始めて一月経った。

毎日が平和で穏やかで、私の人生初のひとり暮らしはとても順調で快適だった。


マーゴットさんや村の人が、どこからか流れ着いた私を物珍しさや若干の警戒心を持ちながら、毎日のように私に声を掛けてくれた。もちろん一番は心配してくれているのだ。


「レイ!私の家に来ておくれ、水鳥の肉があるけど、食べきれないんだよ!」


「レイちゃん、これあげるコモモの実、甘くて美味しいよ」


私が家の外に出ると、必ず誰かが遠くから声を掛けてくれる。いきなり近寄ってきたり、家に突撃してきたりはせず、さりげなく私の様子を見ながら声を掛けてくれるのだ。


この村の人の優しい距離感が私には嬉しかった。


この世界に必要だと勝手に呼ばれたと思ったら、いない者のように放置された。その真逆の状況が理解できず怖かった。

今でも突然私の家の扉をドンドンドンと大きな音で叩いて侵入してきたらどうしようと考えるくらいには、怖かった事実が体に張り付いている感覚がして拭えない。


心理的にも物理的にもさりげなく適切な距離を保てる人たち。このメルトル村の人たちは、私が生きていくのにもっとも大切な感覚が似ていて心地よかった。


しかし、私にはお金が無かった。

お金も無いのに部屋を貸してくださいなんて、正気の沙汰ではない。

ノアさんに私がこのメルトル村でお金を稼ぐ方法を相談した。


「私に出来ることであれば何でもやります!仕事をください!お願いします!」


「うーん、そうだなぁ、仕事といってもここでは皆が自活していて、ほぼ物々交換で生活が成り立ってるんだよなー」


それぞれが畑を持ち、自分の分、隣近所の分を育てて分けあう。狩りが得意な人と野菜と肉を交換したり、余った分は保存加工をして備蓄するか、月に一度やって来る商人に売ってお金にする。


そのお金で、村では作れない石鹸や紙、塩などを購入する。ずっとこんな風に生活しているので、私がアルバイトをしてバイト代を稼ぐことは難しいらしい。


「でも、この村も高齢化が進んでいる。老人たちが出来ることも限界があるんだ。その部分を君が補ってくれたら助かる。この村で一番若いのは俺なんだ、今まではね。君は成人していないよね?子供は成人すると一度は村を出ていってしまうからね。王都への憧れがあるから」


ノアさんは今27歳だそうだ。私が23歳と言ったらとても驚いていた。


私は、私を助けてくれたこの村の人たちに恩返しがしたい。私に出来る全てのことをしよう。この村の人たちの役に立つんだ。そう、私には魔法があるんだから!




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