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11.自立する

あれから一月経った。

ちなみに誰も来ない。

なんで召喚したの?


私だから生きてるけど、そうじゃなかったらとっくに気力も体力どころか、この世から消え失せてると思う。


こんなに誰も来ないなんてあり得る?私に帰る場所が無いから、逃げないと思って安心してるのかな?

帰れる家があるなら、黙って帰っちゃっても誰も気が付かないよね?


今私がいなくなっても誰も気が付かない、絶対に。


そう、私はここを出ていこうとしている。


そのためここ最近は、食べて満足するだけの魔法だけではなく、何が出来るのかを細かく検証していた。


食が満たされると、今度は自分の身なりが気になりだした。


部屋の横にバスルームがあり、そこそこ大きな浴槽があるが、どこからお湯を入れるのかわからない。蛇口のようなものも見当たらない。


仕方ないので、タオルはたくさんあったから、桶にお湯を入れてそのタオルで体を拭いていた。

お湯はコップの水と同じで、「熱いお湯が欲しい」と呟くと、その瞬間にお湯が桶にたっぷりと入っている。


そうして、温泉行きたいな~なんて思いながら体をゴシゴシ拭いていた時に気が付いた。


「やだもう!浴槽にお湯を入れてって願えばいいんじゃん!もうっ、私ってば!」

独り言ももはや板についてきた。


一つ気が付くと、出来ないことは無いくらい魔法で何でも出来た。


なんならお風呂に入らなくても、「身体中清潔にしたい」と願うと、お風呂に入った後のような爽快感とともに、髪はサラサラと良い香りがして、肌はしっとりと柔らかくなった。


そしてその要領で着ていた服や下着も毎日清潔なものを着ることが出来た。もちろんこの部屋の中もとても清潔だ。


「もう一人でも生きていける」


放置され出してから考えていた。


人間が飲食せずに一月生きていけるとは思えない。この放置が一月過ぎたら、私はもう死んだと思ってもらおう。


そして、望んでいない世界だけど、お父さんお母さん裕太の思い出とともに、この世界のどこか安全で平和なところでひとりこっそり生きていこう。


そのために、生活面、安全面、健康面で重要だと思うことを紙に書き出し、1つずつ魔法で確認して行った。紙とペンは机の引き出しに入っていたので勝手に借りた。ご飯くれないんだから、紙くらいもらってもいいよねっ


生活面は今は大丈夫だけど、住む場所によっては工夫しないとならないだろう。でもなんとかなりそう。


体調は今のところ大丈夫だと思う。精神面のダメージは大きいけど。


とにかく私が一番心配なのは安全面。

 今後は絶対に平和な日常を維持したい。このお城に住んでる人にもいきなり嫌われたのに、外の知らない世界の人々に好かれるとは到底思えない。


それに、勝手に呼び出しておいていきなり冷たくする人がいる国の治安が良いとも思えない。


外を歩いていてカツアゲされたり、変な言い掛かりをつけられて公園に呼び出しなんてされたら、たぶん私のチキンハートは停止する。怖い。


なので、もしいきなり怒鳴られそうになったり、ぶたれそうになっても大丈夫なように色々と防御対策を考えた。


最終的に、私の体の周囲を頑丈なカプセルのようなバリアで覆ってみることにした。とりあえずミサイルが当たっても壊れないイメージで作った。


透けているから視界も良好、覆われたままでもスタスタ歩ける。私の頭上と周囲、半径1メートルくらいにして余裕を持たせて至近距離で近付けないようにした。

 それでいて怒鳴られ対策に、外の音をオンオフできる機能も付けた。


私が元の世界でこれを発表したらノーベル賞か研究所で解剖される、どっちだろう。


恐怖を感じたらすぐに守って欲しいから、私が「助けて!」と言ったらカプセルバリアが瞬時に発動するという魔法の訓練をした。100回くらいやったら安定してバリアが作れるようになったので、これで一先ず安心。


でもこれを作っている最中に考えた。

 後ろから急に捕まった場合。このカプセルごと私が運ばれてしまった場合。

……どれだけ危険な国だと思っているんだろう。今までのこの国の私に対する行いを思うとかなり疑り深くなっている。


でも捕まってもサッと安全な場所に移動出来たらいいな。

よしやってみよう。



今いる部屋から

「バスルームに移動したい」

と願った瞬間、バスルームにいた。

「っ!ひっ…!」すぐに出来た。

私って怖い…


これ瞬間移動だよね?これってもう神様レベルじゃないの?

この能力私が使って良いの?

でも、これで逃げたくなったらすぐ逃げれる!


ん?私もう逃げれるじゃん。逃げる先の場所さえわかれば瞬時にそこに移動できる。


「よし!ひとりで生きて行こう!」


私は元の世界から着てきたパンツスーツとヒールを、ベッドシーツを剥がしてそれに包んだ。靴はクローゼットにあったブーツを借りた。生活が落ち着いたらすべてお返しします、すみません。


ドレッサーの中にメイク道具もあった。元の世界では日焼け止めを塗って眉毛を書くくらいがせいぜいだったから、うーん…魔法様にお願いしよう。

「可愛くメイクして欲しい」


まあ!なんということでしょう!

控え目なメイクながら目もとはパッチリ、唇はピンクベージュで艶っぽく、頬はほんのり色付く程度の清楚系お嬢様のよう。


この一月で体型もすっかり変わって、出るとこは出てウエストもキュッと細くなった。出るとこの脂肪が残ってくれて良かった。


「魔法の力凄すぎる…私じゃないみたい。チートえぐい」


この世界に来た時、体型のことを言われて悲しかったけど、生まれてからずっと食べ過ぎでぽっちゃりだったのは確かだ。

 今は体がとても軽くて、体中が健康バンザーイと叫んでいるみたいに軽やかだ。


メイクをして、国王陛下に会うときに着る予定だった上質なワンピースを着て、全身鏡で自分を見てみる。

ちなみにこの部屋での生活は裸足にシャツと下着だけ。誰も来ないから裸族に近いカッコをしてた。


鏡に映る私は、私なのか?

「やだ私、アイドルと言っても言い過ぎじゃないんじゃない?やっぱり私お父さんに似てるんだ」


子供の頃にお父さんとお母さんの結婚式の写真を見せてもらったけど、お父さん超絶イケメンだった。

いつかはお父さんみたいな人と結婚したいな。


身支度を整え、部屋の中を綺麗に片付けて、お掃除もして、荷物を胸に抱えた。


そして願う。


『外の安全な場所に行きたい』


久しぶりに土と緑の匂いに目を開けると、大きな木の横に立っていた。




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