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1.誰か助けて

「召喚成功です!!…えっ、二人…?」


え…?ここどこ?何?どこなの!?


 さっきお母さんに気をつけてねって言われて家を出たところなのに!


 今日は土曜日だけど症例発表があるから、部署は違う営業課長に手伝うように言われて、会場設営や受付準備を手伝うためにいつもより早く家を出て…

 そうだ、家を出たところで新聞配達の女の子とぶつかって二人して倒れて…


「ごめんね!大丈夫?ケガはない?」


「いえ、大丈夫です、私もちゃんと前を見ていなくて、すみません」


その女の子を立たせようと手を掴んだところまで覚えている。


気が付いたら今、

 ………ここ、どこ?


「…ここどこ?」


私にそっとしがみついてきた女の子が泣きそうな顔で呟いた。

 その声をかき消すように、


「聖女召喚は成功だな?しかしなぜ二人なんだ!? ラウル長官、説明を!」


…セイジョ?って聖女?ショウカンて…?


 聖女って、その系統の漫画やアニメを知らない私でも、聖女というワードを見たことはある。


 スマホの漫画アプリで少女漫画をたまに読んでいたけど、たまにお薦め漫画で、異世界なんちゃらとか、聖女がなんちゃらとか出てきたけど、私が好きなのは高校生の恋愛青春モノばかりで、その系統はそそられなかった。


私は子供の頃から平凡な子で、特徴と言えばぽっちゃりしている体型だけ。


高校生になっても少々ポッチャリだったためか、男女共学の高校であっても男女のそういった恋愛系の青春には無縁だった。


いつも仲の良い友達と一緒に、1軍女子のキラキラした生態を観察しては、今どきの女子高生と男子との会話って凄いねーと、いつかくるその時のために学習していた。


その後大学に進学したが、そのときに学んだことは活かされることはなかった。

そりゃそうだ、生きる世界がまったく違うし、そもそもキャラクターだって違うのだから、私が1軍女子のようになれるわけがない。


でも憧れがなかった訳じゃない。

私ももう少しコミ力があって、今より少しだけ痩せてたら。隣の席になった男子と少しのきっかけから会話をすることになって、そこから少しずつ仲良くなって…などと未だに想像してしまう。


大学生になってもやっぱり青春は無かった。現実で無かったことを恋愛青春漫画の主人公に感情移入し、その世界観にどっぷり浸かるのがせいぜいだ。社会人なった今でも。


聖女?召喚?異世界?もっとそっち系の漫画も読んでおけば良かった。


「二人とは何かの天啓ではないのか?100年前に限らず、聖女召喚の儀で過去に二人召喚されたことがあったか調べてくれ」


「御意」


見るからに王子様のような高級そうな豪華な服を着て、金髪に青い眼をした男の人が、黒いマントを付けた背の高い男の人に指示を出している。


そしてその王子様は、私にまだしがみついている女の子を見ると、


「私は聖女を貴賓室に案内する」

と言って微笑むと、私にしがみつく女の子に近づき、白い手袋をした手を差し出した。


女の子は分かりやすくビクッと体を揺らし、小さな声で「イヤッ」と言うと私に抱き付いた。

私もこの状況を理解できているわけではない。怖いのは私も同じだ。


でも、私より明らかに幼いこの子を守れるのは私しかいないと思った。私も抱き付いてきた女の子をギュッと抱き締めると、キッとその男を睨み付けた。


怖い、物凄く怖い。

何一つわからない状況で、恐らくこの場で一番権力を持っているであろうこの人にあからさまな敵対心を見せることは、自分たちのこの置かれた状況を悪化させるかもしれない。


だけど、召喚?

召喚って、私たちの意志ではなく、この人たちの都合で勝手にここに連れて来られたのでしょ?そんな勝手なことをされて、良い顔なんて出来るわけがない。


女の子は小刻みに震え、私と離れたら終わりだと思っているのか、さらに私に抱き付く力を強くした。私の胸元からグスっと鼻をすする音がする。


 まだ幼さの残る顔をしていた女の子は中学生くらい?泣きたい気持ちは良くわかった。大人の私だって泣きたいもん。


「聖女は動揺しているようだな。宰相、聖女と…その、その女性を貴賓室に案内しておいてくれ」

そう言うと、マントを翻して鎧のようなものを着た人をたくさん引き連れ、教会のようなこの広い部屋から出ていった。


この状況と王子様みたいな人が言うには、この女の子が聖女で、私は何かの手違いで聖女と一緒に召喚されたよくわからない女ということなのね。でも害を加える気は無さそう。


周りをサッと見渡すと、ざっと20人くらいの人がいた。男の人がほとんどで女の人はいないようだった。


「聖女様、この国のことやこれからのことをご説明させて頂きたいので、落ち着いて話せる場所に移動しましょう」


さっきの王子様のような人より背が高く、髪は濃いグレーで綺麗に撫で付けた男の人が少し離れたところから声を掛けてきた。眼も髪と同じような色で外国人のように物凄くカッコいい。


話し掛けて着たということは、この人が宰相ということなのだろう。

近寄って来るとフワッとムスクのような香水の香りがした。低い落ち着いたトーンの声は、強制するような声色では無いが従わなくてはならない威圧感があった。



私は女の子の耳元でこそっと話しかける。


「大丈夫?私もよくわからないけど、取り敢えず話しを聞いてみないとね、絶対に離れないから行ってみようか?」


「…はい。あの、すみません、涙で汚しちゃって。あの絶対に離れたくないので手を繋いでいてもいいですか?」


私の濃いグレーのパンツスーツのジャケットに涙の跡が付いている。

可哀想に、大人の私だって泣きたいくらいなのに、この子の感じている恐怖は相当なものだろう。


女の子と手を繋いだままゆっくりと立ち上がると、女の子は繋いだ手と反対の手をさらに私の腕にガッチリと絡め、絶対に離れないといった感じでしがみついた。


 私もこの手を離したくない。私もこの子がいるから感情を保てているのだ。この子から離れたら私も泣き叫ぶかもしれない。


 私も私にしがみつく女の子の手をしっかり握り、促される方へ歩き出した。




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