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雪山

作者: とびうお君

 ある山小屋に調査のため住み着いて数か月になる。まさかこんな事になってしまうとは。俺の名は佐竹義人、どんな調査かと言うと、寒冷化についてとなる。数年前まで温暖化が問題になってたはずなのに何故か今そんな話が持ち上がっている。これは俺は専門家じゃない。だから詳しくないのだが、海流の関係でそういう事もありうるらしい。


 らしいというなら何の調査に来たのか?それは無関係ではない。俺は以前温暖化の時に植生の研究をして、その論文が認められ今回逆の現象の調査に来たとなる。そのため基礎知識として温暖化寒冷化について叩き込んである。元々温暖化調査で慣れた山小屋だったため油断していた。


 幸い食べるものはこもるつもりだったのでそれなりにある。まだ10月だというのに突然の悪天候に山小屋に閉じ込められてしまった。いやもちろん埋まってしまったわけじゃない。だが地形が変わってしまったのだ。雪山の遭難の多くは方向感覚が狂う事だ、そのため食料があるため無理に脱出するのをやめて待つことにした。


 だが状況はどんどん悪化して、今なら分かる、これが寒冷化なんだろう。時すでに遅しで、いずれは何かしら決断する時期が来るのかもしれない。いくら寒冷化と言っても年中雪山に囲まれてるわけじゃないだろう。当面は春を待つつもりだ。


 スマホはどうしたんだ?悪い事は重なるもので圏外だ。当然それを事前に知っていた、そのためエリア内は把握しておいた。そこにいくのに危険だったのと良好な天気の時に使い込んでいて、すでに充電切れだ。この小屋は?そういったものが無くてもある程度いろいろ出来るように準備してて、まあスマホが通じるエリア内にあたる場所に行かないと電気が無い。


 雪が小降りの日に外に出かける事にする。俺はフィールドワークが多くて、山に来ることが多かったので猟銃の所持の許可を持っていた。もちろん自分の為だけじゃなくて、害獣駆除にもちらほら参加していた。そうする事で印象が良くなるからだ。何せ怪しげなものには許可が下りにくいからな。


 まあ研究員である事と山によく行く事が仕事柄分かるので許可はおりやすいのだが、熊との遭遇などを考えてもこれは重要だった。ただの山登りなら必要ないが山小屋に住むとなるとそうはいかない自衛手段でもあった。それで食料は潤沢にあるが念のため狩りに行く事にした。


 万が一だが肝心の日本の行政機能がストップしていた時の措置だ。山を下りてもサバイバルだったなら洒落にならない。外の情報が無いからなんとも言えないのだが、俺は一般人じゃない、この異常気象が一過性のものじゃないのを良く知ってる。そもそもこんな天気通常じゃないんだ。


 そこにその原因の調査のため山に籠った経緯を考えれば、これは深刻な事態になってしまったケースを最悪として想定しておかなくてはいけない。


 今はまだ人は生活してるだろうが、このまま行くと文明は崩壊してしまう。ただ今は冬に向かっている。そのため移動をやめたそのため春になったら杞憂になるのかもしれないが、それでも前と全く同じ日本じゃいられないと思う。山を下りたら文明が衰退していたらどうしよう。


 ああこれは冷静じゃ無いな、外部と情報が遮断されてやけになってるかもしれない。やはり春までは慎重に行こう。こんな時に暢気に待ってる場合?こう考えてしまった、これが罠なんだ。って自分の頭の中からなのだが、これ冷静じゃなくなって判断してるのが分かってしまうから不味いと考えて落ち着けた。


 ただ抑えてはいるが不安だな…。


 不安だった日々を過ごす中念願の外の情報を知る機会がやって来た。ついに動くことに決めたわけじゃない向こうからやってきた。一人の少女が小屋に助けを求めてやって来た。正直言えば食料が不安だ。ただ狩りをして今の食糧もかなり持つことが分かった。人にずっと会ってなかった事で、理性が感情に負けてしまった。


 彼女の名前は、高島美優。


「助けて欲しいの」


「落ち着こう、状況を整理して伝えて欲しい。ただ一つ話しておかないといけない事がある。この天候は通常の物ではない異常気象。春が来て当たり前のように日常に戻れるような単純なものではないかもしれない。助けるって事はそれが大きく関わっている」


「え何それ?」


「俺は、寒冷化の研究で依頼されて調査をしていて、異常気象に巻き込まれた。政府はまだ確定してないため研究している段階で、その研究者の一人が俺と言うわけだ。だから一般人が知らない事情をいろいろ知っている。この先日常に簡単に戻れないかもしれないというのは、食料が苦しいんだ。それを分かって欲しい」

「だからって食い物が足りなくなるから君を追い出すなんて事はしない。危機感を持ってほしいというだけだ」


「ああ私は一緒に居た人たちと関係が悪化して、その人達から逃げるように飛び出してきたから、そういう意味で」


「家族?」


「違う両親は死んでしまった」


「え」


「ああもうそれは気持ちの整理がついたから良いの。状況の説明だった?ええーっとね、何が聞きたいの?」


「なんでこんな雪山に少女が一人いるのか?これはおかしいよ」


 実際おかしかった、彼女はべっとり濡れていた。だが全く凍えている様子が無かった。何が言いたいか?分からず感情が先走ってるので興奮状態によるものか?と思ってとりあえず話をさせようとして不問にした。今はあたたかな部屋にいるからなのか?とも考えたが、外にいるときこれでは低体温症で死んでしまう事もあるからだ。


「ああ事故があったの。飛行機事故が、ただ、深刻なものではなく、なんとか不時着に成功して」


「そんな事あるの?」


「断片的にしか分からないのだけど、天候不良によるものに突然巻き込まれたようで、故障などの深刻なものじゃないとアナウンスがあったから」


「信じたの?」


「実際機体は地面にどかーんで爆破したわけじゃない。ただすべての人が助かったわけじゃない」


「ああそれで両親が」


「うん。その時の乗客の若い夫婦と山を下りて助けを呼ぼうとなって、元気な人たちが山を下りるつもりが、うまく行かなくて洞窟で同行した若い夫婦と暮らすことになった」


 事情はなんとなく分かった。彼女は自分から濡れた服を乾かすため上着を脱いでいた。それで事情が少しわかった。困った事だと思ったが僕が立ち入れなかったのは、未成年の少女の服を問題だからと勝手に脱がせらなかったから異常だと思ったが、放置して自分から脱ぐように仕向けた。


 ただそういう意味じゃなくて脱ぐのは嫌だったかもしれない。あざがちらほらある。


義人「虐待?」


「うん、悪い人じゃないと思う。最初は親切だったから。食料が乏しくなって私に当たり始めた」


「ああ君だけ全くの他人だもんね」


「うん、うんざりしてたのもあるけど、私がいなくなれば食料が解決するかと思って」


「ああじゃ俺が最初に話したの無神経だったか」


「いやそんな事はない。まさか山から下りても大きな問題があるとは思ってなかった。ただここにこれたのは全くの偶然。もう元の洞窟に戻れるか怪しいぐらい。大体の場所は分かるけど、諦めかけていたらこの小屋の明かりが見えたから」


「まあそれなら確かに助けてだね。春が来るぐらいまでは余裕であるから。最初にきつく言ったけど、そういう事情ならもう食料のために飛び出そうとしなくて良いからね」


 最初から気になってたけど、俺と夫婦の違いってなんだろう。小屋を見て無我夢中で飛び込んだと言ってるが、そこでもまた同じようになると思わなかったのか?そうやってずっと思ってたが何故か不思議と二人の間にわだかまりは全く生じなかった。それどころか仲良くなっていた。


 親子ほどじゃない、だからって同年代でもない。ちょうどその夫婦と似た年齢。だからこそ気にしてたのに、もちろん言動でも攻撃的な言い方などしなかった。そりゃ多少は厳しく言う、命が掛かるような事態が多いからだ。だがそれを理解してくれた。


 狩りにも連れて行くようになった。最悪のケースをいろいろ考えていた。山を下りたら文明が衰退していく可能性がある。ああもちろんすぐにそんな事あるわけがない。だが徐々に崩壊するのじゃないかと思ってる。先の事を考えて自活できるようにさせておいて損はない。


 銃はすぐ覚えた。まあこれは大人が教える事に忌避感が無ければそんな難しくない。問題は銃の消耗品だ。そのため弓矢や罠などを教えている。何故そんなもの知ってるのか?銃の許可をもらうまでは、そんな感じで山での調査してる時は豊かな食事にありついていたからだ。


 じゃ銃要らないじゃないか?熊だ。まだ熊を撃ったことはないが自衛のため備えたかった。


 最初は危惧していたが、二人はすっかり仲良くなった。それがあってついに重要な事を話すようになった。食料だ、あれだけ気を使っていたので避けていたのだ。だが二人分だと減るのは早い。危機的じゃないが、天気の良い日に探索をしようとなった。


「重要な事があるから話しておくよ。間違ってもいきなり町に戻ろうって焦るのは禁止だ」


「何故?」


「美優が助かったのは偶然に近い。危険な状況にいたから仕方なかったとはいえ、君はちょっと冬の山を舐めてるところがある。ちょっとずつちょっとずつ範囲を広げていく。例えばだよ、目印に様々なものをしても多分次来た時は雪の中だ。俺が考えるに大きな木に傷をつけるしかないだろうな。それ以外はすべて雪の中に埋もれると思ったほうが良い」


「木の配置とかも使えるね」


「ああそういうのちょっとずつ埋めて地図にしていく。後焦らなくても春になればとは思ってもいる。だが万が一これが地球規模の異常気象なら今から始めたほうがリスクが高そうだが逆に良い」


 以前からとりあえずの目標として、登山客相手にやってるロッジ。ここを目指す事にした。全くの文明から閉ざされた山ではない。俺も以前からここを緊急に使う事を想定していた。今回の場合そこまでたどり着くのに道がさっぱりわからない状況に追い込まれたため、四面楚歌になっていた。


 だが地道に行動範囲を広げて無事に迷わずあっちこっちに行けるようになったため、おそらくこの近辺で最も重要な地点に行く事にした。まずここは携帯が使える。次に何より登山客に食事を出すので食料がある程度あるだろうと見ている。ただし携帯電話の電力はすでに無くなってる。だが電気が来てるのだ。


 文明から隔離された場所で、ここだけがかなりの数の文明との接点がある。日本全体がアウトでなければ、ここにさえたどり着けばすべてが好転する可能性が高い。美優には状況を説明して、これまでと違い探索範囲を広げるようなものじゃないのは理解してもらった。動く距離がかなりあるので今まで違うのを知っておいた方が良いからだ。


 ある意味俺が禁止していたいきなり町に戻るのに近いものがある。ただそれよりはマシでかつ、得るものは近いものがある。ローリスクハイリターンと言う場所になる。探索に効果が出てきた今になって言ったのは、俺が知らない間に行ってしまうのじゃないかって不安があったから。


「リスクを分散させるって意味で俺が行って、戻ってこなかったから美優が行く方が良いけどどうする?」


「嫌だよ、今更そんな事言うなんて」


「いや他人行儀で言ったわけじゃないんだ」


「ああごめん、心配してくれてるんだね。でも、その方法は取りたくない。戻ってこなくて私が一人で向かう?辛すぎるよ」


「そうだね美優の気持ちを考えてなかった。一緒に行こう」


 もう仲良くなっていたが、どちらが欠けても心にダメージを負う事を改めて再認識させられた。天候が穏やかになるのを待って、いよいよとなって出発したが、あっけなくついた。だが問題はたどり着く事には無かった。何故か分からないが、無人になっていた。


 おまけに電気が来てない。だが携帯程度なら臨時のための発電機があったためそれで充電した。もう燃料が無いのでこれが最後だろう。愕然とした全く謎だが圏外が出てしまった。恐れていた事態が起きてるかもしれない。文明圏でなんらかのインフラの破壊が起きてる可能性がある。


 二人とも口数が減った。それと言うのもここにたどり着いた嬉しさで、二人でいろいろと来た当初は盛り上がっていて、人が居なかったが、それでも携帯が繋がらないまで分かって無かったため、いろいろなものを物色する事にした。様々な物が手に入ったが、その中で後でわかるのだが携帯が使えないとするとそれなりに価値があるものが手に入った。


 ポラロイドカメラがあった。無人だった事で不安はあったがそれをかき消すように、かつ来た当初の盛り上がりで記念写真として二人で写真を撮っておいた。


 その後俺達は、戻るのも億劫になりロッジで身近なものを集めて温めて、ここで泊まるにした。寝る前に物色した時に何かメモがあったのでそれを読む事にした。どうやら客が居たため食料の減りが早くて、このままでは不味いと危険だが山を下りる事にしたらしい。


 その後うまく行ったのか?は俺達には知る由もない。ただ全く知らない仲ではない、メモを残したのは出発前に俺がここによってあいさつしたからだろうな。次の日目が覚めると大変なことになっていた。美優が居なくなっていた。もう大丈夫だと思ってて全く考えてなかったが、結局俺の所に来た時のように絶望させてしまったかもしれない。


 山小屋に戻って様々な所を探したが見つからなかった。


 無造作に使えそうなものを放り込んでとりあえず戻る事にした。帰っている可能性もあるじゃないかと思いついた。何故こんな基本的な事を考えなかったのか動揺してるのが良く分かる。だが予想はしていたが戻っていなかった。俺が散々この先問題がある事話しておいた。


 だが当面大丈夫だとして余裕をもって探索に出たのに、顔には出なかったが実は俺に気を使って深刻に思っていたのかな。失敗はしたが、あそこを中継地点にすれば町に帰還するための泊まる場所にはなる。一歩は前進してる。ただこのまま彼女を放置しては無理だ。しばらくは探さないとだが疲れた明日にしよう。


 起きてすぐ良いことを思いついた。そういえば彼女が元居た場所に戻っているか?または手がかりが残ってるかもしれない。ただ気がかりは彼女と一緒に暮らしていた夫婦がいるのだがこの夫婦彼女を虐待してたんだよな。出来たら会いたくない。だがそうも言ってられないし、どのみち美優が居ない今ならコンタクトを取っても良いだろう。


 出かける前に荷物を整理してたら美優との写真を見つけて違和感を感じた。出かける前にこんな嫌な気持ちを抱いてしまうなんて。大丈夫、大丈夫だ、不安は何も生まない行動しよう。


 事前の調査をしたため意外と早く着いた。だがこれ吹雪の中飛び出してここにたどり着けるような距離じゃない。彼女はいったいどんな風に来たのだろうか?ものすごい強運だとしか言いようがない。


「あのすいませんーー!誰か居ますか?」


 返事が無い。閑散としていたため出かけたというより、夫婦は移動したようだ。と言うか人が住んでる気配が全くない。美優が嘘をついたとは思えないので、美優も見当たらないし、夫婦が居ない以上手がかりを探すしかない。あっちこっちを探していたら、ふと人の気配を感じて振り返ってみると、知り合い?そんな事を感じる顔の男が居た。


「すみません勝手に入って、ここに住んでいた少女がここからうちの小屋に訪ねてきて一緒に住んでいたのですが、行方不明になったため探しに来ました。もしかして一緒に暮らしていた夫婦の旦那さん?」


 返事が無い。勝手に入って怒ってるのか?だが奥さんは?何の返答もないのにじっと見つめられてるだけなので、段々怖くなってきた。


「あれ聞こえてますよね?」


 身振り手振りでコミュニュケーションを取ろうとしてると見せたのだが、無反応だ。そうこうしてるうちに重大な事に気が付いた。どこかで見た事のある知り合いのような顔の男の顔は、そりゃ知ってるはずだ俺の顔だった。


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