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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

本書いてただけなのに神になったんだが?~異世界の神になったラノベ作家、絶望する~

掲載日:2026/02/19


俺の名前は”天野 圭一(あまのけいいち)”。ラノベ作家だ。

これでもかなり人気な方で、すでに5作の書籍化を果たしているしそれ以外にも人気の作品を多く投稿している。

そんな俺は今、絶賛混乱中である。

先程までパソコンに向かって新作の執筆をしていたはずなのだが、気がつくと一面真っ白の見たこともない場所に立っていたのだ。


「まさか、俺は死んだのか?」

「やはり察しが良いのぅ」


突然は背後から聞こえた声に驚き振り返る。

そこにいたのは老人だった。だが、明らかにただの老人ではない。

こんなところにいるのがそもそもおかしいし、何より発しているオーラが違う。


「ふぉっふぉっふぉ。そう褒めるでない。」

「…っ!?」


心を読まれた!?と、言うことはやはりこの老人は……


「その通り。儂は神様じゃ。それも異世界の、じゃ。」

「う、うぉぉぉぉぉおお!きたぁぁぁ!!」


つまりこれは夢にまで見た”異世界転生”!!

そんなテンションマックスな俺に、神様は少し申し訳なさそうな顔で声を掛ける。


「テンション上がってるところ申し訳ないのじゃが……」

「?」

「──じゃないんじゃ。」

「え?」

「異世界転生じゃないんじゃ」

「……へ?」

「じゃからっ!異世界転生じゃないんじゃ!!」

「……ま、まじ?」

「大マジじゃ」


まじかぁ…

え、じゃあなんでここにいるん?


「その疑問はもっともじゃ。」

「お主がここに来た理由。それはオファーじゃ。」

「オ、オファー?」

「そうじゃ。」

「お主には”神”になってほしいのじゃ」

「か、神~???」







「な、なるほど。異世界への人の転生を管理するあんたの後継ってことか…。」

「その通りじゃ。」

「でも、なんで俺なんだ?」

「お主、小説を書いているじゃろう?」

「え?あぁうん。書いてるけど。」

「その内容を見て思ったんじゃ!こやつなら上手くやってくれる!っとな」

「へ、へ~。そうなのか。(う、うさんくせー。大体、俺と同じように本書いてる奴なんていっぱいいただろ)」

「……お主、小説を書くのが好きなんじゃろう?なぜ好きなんじゃ?」

「え?それは……」

(それは、俺の生み出したキャラクターたちがチートなんかを駆使して自由気ままに生きるのを見るのが好きだから。)

「じゃろう?なら、見てみたいと思わんか?自身で能力を与えた”転生者(キャラクター)”がその世界でどう生きるのか、を」


電流が走った。

物語に登場するのを見ているだけでもあんなに楽しかったのに、実際の人間でやったらどれだけのものが見られるのだろう。

(こんなの天職じゃないか!)

そう思うと、ワクワクが止まらなくなっていった。


「やります。」


おもわずそう言ってしまう。


「ふぉっふぉっ。そうか、そうか、やってくれるか。」


満面の笑みで神は言った。


「それじゃあ今日はもう休みなさい。明日から引き継いでもらうからの。」



こうして俺は、”神”になった。







神になって一週間が過ぎた。

最初の二日くらいはあの神…いや元神か、に色々教えてもらったがそれ以降はとくに何もなかった。

なんでも引継ぎ期間だから人が来ないようにしていたらしい。それの効果が昨日まで。

つまり最速で今日、初めての転生者が来るかもしれないわけだ。


「暇だ。果てしなく暇だ。」


そう、愚痴をこぼしていると突然前方に光の柱が立った。

光が消えたそこにいたのは、茶髪の儚げな少年だった。


「……え?ここどこ?」


そう言って混乱している少年をよそに俺は滅茶苦茶興奮していた。

(やった!!ついに…ついに来たぞ!初めての転生者だ!)


少しして落ち着きを取り戻した俺はその少年の元に向かった。


「ようこそ」


そう一言声を掛けると少年は驚いて振り返った。

(ふむふむ。”進藤悠真(しんどうゆうま)”、17歳か)

神になるときにもらった能力の一つで一定距離の中にはいる相手のプロフィールを見ることができるのだ。今回はそれを使った。

(なるほど。いじめられた上に事故死ね…。かわいそうに)


「あ、あなたは…?」

「私は、……神です。あなたにはこれから異世界に行ってもらいたいのです。」


冷静になると神だって名乗るのすごい恥ずかしいな。


「い、異世界に!?」

「はい。と、言っても、魔王を倒すなんて言う使命があるわけじゃありません。あちらの世界で自由気ままに暮らしていただきたいのです。」

「な、なんで僕なんですか?」

「(し、しらねー)…あなたは前世では、相当つらい思いをされてきましたでしょう。なので来世では好き勝手楽しんでもらいたいと思いまして。」

(くらえっ!必殺・よくある設定!!)


そう言うと、ユウマは少しの間考えてこう答えた。


「わかりました。行きます。」

「(いいねそう来なくっちゃ)ありがとうございます。そうしたら私の方から一つプレゼントがございます。」

「プレゼント?」

「はい。流石にこのまま異世界に送り出してもすぐに死んでしまうので、そうならないように特典として特別なスキルをお渡ししているんです。(いわゆる”チートスキル”ってやつだね)」

「な、なるほど」


ずっと考えてたんだ。

最初の転生者にどんなスキルを上げるのか。


「ユウマさんに授けるスキルは【強奪】相手のスキルを奪うことができるスキルです。もちろん何でもかんでも、というわけにはいきませんが、条件さえ満たせば大体何でも奪えます。」


やっぱりチートスキルの定番と言えばこれだよねー。

これで是非とも俺TUEEEEEEしてほしいな。


「お、おぉ…!すごい、これが僕の新しい力……。」


もらったスキルに感動しているユウマ。きっと楽しい異世界ライフを見せてくれるんだろうな。楽しみだ!


「それでは、新しい世界をどうぞ楽しんできてください」


そう言って、俺は最初の転生者(ユウマ)を送り出した。







〈ユウマ〉


10歳の誕生日、僕は前世の記憶を思い出した。今回の名前もユウマというらしい。

前世ではいじめられていたこと。事故にあって死んだこと。そして、神様に会ったこと。そのすべてを思い出した。

また、それとは別にこの世界で”ユウマ”として10歳まで生きた記憶も残っている。

住んでいたのはとても小さな村だが、僕はこの世界でもいじめられていた。前世ではずっと我慢してた。でも誰も助けてなんてくれなかった。


「今回は僕は力を持っているんだ。それも圧倒的な。」


だから、復讐することにした。


まずは手始めにいつもいじめてくる奴らから、スキルを【強奪】して殺した。

多くのスキルと経験値を得た。


「今度は、見て見ぬふりをしたり加担してきた大人を殺そう。」


そう思い初日を終えた。


翌日、騒がしさに起きるとなんと盗賊が村を襲いに来たという。


「災難……いや?考えようによってはむしろラッキーか?」


そうだラッキーだ。どさくさに紛れて殺せるし、新しいスキルも取り放題だ!


そうして盗賊を皆殺しにしてスキルを奪いつくし、復讐相手もみんな殺した僕…いや俺は村を後にした。


「次は、そうだな。冒険者になろう。」




そう言って笑う彼の顔は、少し、邪悪に歪んでいた。







〈ケイイチ〉


ユウマは平民の子として生まれて、ちょうど今日10歳の誕生日を迎えると同時に記憶を取り戻した。

この世界への転生は名前も姿も前世とほとんど変わらないらしくそこまで混乱はしていないらしい。


「ふふ。これから面白くなるぞー。」


翌日、盗賊団がユウマの住む村を襲った。もちろんこれは俺の用意したいわば”舞台装置”。

村の人間は多少死んでしまうかもしれないが主人公(ユウマ)の強化には必要なイベントだからな、仕方ない。


そう思っていたのだがユウマは俺の予想をいい意味で裏切ってくれたのだ。


「まさか転生した直後に人を殺すなんて。俺でもそんなの書かないぞ!ほんっとうに最高だなぁ、ユウマ!おまえは逸材だ!!」


そのまま翌日に現れた盗賊も瞬殺して村を出たユウマの姿は、本当に素晴らしかった。




その後もたくさんの転生者がやってきた。

その度に俺は【超幸運(スーパーラック)】【未来視(ビジョン)】【空間魔法】【魅了】と言った、定番のチートスキルを次々と授けた。

その結果、本当に面白い”物語”がたくさん見られた。

最近は、ほかの仕事が忙しくてあまりみられて無いけど、とても楽しめている。


「この話を引き受けて本当に良かった。最高だよ!」


そうやって常に浮かれていた。



──浮かれていたのだ。








──その出会いは、運命だと思った。



あの時も、いつも通り神界に来た転生者の対応をしようとしていた。

白鷺雪音(しらさぎゆきね)、17歳か。特段特徴の無い普通の人生を送ってきたんだな。)

今回はどんなスキルをあげようかと考えながら、いつも通り話しかけた。


「ようこそいらっ──」

「ねぇ!あなた、かみさま!?」

「しゃいまし……は?(え、なに?はなしかけてきたの?突然?)」

「やっぱりこれから転生?転生なの!?」

「お、落ち着いて。まずは、話を聞いてください。」

「あ、ごめんごめん。昔ら興奮すると周りが見えなくなるたちでさー。」


(な、なんなんだこいつ。図々しすぎるだろ。てかなんでこの状態で混乱してないんだよ。)


「ご、ごほん。ここは死後に世界、のようなものです。」

「うんうん。それでそれで?」

「……そ、それで今回ユキネさんがここに来た理由。それはあなたの想像通り”異世界転生”です。」

「き、きたぁぁーー!憧れの異世界だーー!」

「(テ、テンション高すぎだろ…)よ、喜んでいただけて何よりです。それで今回ユキネさんにお渡しするスキルなのですが、」

「いらないです。」

「……え?」

「いわゆる”チートスキル”ってやつでしょう?そんなので強くなっても面白くないからいらない。」

「(正気か…?こいつ)で、ですが、何もなしだとすぐに死んでしまいますよ?」

「えーー。うーん。はぁ、わかったよ。」


(こ、こいつため息つきやがったぞ)


「そしたら少しだけ成長率を上げるスキルを頂戴。それなら文句ないででしょう?」


(なめやがって。そんなに言うなら勝手にしやがれ。すぐ死んで後悔すればいいんだ!)


「ふぅ…。分かりました。すぐに死んでしまっても責任は取りませんからね。」

「うんうん。分かってくれればいいんだよ。それじゃあ早速転生させてよね!」

「…えぇ。分かりました。それでは新しい世界を楽しんできてください。」




「なんなんだあいつは。こうなったら後悔して死ぬところをしっかり見てやる。」



そうして、しばらくの間ユキネの観察をしていた。







〈ユキネ〉


転生した。

そう自覚したのは私が5歳の時。前世で死んで神様に会ったことを思い出した。


「ふふ。あの時の神様の顔最高だったなー。まさかチート拒否されるとは思わなかったんだろうなー。」


私はずっと、努力チートものに憧れていた。

これといったチートスキルを与えられなかったことを言い訳にせず、愚直に努力して最強に成り上がるっていうのが最高にかっこよくてずっとそうなりたいと願っていたんだ。


「その願いが叶うなんて、ほんとに夢みたいだなぁ」




それからの私の生活は、他人にとっては地獄ともいえるようなものだったらしい。

私的には毎日毎日自分が着実に強くなってることが実感できてむしろ天国まであったんだけどなぁ。



ある時は、魔物の群れに単身でつっこみ、自身を魔法で強化し、その副産物として得た自己治癒スキルを駆使して三日三晩戦い続けた。


ある時は、毎日気絶するまで魔法を使い続け、目が覚めたらまたすぐに気絶するまで発動し続ける生活を一年ほど続けた。


決闘魔法という、効果範囲内での死を無効にする魔法を知ったときは、それを使って一ヶ月の間最強種のドラゴンと戦い続けた。


確かに、途中で死にかけたり実際に死んだことは何度もあったけど最強になるための必要経費だよねー。

おかげでスキルや技能をたくさん手に入れたし、冒険者のランクも最高位の”S”に達した。

まだまだ最強には遠いけど結構強くなれたんじゃないかなーと思う。


まぁ強くなることに執着しすぎて浮いた話の一つもなかったのが唯一の後悔かな。




そんな私にも転機がおとずれた。


ある日、私は護衛依頼を受けた。

なんでS級の私に依頼が来たのかなーと思ったら、なんと貴族からの依頼だったのだ。

ついに私もここまで来たか、と感傷に浸りながら依頼に向かった。



これがあの人との出会いとなった。



今回の依頼は複数パーティーでの合同依頼だ。

私以外に、男が一人と男女四人組のパーティーが一組の計6人で護衛に当たる。

道中の見張りは、依頼主の専属の護衛が引き受けてくれることになったため、馬車の中で暇を持て余した私たちは雑談に興じていた。



「敵襲だ!!!」


お互いの自己紹介が終わりいくらかの雑談も終えたころ、その叫びは聞こえた。


敵の数はおよそ20。それに──


「敵の武器の質が良すぎますね。」

「…!そうね。おそらく盗賊に偽装した刺客なんだと思う。」

「僕も同意ですね。」


私と意見を交わした白髪の青年はギルバートと言う名前のB級冒険者。歳は私の二個上の17だそうだ。

(驚いた。まだB級だというのにそんなに細かいところまで気づくとは。)


「とりあえず私が半分受け持つ。他はあんたたちで頼むよ!」


そう言って私は剣を抜く。

私のメインの攻撃手段は、文字通り死にながら鍛えた剣術だ。

それに大量の魔力で強化した自己治癒能力を合わせることで完成するいわゆる”狂戦士(バーサーカー)”スタイル。

だから私が一番得意としているのは対多数の超長期戦。一人でスタンピードを沈めたこともある。


剣と体に魔力を流して身体能力の強化をする。


「準備完了っ!さぁ、とっととかかってきな!」

「なめやがって!」


そう言ってとびかかってきた男を一撃で切り捨てる。


「まだまだ!」


仲間の死に一瞬動揺した隙に速攻で四人切り殺す。


「もう半分しかいないじゃんか!!この程度なの!!?」

「くそっ!この戦闘狂がっ!これでも食らいやがれ!」


リーダーらしき人が”爆弾”を投げつけてきた。




ドゴォォォォォン……


「ユキネさん!!」


そう叫ぶのはちょうど他の十人をみんなで始末し終わったギルバートだった。


「ククク…。これでさすがにあの戦闘狂も死んだ、だ…ろう……?」


突然、男の()()()()()


「???」


全員が混乱する中気の抜けた声が響き渡る。


「いやーびっくりしたなー。反射的に切っちゃったよ。」


そこには左腕を失い血まみれで立つユキネの姿が。

遅れて倒れた残りの敵にそう声を掛けるとユキネは剣を納めた。




「何やってるんですか!!ユキネさん!!」


爆弾にびっくりして全員切ってしまったことに少し残念がっていると、ギルバートにそう詰め寄られた。


「え?な、何って…?」

「なんで…なんでそんな無茶するんですか!?」

「えぇ?む、無茶??」

「そうですよ…。腕まで無くして……。」

「あ、あぁ…!そういうことね」

「この腕ね。治るんだよ。」

「……は?」


こいつ何言ってんだ?って顔された。悲しい。


「ほら。頭の傷はもうほぼ治りかけてるでしょ?」


そう言って傷跡を見せた。


「……ほんとだ。」

「ね?だから腕も治るから気にしないでいいよ。」

「いやそういうことじゃなくて!!」



それからこの話は依頼が終わるまで平行線で続いた。

普段ならうざったいと切り捨てるのだが、本気で心配してくれてるのが伝わってきてできなかった。


……それに、こんなに話してくれる人は初めてだったから悪い気もしなかったし、、。




そんなこんなで私たちは行動を共にするようになった。


依頼で無茶をするたびに文句を言ってくるけど、いつも一番に私の手当てをしてくれる。

連携の仕方なんてちんぷんかんぷんな私に、いつも完璧に合わせてくれた。

強くなること以外の知識が不足しがちだった私をいつも助けてくれた。


こうして依頼を一緒にこなし、ギルバートがS級になるころには私たちは”白黒コンビ”として有名になっていた。



前世も合わせて初めて行った、男の子とのお祭り。緊張したけど楽しかったな。

初めて手をつないだ時のギルの顔なんて、今思い出しても笑えてくる。本当に楽しかった。


公私ともに長いこと一緒に過ごした私たちは、ついに結婚した。

まだ冒険者は続ける予定だけど、もう少し稼いだら家を買ってギルと二人で幸せに暮らすんだ!



そう、二人で話していた。幸せだった。このままずっと幸せだと、そう信じていた。







〈ケイイチ〉


すぐに死ぬと思っていた。

ちょっと成長が早くなるだけのスキルで生き残れると到底思えなかった。

確かに努力チートというジャンルもあるが、あんなの創作だから可能なのであって現実にそんなことできるわけないのだ。


だからとっとと死んで、後悔するところを見てやろうと思って観察していた。


「全然死なねぇなこいつ…」


住んでいた村に何度も魔物の群れを放った。なのにあいつはすべてを蹴散らしやがった。

ある時はドラゴンを送ってやったこともあったが最終的には倒されてしまった。


他にも、嫌がらせのような試練をたくさん用意した。

けど、そのどれもやはり軽々と突破してしまう。


その途中で気が付いてしまったのだ。

”次はどんな方法で試練を突破するんだろう。”と期待する自分に。


俺はいつの間にか


──彼女のファンになってしまったのだ。


常人では到底耐えられない地獄のような努力。

強くなることに執着して死ぬことも厭わないその狂気。

そうして手に入れた圧倒的な強さによる無双。


絶対にありえないと思っていた努力チートを実現させてしまったユキネ。

そんな彼女にすっかり魅了されてしまったのだ。


「あぁ最高だなぁ。本当に最高だ。まさかこんな奇跡に巡り合えるなんて…。」


それからもずっと彼女は努力を続けた。

ドラゴンを倒せるようになっても、S級冒険者になっても。

ユキネは常に上を目指し続けた。


そんな姿に俺はますます彼女のファンになってしまった。


そんなあるとき一つのミスに気が付いたんだ。


「せっかくの女主人公ものなのに恋のイベントが一つもない!!」


と、いうわけでそれから俺は彼女が積極的に他人とかかわりを持つように手を回した。

最初こそ長年コミュ障をこじらせたらしいせいで、なかなかうまくいかなかったのだが、ついに成功の兆しが見えてきたのだ!


相手の名前は”ギルバート”。

B級の白髪の好青年である。

彼のなにが琴線に触れたのかは分からないけど、今まで頑なに他人と関わりを持ってくれなかったユキネが、ふたりで行動してくれるようになったのだ。


「ふたりでお祭りに行くイベントは良かったなぁ。」


声こそ聞こえなかったが、ふたりの表情を見るだけでこっちまで幸せになった。

結婚を決めたときは自分のことのように感動して思わず泣いてしまったほどだ。



俺は、完全に彼女を好きになっていた。







今日も俺はユキネを観察していた。

今日はギルバートとともに依頼を受けるらしい。

今回は俺は関与していないから内容はよく分からないけど、どうやら最近頻発している人攫いの調査依頼のようだ。

B級のパーティーが依頼に出て以来行方不明になっているらしくS級のふたりに依頼が回ってきたのだと。


(こういう時に下界の”音”が聞こえないのは不便だな。)



「そういえば、前に見た”爆弾”。あんなのこの世界にはなかったはずなんだけどどうしたんだろう?」


まぁどうでもいいか。これだけ転生者を送っているんだ、そういうこともあるだろう。

そんなことよりユキネに集中せねば。


「この前新技開発してたし今回はどんな無双を見せてくれるのかなー。」


そうワクワクしていた。



森の中で調査をしていた時、不意にふたりが周囲を警戒し始めた。

するとその男は突然現れた。

焦げ茶色の髪は無造作に伸ばされ、その瞳は獰猛(どうもう)に光っていた。


「っ!?神界(ここ)まで圧が伝わってくる…。一体何者だ?」



〈ユキネ〉


「っ!!?(な、何?この邪悪な気配)」

「ユキネ。」

「えぇ。どうやら相当やばいやつに目を付けられたかもね。」


突然、その男は目の前に現れた。


「「なっ!!?」」


焦げ茶色の髪に黒っぽい瞳は、どこか懐かしさを覚える。

刹那、男は動き出す。


「くっ…!」


辛うじて反応できた私はギルを引っ張って大きく下がる。


「随分、幸せそうじゃねぇか!」


男はそう叫ぶと、魔力を一点に集め始めた。

(な、なんて異常な魔力……!量だけで私の倍以上、か。これはちょっと……)


「ギル!こいつはやばい!私が抑えてるから応援呼んできて!!」

「…!で、でも!」

「大丈夫。私が頑丈なの、あなたが一番わかってるでしょう?」


行ってくれた。

(ギルが魔法に詳しくなくて良かった。()()()()見たら絶対行ってくれなかったよ)

男の手の中には私の全魔力と同じくらいの量の魔力が圧縮されていた。


「死ね。くそ女!」


刹那、音が消え視界が白に染まった。




〈ケイイチ〉


「ユキネ!」


思わずそう叫んだ。誰にも聞こえるはずが無いのに。

その大爆発に巻き込まれてしまったユキネの生存は絶望的だ。

だが俺は焦らない。なぜなら彼女は”主人公”だからだ。主人公はどんなときも最後には勝つのだ。


土煙が晴れたそこには、満身創痍ではあるもののしっかり立っているユキネの姿があった。

相手も相当驚いているようだ。ざまぁみろ。


さぁここからはユキネ(主人公)のターンだ!







「…………へ?」




〈ユキネ〉


(やっばいなこれ。魔力で最大限強化してたし、耐久力にはだいぶ自身があったんだけどな。半分以上の魔力持ってかれたのに、満身創痍なんだけど。)


左手はもう使い物にならない。スピードもパワーも万全の半分も出せないだろう。

(せめて傷がふさがるくらいまでは時間稼がないと)


「ねぇ。あなたいったい何者なの?その魔法普通じゃないよね。」

「はっそうかよ。お前は覚えてもいないか。」

「?どこかで会ったことあるの?(こんな人この世界には来てから見たことないけどな。)」

「何者か、だったな。」

「一緒だよ。お前と。」

「一緒…っ!?(まさか()()()?そうか…。どうりで容姿になつかしさがあると思った。でも…)」

「だとしても私はあなたのことは知らないと思うな。前世含めて。」

「クク…あぁそうかい。やっぱりお前は死刑決定だな。そうだ、回復は終わったか?」

「っ!?え、えぇ。(気づいていたのね…それに死刑って)」

「簡単に終わってくれるなよ!」


そう言って再び戦闘が始まった。



息つく暇もない激闘。

かつて魔物の群れと連戦した時も、ドラゴンとの死闘を演じた時も、ここまで追い詰められたことはない。

一つのミスが死に直結する極限状態は私を新たなステージへと引き上げた。


「何を笑っている。」

「え?あぁ、こんな戦い初めてでさ。」

「……ふん。癪だが、同意見だ。終わらせるのは、少し惜しい。」

「だが──もう、終わりだ。」

「……へ?」



男の腕が私の体を貫いた。


「あっははぁ。これ、は、負け、かなぁ。」

「俺のスキルは【強奪】。それでお前の魔力と技術をすべて奪った。あとは死ぬだけだ。」

「はは、チートスキル、ってやつ?そっかぁ、ここまで、かぁ…。」

「……」

「ねぇ…。あなたの名前、教えてよ。」

「……進藤悠真(しんどうゆうま)。」

「!あぁ、なるほど、思い、出したよ…。そっか……。」


進藤悠真(しんどうゆうま)

前世、私と同じ学校で同じクラスだった男の子。

彼はいじめられていた。それも凄まじいものだったらしい。

主犯の親は超お金持ちで、以前にいじめを止めようとした教師を自殺まで追い込んだと噂されていた。

そんな噂に、私たち生徒はもちろん先生たちも、怯えて見ていることしかできなかった。



私は最後の力を振り絞って腕を動かす。

手を男──悠真の頬に添えた。


「ごめんね…。あの時、助けて、あげられなくて。辛かった、よねぇ…。ごめん……。」


そう言い終えると私は彼から離れ、その体を、意識を、手放した。




〈ユウマ〉


泣いていた。あの女、雪音は泣きながら謝ってきた。


「なんだよ……。なんなんだよ!!それはっ!!!」


「いまさら謝られたって、もう、手遅れなんだよ……。」







〈ケイイチ〉


目の前の光景が理解できなかった。

男の腕が、彼女の体を貫通している。

それだけじゃない、彼女の自慢の魔力が感じられない。


「ユキネが…死んだ…?主人公なのに…?」


信じられなかった。

主人公は死なない。

当たり前で、絶対不変の真理だと、そう思っていた。


彼女を、殺したのは、誰だ?


「……は?」


彼女の体を貫通するその腕の持ち主は俺の知っているやつだった。


「ユウ、マ……?」


その事実は、今度こそ俺を地獄に叩き落した。


彼を転生させたのは俺で、力を与えたのも、俺で、あれ……?こんなの……


「俺が殺したのと、同じじゃないか……。」


その瞬間、俺の立つ世界が足元から崩れ去っていく感覚を覚えた。

目の前が真っ白になる。

今までの自分の言動が走馬灯のようにフラッシュバックする。



ただの物語だと思っていた訳ではない。

彼女等も生きているのだと、理解しているつもりだった。



何もかも間違いだった。

能天気に観察していたことも、転生させた人間を管理しなかったことも、そもそも転生の神(こんなの役割)を引き受けたことも、何もかも…。


最後に見ることのできたユキネは()()()()()顔を歪めて泣いていた。


頑張って頑張って頑張って血のにじむような努力の末手に入れた力を理不尽に奪われ殺された。

さぞ悔しかっただろう。


「仇を…取らないと……。」


そうだ仇、あいつ──ユウマからスキルを奪う。

ユキネと同じ目にあって死ねばいいんだ。

そして、終わりにしよう。


こんな役割放棄して俺も死のう。


「──そうしよう……。」






〈ユウマ〉


俺は転生してからいろいろあった末に、今は悪党をやっている。

別に語ることはない。

この世界に来たばかりで無知だった俺は、圧倒的力を使いつぶされ、用済みになるとごみのように捨てられた。

ただそれだけの、この世界ではありふれた話だ。



雪音、前世のクラスメイトを殺してから三日が経った。

今でもあの最後の顔がちらつく。


『辛かった、よねぇ…。ごめん……。』


「くそがっ!」

「俺は間違ってなんて無い。俺が正しいんだ…。」


自分の根幹が揺れた気がした。



その時、不意に自分の体が重くなった。

周囲の感覚も、突然不明瞭になった。


「な、なんだ?」


そう呟き、何気なく自分のステータスを見た。


衝撃だった。


「ない。【強奪】がない!そ、それだけじゃない。【強奪】で手に入れたスキルが全部消えてる!!?」


意味が分からない。

俺の【強奪】は神にもらった絶対的なもので……



「ユウマさん!!」

「なんだ。(こんな時にいったい何なんだよ)」

「て、敵襲です!」

「……は?」



なんでも雪音の仲間を含めた、今まで俺たちの餌食になった奴の家族やら残党やらが騎士団と徒党を組んで襲撃に来たらしい。


(くそ!なんでこんな時に!)


一応、迎撃態勢をとった。

だがこの盗賊団は、完全に俺の力だけが頼りの状態だ。その俺がこれではまず勝ち目はない。


案の定俺たちすぐに制圧された。

メンバーは次々と騎士団に連行されていった。


俺は、運悪く残党のほうにあたってしまった。


彼らの恨みを一身に受けた。

当然の結果だ。


たくさんの罵声を浴びせられ、殴られ、蹴られた。

だが俺は抵抗しなかった。いや、できなかった。

スキルの無い俺なんて所詮そんなもんだ。

雪音と一緒にいた男だけがなにもしなかったのが印象に残った。




(転生させるだけさせてひどい人生を歩ませた挙句、最後にはスキルを剝奪されて、ずっと下に見ていたやつに殺される。とんだ疫病神だな、あいつは。)


そうして俺は死んだ。後悔なんて、もうとっくになかった。






〈ケイイチ〉


ユウマを殺した。

俺が直接殺すことはできないから、ユウマのスキルを剝奪してから、あいつに恨みがある者を集めて襲うように仕向けた。やったことは信託による軽い暗示のようなものだ。


こうして、俺の気持ちは晴れて、全てを終わりにできる。

──はずだった。


スキルを奪う時に知ってしまったのだ。

彼のこの世界での過酷な人生を、悪に落ちざるを得なかったその理由を。


そして、ユキネの最後の言葉も……。




「また間違えた。」


「また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。また間違えた。」





頭がおかしくなりそうだった。

また、何もかもを間違えたのだ。


ユウマがああなったのは他でもない俺のせいだし、そもそもユキネは復讐なんて望んでいなかった。


そして、知ってしまったのだ。

俺の送り込んだ転生者のおかげでどれだけ世界が荒廃してしまっているのかを。



何度も吐いた。



俺はすべてを投げ出してしまった。







一年がたった。


普通、一年がたてばある程度立ち直る目途がついてくると思う。

だがそれは、他に気を紛らわせるものがある下界での話だ。


今なら、あの神が俺に役割を押し付けた理由が分かる気がする。


神界(ここ)は孤独なのだ。

自分一人しかいない世界。

転生者が来なければやること一つない。


地獄と言っても過言でないこの場所で立ち直れるわけがなかった。


毎日毎日、ユキネの最後の瞬間がフラッシュバックして、その度に吐いた。

毎日毎日、ユウマの人生を追体験する夢を見て、飛び起きて、吐いた。


毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日毎日。



地獄のような日々だった。

死んでしまいたかった。

だけど、神は不死の存在だ。

自分より高次の存在に消されない限り存在し続けることになる。


これは罰なのだろうと思った。


どうしたらいいのか分からなかった。


ずいぶん前に転生者の供給は止めていたので、端的に”詰んでいた”。




ある日のことだった。


その日は、飛び起きて吐くこともなく、突発的に吐くことも一度しかなかった。

つまり、いつになく調子が良かったのだ。


だからだろうか、俺は一年ぶりに下界を覗いた。



何の因果だろう、或いはなんていやがらせだろう。


俺の目に一番最初に映ったのは──”ギルバート”だった。







〈ギルバート〉


俺がユキネと出会ったのはある依頼でのことだ。

彼女は有名人だったから、以前から知ってはいたんだが実際に会うと、とても”最年少S級冒険者”には見えないほどの、あどけない少女だった。


だが、そんな第一印象とは裏腹に彼女は凄まじかった。


俺ともう一組のパーティー、依頼人の専属護衛の計8人でなんとか対応できたのと同じだけの数を一人で倒してしまったのだ。

だけど、俺はそんなことより、自身の身を犠牲にするその戦い方に、思わず怒りが湧いてきた。


俺の母親が、自己犠牲をこじらせて死んでしまったことが関係しているんだと思う。



それから俺は彼女と行動を共にするようになった。

たくさんの時間を一緒に過ごした。

初めての経験を共にした。


いつの間にか俺達は想い合っていた。

知り合いの中でも、お似合いカップルだと、よくからかわれたものだ。

結婚の、約束も、していた…。

して、いたんだ……。

あと少し、、あと少ししたらっ!!…危ない冒険者をやめて、ゆっくり……ゆっくり暮らす、計画だったんだ……。



あの日、すべてが終わった。


何の変哲もない調査依頼。S級の俺たちに、危険なんて訪れるはずがなかった。


深く森に入ったとき異変(イレギュラー)()()

相対するだけで、冷や汗が止まらないほどの邪悪な、そして圧倒的な強者の気配。


瞬時に二人だけでは勝てないと悟るには十分だった。


ユキネは私に応援を呼ぶように言った。

目を見ればわかる。彼女は、俺を逃がそうとしているのだ。

だが、悔しいが反論はできない。

彼女はこういう時、てこでも動かない。そう、痛いほど知っているからだ。


だから、俺は全速力で来た道を駆けた。

これが、間違いだった……!



戻った時、彼女は立っていなかった。


無残な姿で、倒れ伏していた……。



頭が真っ白になった。目の前の光景も、理解ができなかった。


人目を(はばか)らず、慟哭(どうこく)した。



──喉に感じた血の味。

──涙で歪んだ視界に映る彼女の顔。

──手に感じる冷え切った彼女の体温。



それだけ、ただそれだけを、克明(こくめい)に覚えている。



三日ほど後だったか。


俺は多くの同士を引き連れて、あの男を討ちに出た。

仇を討ったはずだった。


何も、何も変わらなかった。

味も色も温度でさえも、あの光景から止まったままだった。

本当に彼女は仇討ちを望んでいたのかと、何度も考えた。


俺の心は、死んでしまったのだ。



時が止まったまま、一年がたった。


なにもする気が起きなかったし、生きる気力も無かったが、

それでも彼女は最後に俺が生きることを望んだ。



だから、生きなければならなかった。

生きるためには、食べなければならなかった。

食べるためには、働かなければならなかった。


人間とは、図太いやつだと実感した。

一年間、表面上だけでも社会的な生活を送っていると、あの時の絶望感が薄れてきた。


思い出すときには、その限りではなかったが。



もう一つ。

俺が生きなければならない理由があった。


”ハル”と言う少女だ。


あの子は孤児で、ふたりで長期依頼を受けていた時に保護した。

街に帰るまでの間、一緒に旅をしてたら、とても懐かれたのだ。

この辺りでは珍しい黒髪のせいか、預けた孤児院でも馴染めなかったらしく、ふたりでよく会いに行っていた。


俺たちふたりにとって、娘といっても差し支えないような、そんな存在だった。




俺が塞ぎこんで、日常生活もままならなかったころ、あの子が家を訪ねてきたのだ。

孤児院のシスターが言うには、ユキネが死んだと聞いてハルが最初に放ったのは、俺を心配する言葉だったらしい。

それで、俺が塞ぎこんでると知ったハルはシスターに無理を言って家まで送ってもらったと。


情けなかった。

まだ10歳の女の子にこんなに心配させたことが。

自分も悲しいだろうに、俺に気を遣わせたことが。


そして同時に、ユキネの面影のあるハルを見てはっとした。

これからは、俺が一人でこの子を守らなければならないんだと。







〈ケイイチ〉



知らなかった。

表面的な”鑑賞”しかしていなかったからか、”ハル”という少女は初めて見た。


そして、自分の犯した罪の重さを改めて自覚した。


だけど、不思議なことに俺は吐かなかった。

代わりに、ある気持ちが湧いてきた。


「せめて…償わなきゃ…。」


少しづつ立ち直っていたギルバートを見たからか、理由は定かではない。

だが、幸運だったといえるだろう。

これ以上”見て見ぬふり”という罪を重ねなくて済むから――。




だが、俺は何をするべきなのか。

腐っても俺は()だ。

何気ない行動でも、凄まじい影響を与えかねないから慎重にならざるを得ない。



とりあえず俺がなすべき最終目標は”俺が送り込んだ転生者によって、荒廃した世界を元に戻すこと”。


時を戻せばすぐだ。

実際に可能ではある。

だがそれはあまりにも身勝手が過ぎる。


だから、それ以外の方法で行わなければならない。


俺が取れる手段。


「神託…暗示か…。」


ギルバートたちにユウマを殺させた時に使った手法だ。

あまり使いたくない手法だがこれが最善だろう。


これ以外の方法はあまりにも影響が大き過ぎる。



「ふっ。作家としての本領発揮だ。」


ずいぶん久しぶりに笑えた気がする。







〈グリム〉


俺様は”グリム”。

前世では空き巣に入った家で同業者と鉢合わせてあっけなく殺された。

地獄行きは確定だと思ったが気づけば見知らぬ白い部屋にいた。


そこで、あのうさん臭い神に会ってチートスキルをもらったのさ。

まぁ、ラノベなんかでよくある感じだな。


貰ったのは【未来視(ビジョン)】、未来を見ることのできるスキルだ。


俺様は転生を自覚してから、このスキルを使って好き放題してきた。

賭けでは百戦百勝。

戦闘(タイマン)だって、転生特典の強靭な肉体と【未来視(ビジョン)】があれば負けなしだった。



転機は15の時だった。

他の転生者に会ったのだ。


…こっぴどく負けたのさ。


()()()ところで、対処する暇もなかった。

あいつらは貰ったスキルを完全に使いこなし、その上応用までして見せていた。


その時決意したんだ。


『完膚なきまでに叩きのめして俺様を負かしたやつを屈服させてやる。』ってなぁ!


そこからは早かった。

どうやらこの体は異常なほどに才能にあふれていて、魔法も武術もみるみるうちに上達した。

チートスキルも磨いて、多くの未来を同時に見て最適解を導き出せるようになった。


満を持して臨んだ再戦(リベンジマッチ)


あっけないものだった。

瞬殺だったのだ。


チートスキルを使うまでもない。

圧倒的な身体能力から繰り出される”技”に、奴らは為す術なく沈んだ。


そこで思いついたのさ。

この世界に送り込まれた転生者を束ねて、世界を支配してやろう。とね。





俺様は”グリム”。

最強の、この世界の支配者だ!







数年後


俺様は多くの転生者を統べ、”龍皇の集い(バジリスク)”という組織を立ち上げた。

チートスキルを持った準主人公の集団。

圧倒的だった。


手始めに俺様の生まれた帝国を滅ぼした。

三日かからなかった。


帝国を実効支配した俺様たちは、しばらく戦力の増強にいそしんでいた。

狙っていた【強奪】の持ち主が死んだらしく、それに代わる戦力を探していた。


「やっぱり【強奪】を殺したやつを探し出したいよなぁ。」


そうつぶやいた瞬間、突然頭に声が流れてきた。


『――魔王として世界を滅ぼしなさい――』


理屈は分からないが、これが”神託”だと理解できた。


「魔王…か。いいじゃねぇか、やってやるよ!」


そう意気込んだ。







〈ギルバート〉


ユキネが死んでから一年と少し。

今はハルと二人で暮らしている。


数か月前、孤児院に10人ほど子供がやってきたのを機に引き取ったのだ。

なんでも新しく入ってきたやつとずいぶん馬が合わないらしく、ハルが申し訳なさそうな顔をしてお願いしてきたのだ。

断れるわけもないし、ユキネと結婚したら引き取る予定だったんだ、問題はない。


それに、そのおかげでより仕事に精を出すことができた。



「私も冒険者になりたい!」


10才になったハルがそんなことを言い出した。

ずっとユキネの話を聞いていたんだ、いつかこんな日が来るのは分かっていた。


ずっと考えていた。

どうやってあきらめさせるか。


だけど、ハルの真剣な眼差しと、覚悟を持った顔つきに言葉が詰まった。

だから聞いてみたんだ。

どうして冒険者になりたいのか。


「ユキ姉はね、また三人で旅をするのが夢だって言ってたの。だから、お姉ちゃんの代わりに二人でいろんなところに行ってお姉ちゃんにもその景色を見せてあげたいんだ。」


ユキネが、そんなことを言っていたなんて初耳だった。

何も言えなかった。

一晩だけ、待ってもらった。


これは、俺が覚悟を決める時間。

大丈夫だ。

ハルが望んでいるのは二人での旅だ。

おれがしっかり守ってやればいい。

それに、


「あんなこと言われたら、止められないじゃないか…。」







〈ハル〉


二人に会ったのは七歳の時だった。

早くに両親を亡くした私は奴隷商に運ばれていた。

ある日、魔物に襲われて運良く逃げ出すことができた私は、死にかけていた。


何も知らず、早くから奴隷として飼われていた私に、自然の中で生き延びる術など持っていなかったのだ。


「何にもいい事なかったなぁ。」


両親との記憶もほとんどなく、楽しかった記憶なんてほとんどない。

大した未練もなく、全てをあきらめて意識を手放そうとしたその時、二人に出会った。


人生最初の幸運だと思う。

何ならここですべての運を使い尽くいしてしまったのではないかと思ってしまうほどに、私は幸運だった。

初めて()を感じて、気がつけば声をあげて泣いていた。


ユキ姉の優しい抱擁と、ギル兄の少し困ったような優しいまなざしを、私は一生忘れないと思う。



しばらくは、孤児院に預けられた。

黒髪が珍しいのか、よくいじめられたけどユキ姉とおそろいのこの髪色を私は気に入っている。


「もう少しで一緒に暮らせるようになるからね!」


ユキ姉は来るたびにそう言ってくれた。



しばらく二人の面会がなく、寂しく思っているとシスターに呼び出された。

なんでも”大事な話”があるらしい。


聞かなければよかったと、少しだけ後悔した。


でも、私よりも遥かに苦しんでいる人がいる。

そう思うと自然と口をついていた。


「ギル兄は…。ギル兄は、大丈夫なの…?」

「え、えぇ。大きな怪我もないって――」

「そうじゃなくて。ユキ姉が死んじゃって、ギル兄は大丈夫なの…?」

「――ッ…!」


シスターが息をのむのがわかる。


その後すぐに私はギル兄に会いに行った。


案の定、死人みたいな顔をしていたギル兄。

二人で話して、そこで初めて泣いてしまった。

ユキ姉はもういないんだって、改めて実感してしまったから。


私が帰るとき、ギル兄は覚悟を決めたような、生気に満ちた顔をしていた。

来てよかったと、心からそう思った。



しばらくして、私はギル兄に引き取られた。


初めてのわがままを聞いてもらえてとても嬉しかった。

少しずつ幸せを取り戻していった。


そんな矢先だった。

不意に頭に声が響いた。


『――貴方は勇者に選ばれました――』


その直後私は気がつくと真っ白い部屋に立っていた。


目の前には、男の人が立っていた。

どうやら神様らしい。

事の経緯を聞いた。


殺してやりたくなった。


それでも、彼が心から後悔していることも分かったし、それに、ユキ姉はそんなこと絶対に望まない。


だから、勇者の件を引き受けることにした。

きっとユキ姉なら、飛びつくだろうし、私はギル兄と二人で幸せに暮らせる世界を作りたい。


それが私の目標()だから――。







〈ケイイチ〉


やれることはやった…はずだ。



一番苦悩した”勇者”の存在だ。


自らの失態で生んだ被害者に重責を負わせることになるのだ。

しかも、死の危険が常に付きまとうようなものだ。

何度もほかの方法を模索した。


それでもそれ以外の方法は思いつけなかった。

だからせめて、ハルにはすべてを打ち明けたのだ。


もっと罵られると思っていたし、そうされる方が楽だった。

だが、ハルは冷静だった。


「ユキ姉ならそんなこと望まないから――。」


少し無理したような笑顔でそう言ったのだ。

自分の惨めさがより際立ったような気がした。


せめてこの少女に報いねばならないと、そう改めて感じさせられた。



ハルが冒険者になってから数年間が経った。


ユキネ譲りの圧倒的な努力と、ギルバート仕込みの慎重さと小技。

二つが合わさったハルは、この数年で龍皇の集い(バジリスク)を壊滅させるに至った。


だが、その過程は決して平坦なものではなかった。


ユキネを思い出させるような狂気的な努力。

何度も死にかけるのを見ていると、俺の方が先に心が折れてしまいそうだった。

日々のハルの痛みと苦悩、それからギルバートの苦悩。

二つともを知る俺は、何度も心が引き裂かれそうになった。


だが、これは贖罪だ。

彼女らの苦痛を俺が肩代わりすることで、彼女らの感じる苦痛を和らげる。


それが、天界(ここ)からできる唯一の手助けだったから…。



何度も後悔した、何度も諦めそうになった。

その度に自分の弱さに吐き気を催していた。


本当に頑張っているのは、彼女たちなのに。

悪いのはすべて自分で、ただ()()いるだけなのに――。




そして、ついに最後の戦いが始まろうとしていた。







〈ハル〉


今日まで長かった。

あの日勇者となってから、死ぬ思いで努力した。


ユキ姉の経験を見ることができるという権能を参考にした。

だけど、再現すればするほどユキ姉のすごさに驚かされるばかりだった。


私には目的があるから何とかやり遂げられた。

それなのに、()()をただ強くなることが目的でこなし続けるのは本当に天才だったんだと、そう実感した。


それでも私は強くなった。

ユキ姉とギル兄の力を借りて。


そして、何より信頼できる仲間もできた。

みんなの力を借りて、龍皇の集い(バジリスク)を追い詰めた――。


「これで、最後の戦いだよ。グリムッ!」

「ククッ。まさかこの世界の人間に追い詰められるとはなぁ。」

「あなたの敗因は、この世界の人達を甘く見ていたことよ。」

「アァ?敗因?笑わせるなよ。ここでお前を殺せば問題ない。もとより()()はそういう組織だ。」


邪悪な笑みを浮かべるグリム。

それでも、私は余裕を崩さない。

今まで積み上げた全てを信じて――。


――力を貸して、みんな…!!


周囲に光が満ちる。


「行くよ。」

「…ッ、ハッ!来やがれ雑魚が!!」
















後世には、とある伝承が伝わっている。


或る時、異界より悪魔を率べる王現れたり。

其を討ちしは、英雄と悪魔の(えにし)を継ぎし子。

人々、其の少女を勇者と称えられたり。



*




〈ケイイチ〉



あれから一年。


ハルの旅の終わりから、その事後処理に奔走した。

そのかいもあって、ほとんど元通りと言っても過言でない状態にまで修復ができた。


「これで、俺の役目は終わりだな。」


これで、清算できたとは思わない。

だけど――


「もう、楽になってもいいよね…?」


そうつぶやいて、最後の()()を行う。





〈???〉


気が付くと、僕は見知らぬ真っ白な部屋に立っていた。

さっきまでは…確か残業をしていたはず…。


「死んだか…?」

「察しがよくて助かります。初めまして、私は神です。」


突然、声が聞こえて驚いて振り向くと、そこには一見何の変哲もない青年が立っていた。

いや、それより――。


「神…?と、言うことは、転生!?」

「いえ、期待しているところ申し訳ないのですが、今回は少し違いまして…。」

「違う?と、言うと?」



神は、少し間をおいて、人当たりのいい笑みを浮かべてこう言った。




「あなた、――()に興味はありませんか?」

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