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今日も護衛の魔術師がかわいい  作者:
二章 地下水道調査
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二十四話 解決と残る疑問(2)

 名もなき英雄。帝国の表舞台にはほとんど姿を見せず、知る者はごく限られている――そんな異質な存在だった。

 その真の強さも、人柄も、目的も、誰も知らない。ただ確かなのは、名もなき英雄が魔王を追いつめたという事実だけである。


 そしてこの場にいる全員が、その名もなき英雄の名を知っていた。だが顔を合わせれば、その対処方法を巡って悩み、苦慮している。誰もが答えを持たず、各々が重い空気を抱えていた。


 そんな中で、ミカボシだけが焦燥の色を一切見せない。彼の落ち着きには余裕が宿っており、それは絶対的な強者としての自信から来るものだ。事実、この世界で名もなき英雄とわたりあえる存在は、魔王と人類最強の男と呼ばれるミカボシくらいのものだろう。


「俺はこの街に被害がでてこない限りはお前たちに協力してやる義理は無い」


 そこに、予想外の返答が放たれた。誰もが協力を取り付けられるだろうと踏んでいた場面で、彼は冷ややかに線を引く。驚きが場を支配する。


「この街に出現している限り被害は出ると思いますが?」


 だが、驚きは一瞬で消え去った。すぐに冷静さを取り戻し、落ち着いて協力を促す声が返ってくる。その言葉には決して誇張や作り話の気配はなく、厳然たる事実の重みがあった。早急に手を打たねば、この街に被害が出るどころか、やがて世界そのものを脅かすことになりかねない――そんな差し迫った危機感が言葉の端々から伝わってくる。


 だが、その切迫した訴えも、ミカボシの協力の条件にはならなかった。彼は微動だにせず、「協力しない」という立場を変える気配すら見せない。


「この街で起きたことはこの街で解決する。今回は帝国から逃げてきた犯人だから特別に調査をさせてやったが、それ以外の事に関しては干渉するつもりなどない。俺は誰かの犬になるつもりなんてないからな」


 この街が一個の国家のように扱われ、外部から干渉を受けない理由の一端は、まさにミカボシの存在にある。一街ながら、その頂点に人類最強が座しているのだから、軍事的な抑止力は大国にも匹敵する。彼が力を街の住民のためだけに行使することが、他国の干渉を防いでいるのだ。そしてもし彼がここで我々に協力するなどとすれば、その均衡は崩れ、大問題となることは間違いない。


 だが、それでも名もなき英雄を放っておけるわけではない。問題を見過ごすことは許されないのだ。


「この緊急事態で協力しないでどうするというのですか!!」


 必死の訴えが場内に響く。声は震え、焦りがにじむ。


「ああ。お前らはもうこの街に関わるな。これが最後の通告だ」


 ミカボシは冷たく、しかし揺るがぬ口調で告げた。そこには残酷なまでの決意が滲んでいた。

 その一言で場の空気は一瞬で凍りついた。緊張が膨らみ、会場全体がひどく気まずい静寂に包まれる。


 名もなき英雄の問題を解決したい──その願いは確かにある。だが、同時にその行為はミカボシという巨獣を敵に回すことを意味する。彼を敵に回せば、目の前にある安定は一瞬で崩れ、破滅へと進む愚挙になるだろう。そんな最悪のシナリオを考えると、誰も軽々しく口を開けないのも無理はない。


 俺はこの場では完全に置物だ。政治の駆け引きに疎く、交渉術も持たない。策を弄する才能もなければ、言葉で場を治める力量もない。下手に何か言えば、思いも寄らぬ不条理が降りかかるかもしれない。だから、無為に動くことはできず、ただ静かにその場を見守るしかないのだ。


「この街のことは俺に任せろ。この街に害が及ぶ限りは俺がやる」


 状況の悪化を察した上での、妥協と覚悟の言葉だ。表向きには干渉を避けつつも、裏では手を貸す――ミカボシが差し出したのは、外敵に対する最低限の保証であり、これ以上事を拗らせないための彼なりの落としどころだった。


「分かりました。それでいきましょう」


 ペルフィドはその提案を拒むことができなかった。ミカボシがここまで譲歩した以上、それを無碍にするのは得策ではない。彼は短く頷き、場を収める選択をした。


 そしてようやく、長くもあり短くもあった緊張の時間が、静かに終わりを告げた。会議室には残滓のような重さが残るが、事態はひとまず収束へと向かう。



 ***



 日の当たらない地下水道、そのさらに下に位置する一つの部屋に二人の男、Mr.Xと緋色の服を着た者。

 神出鬼没に現れては、また姿をくらますこの二人を知る者は限られており、それ故に裏から着々と何かの準備を進めていた。


「さぁて、準備は終わったよぉ。これからどうするんだぁ?」


 相も変らぬ不気味な笑み、そして怪しげな雰囲気を放っている。

 それを気にも留めず、ヘンテコな形をした道具をいじっている緋色の服の男。

 どこか、ピリついた雰囲気になっており、それとは真反対の色の青い炎で照らされるこの部屋。それらが相まって二人だけの世界を作り出していた。


 そして、その質問には完全に無反応。と言うよりかは、今は別の事に夢中で耳にすら入っていないだろう。

 Mr.Xの疑問は解消されないまま、時間だけが過ぎっていた。

これにて一章が終了しました!


次話からは第二章の幕開けです!!

投稿は来週の土曜からとなります。

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