二十三話 解決と残る疑問(1)
デュラハンとの遭遇、魔族との遭遇を果たした後、俺達はこの地の領主館へと招かれた。
木材をふんだんに使った長屋敷で領主の住む家なだけあって、この街の建物の中で一番大きく、風格のあるものだった。
中は、畳とよく似たもので床に敷き詰まれおり、扉は障子のようなものだが、どれも日本の伝統的なものとは少々ずれていて、新鮮感ないし、違和感を感じる。
そして、意外にも派手な装飾はなく、領主の館としては従者も少ない。
そしてこの場には三人、俺と領主であるミカボシ・アマツ、そして今回の調査の第一責任者と言っても過言ではない帝国の第二皇子であるペルフィド・エリュシオン。
その他の従者は別の場所で待機してもらっており、この場にいるのは非公認ではあるが国の代表者と言ってもいいだろう。
中々、話しは始まらず、互いに互いを見合い、そして牽制するかのように無言を貫く。
本来であれば、この街で起きた出来事は両国の干渉を受けないという条約の下に友好関係を結んでおり、それによりこの街が中立国としても認められている。
それが、それぞれの国の皇子、王子が干渉したのであれば問題にならないはずもない。それは勿論、分かりきったことであり、その上でペルフィドに協力をしている。
そして、何より今回の問題をややこしくしているのは、両国の干渉によってこの街の外敵を排除できたということと魔族が絡んでいるということだ。前者は倒したのはミカボシではあるものの、それを即座に発見し、調査に乗り出したのはペルフィド。なのでミカボシも攻めるに攻めれない。
一番の問題は後者の魔族。魔族が街に侵入していたなど公に公表してしまえば、それだけで民衆は混乱し、国としての機能を失う可能性もある。それだけは絶対に避けなければいけず、民衆に知られるなど言語道断。
それぞれの思惑、懸念がある中で腹を割って話し合うのは難しく、非常に長くなることが予想される。そう思っていた。
「それで、今回のことは不問とする」
ミカボシが言ったその一言に耳を疑った。
本来ならば、何かしらの批難、罰があってもおかしくないというのに、お咎めなしと来たのだ。どういう経緯で、どういう意図でそう切り出したのかは分からない。
だからこそ、その続きに注意する。
「まあ、ヴァイスは知らなかったと思うが、今回の事件に関しては俺が許可を出している」
「え? つまり、ペルフィドとミカボシさんはグルだったってこと?」
「そうなるな」
頭の中をいったん整理する。
いきなりの出来事で情報の処理が追いついておらず、一度、冷静になって情報を処理していく。
今回の事件は魔族が絡んでいた。その可能性があったのだから、ペルフィドはあえて必要以外の情報は教えていなかったのだろう。
そして今回の調査はこの街の領主であるミカボシの許可を得ていた。だから、俺が冒険者になる時に領主が直々にギルドに来てくれたのだろう。
今回の調査を秘密裏にやったのも、条約があるせいでそうするしかなかったのだろうし、あの手紙を見せただけで門番が通してくれたのも頷ける。
「そういうのは事前に言って欲しかった」
それは至極当然の感想であり、例え俺でなくとしても誰がこの立ち位置に居てもこの言葉が最初に来るのは間違いないだろう。
事前に知らせてくれれば、前もって準備を色々していただろうし、先程の状況に困惑することはなかっただろう。
「それは、本当にごめん。こんなに大事になるとは思ってなくて」
今回に関しては予想外の事ばかり起きたのも事実。
そもそも、魔族が絡んでいるのか分かっていない部分があったのだから、不明瞭な点は教えたくなかったのだろう。
昔からペルフィドはそういう性格で明確な情報以外は話すことをしない。過去に何があったのかは分からないが、原因は確かに過去にあるのだろう。
「まあ、終わったことだし別にいいけど」
仕方のない事だと割り切って、軽くこの話題をきる。
こちらとしても何か不都合なことばかりがあったわけではない。怪我も想定内ではあるし、思いもよらぬ冒険者の経験も出来た。何より、殺すことに対する恐怖も払拭できたのも大きい。
被害は大きいものの、その分のリターンは十分にあったものとも捉えられる。
「それじゃあ、今回の事件にいついて説明してもらおうか」
漸く本題に入る。
先程まで無言に見つめ合っていた時間が嘘なのかのように話のテンポが切り替わる。
「まず、僕から話したいと思う。一回目の地下水道調査、二回目の地下水道調査を通して、分かったことが一つ。魔族以外の勢力が居る可能性がある。その確たる証拠が二回とも名もなき英雄の屍に遭遇したこと。これは魔族と関連があるかもしれないが、二回目に至っては気が付けばその屍は消えていた」
今回の調査で確定したであろう第三勢力。この勢力が敵なのか味方なのかはまだ判断できないが、今の所、害が及んでいるわけではない。
敵ではないと決めつけるのも早計で、かといって敵だとも言い切れない第三勢力については保留、そして今後の動きに注視する方向で決まる。
「そして、一番の問題は名もなき英雄の屍の事だ」
その事の重大さがどれ程のものなのかは容易に想像できるほど危険な状況であり、今回の議題で最重要項目ともなり得るだろう。
だからこそ、その一言でその場の雰囲気が一気に険しくなった。




