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今日も護衛の魔術師がかわいい  作者:
二章 地下水道調査
19/26

番外編① 初めての夜

今日は番外編!!


本編で言うと七話と八話の間になります。

十八話は今日の夜中の投稿となります。

 今、人生最大の危機に陥っている。

 なぜ、こうなったのだろうか。俺はただ平穏に暮らしていきたいだけなのに。


 事の発端は屋敷から帰ってきた後の出来事。

 少し緊急事態が発生したので無断で屋敷を飛び出し、二日後に戻ってくれば、もう時すでに遅し。

 あれがなければもしかしたら……という可能性は低いが、それでもそう思いたい程に厄介な贈り物が両親から届いた。いや、正確にはアイリスが一番の原因ではある。


 剣を送ってくれるのは普通に嬉しかった。

 護衛を付けてくれるのは正直困ったが、心配した両親が付けてくれたので、そこはまだ許容範囲。

 だが、その護衛の人選に問題がありすぎる。


「ヴァイス様」


 そう、今、俺に声を掛けてくれたこの人物こそが俺の護衛。

 フリーガン公爵家の三女、クリスタ・フリーガン。

 サラサラとした綺麗な金髪、しっとりとした艶のある肌、一目惚れしてしまうほどのその瞳。要するに可愛すぎるのだ。しかもその可愛さが自分好みなのもまた問題。

 決してロリコンという訳ではない。今は見た目がまだ子供、しかもほぼ同年代であろう少女なのだから、ロリコンにはならない、はず、多分。


 なぜ、こんな美少女が俺の護衛をやってるのかが不思議で不思議でしょうがない。

 確かに今の俺は第四王子という立場なので身分的には些かの問題もない、だが、その前に俺の心が持たない。

 コミュ力皆無な俺がいきなり美少女と一つ同じの屋根で過ごすなど到底無理に決まっている。

 普通の男子ならば、嬉しさで一杯になるだろう。俺も嬉しいのは嬉しいのだが、はっきり言って恥ずかしさと不安がそれを勝る。


「聞いてますか?」


「あ、え、えっと……」


 あまりにも緊張しすぎていて頭の中がこんがらがって、語彙力が失われている。

 それに先程までこの状況をどうにかせねば、と考え込んでいたので話は全く聞いていない。


「私は床で寝ます。ヴァイス様はベットで寝てください」


 いやいやいや、そんなことが出来るはずもない。

 それをやれば男としての示しがつかないし、何より申し訳なさで眠れないだろう。


「いやいや、俺が床で寝るから、クリスタがベットを使ってよ」


「私はヴァイス様の護衛です。だから、私が床で寝ます」


 そもそも、こんな話になるのはこの部屋にベットが一つしかないせいだ。

 ヴィンセントにもう一つないかと尋ねたのだが、今はないので我慢してくださいとしか言わない。これは明らかに作為的なものを感じるが、それを問い詰めても有耶無耶にされるだろう。


「いーや、俺が床で寝る」


「私が床で寝ます」


 こちらがどんだけ反論をしようともクリスタは床で寝るの一点張り。かく言う俺も床で寝るの一点張りではあるが、ここは意地でも我を通さなけばその時点で負けになってしまう。

 どちらも中々折れず、自分の意思が固いのか、一向にこの単調な論争は終わらない。


 かれこれ数十分は続いたのだろうか、喉が渇き始めていた。

 一見無口そうなクリスタもこういう時には口数も多く、その上、頑固なのは意外であった。


 結果的に勝負は決まらず、妥協案としてベットで一緒に寝るという案になった。

 これも避けたいのだが、二人とも床で寝てそれをアスラとかに見られて変人扱いを受けるよりはまだマシである。


 ベットは意外にも広いので二人で寝れるスペースは裕にあり、頑張れば四人は入れるのでは、というくらいの大きさはあった。

 それぞれ端の方で寝て、間にスペースは出来ている。これならば、ぎりぎり大丈夫だろう。

 しかし、布団はひとつ。ここまで来ると明らかに作為的なものしか感じられない。同じ布団を使っていると思うと、何だかむず痒くなる。


 折角、護衛としてやって来て、これから共に行動するのだから、出来れば仲良くはしときたい。しかし、何か話さなばと思いはしつつも、会話のネタがない。

 何を話せばいいのか、何て声を掛ければいいのか、どう切り出したらいいのか、とそんな考えだけが頭の中で巡る。


「ヴァイス様は嫌ではないのですか?」


 先に喋り始めたのはクリスタの方であった。

 先を越された悔しさと同時に中々切り出せない状況が打破出来た安心感が宿る。


「嫌って何が?」


「この生活です。魔力がないという理由だけで追放されて」


 やっと質問の意図が理解できた。

 要するに、俺の心配をしてくれているのだろう。なんて優しい子なんだと思った。


 確かに家から追放されるのは誰でも嫌にはなるだろう。特に、家での環境が良ければと良かった程に。

 だが、俺は特に嫌な気持ちにはならなかった。寧ろ、ここに来る前まではわくわく感の方が強かった。


「普通は嫌なんだろうな。でも、俺は少し嬉しかったんだ」


「嬉しい?」


 追放されて何が嬉しいのか、そう聞きたいのだろう。

 そしてその疑問を抱くのも至極当然のことである。


「魔力が無いって分かった時さ、正直、家族から見捨てられるかと思ってた。今までの関係が崩れるのが怖かった」


 その時の俺はまだ前世の記憶を思い出したばかりで、正直こんがらがっていた部分は多々あった。

 そして、その前世の記憶のお陰で心のダメージは軽減したものの、やはり怖いと思った一面はしっかりある。


「だから、魔力がないって言われたとき追放される覚悟も罵られる覚悟もしてたんだ」


 その時の感情は今でも鮮明に覚えており、自分の運の悪さにつくづく痛感してしまう。

 これほどまでにか、と言うほどにレアケースを引いてしまったのだから。


「でも両親がかけてくれた言葉は違った。真っ先に出てきたのが謝罪の言葉だったんだ。普通は叱られても白い目で見られても可笑しくなに、王族だから余計に出てきても可笑しくないのに、最初に出てきたのが謝罪の言葉だったんだ」


 あの時、父と母がすぐに謝って、俺を慰めようとしていたその瞬間は今までにない程に胸が苦しくなった。

 前世で家族の温かさを知らなかった俺。今世で家族の温かさを知っている俺。その二つの記憶が合わさって、言葉では言い合わらせないような感情が胸を苦しくした。


「その時に自分が考えていたことが馬鹿馬鹿しく思えて、全部杞憂だった。一瞬でも疑った自分が情けないなとも思った」


 あの時に両親の愛情を疑った自分を殴りたいくらいに情けない話だと思う。

 あれだけ家族想いの人をどうして疑ってしまうのか、今になっては不思議でしょうがない。


「だから、この生活は嫌じゃないし、むしろ楽しいとも思ってる。今の生活があるから、ヴィンセントやアスラ、クリスタとも出会えたわけだし。本当に両親には感謝してるんだ」


「そう、なんですね」


 少し饒舌になってしまった節はあるものの、これだけ話せている自分に驚いている。

 それだけ、両親に感謝しているということでもあり、大切な思い出であったのだろう。


 だが、どこかクリスタは少し元気がないような、そんな雰囲気がした。

 しかし、その後は健やかに眠っていたので勘違いだったのだろう、とその時はそう思った。


 長いようで短い二人きりの夜、寝る前の時間は案外あっという間に過ぎ去っていった。

時折、番外編も投稿していきますのでぜひご覧ください。

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