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今日も護衛の魔術師がかわいい  作者:
二章 地下水道調査
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十七話 その男、人類最強につき

 武器を選び終え、受付人が来るまでのんびりと待っていると、慌てた様子で先程の受付人が戻ってきた。一体、何があったのかは検討もつかないが、少なくとも良いことではないのだろう。


「そ、その、只今、空いている試験官の方がいませんので後日改めてでもよろしいでしょうか?」


 一日でも早く情報収集をしたかったが、それが叶いそうにもない。

 ここで駄々をこねても仕方がないので、今日は諦めるしかないのだろう。


 分かりました、そう言いかけた時、後ろの方から見知らぬ男が会話に挟まって来た。


「俺が試験官をやってやる」


 振り返れば、そこには高身長の男。服装は和服で藍色を基調とし、縁の部分に白の市松模様。黒髪で赤い瞳はこちらを見透かすようで、少し野暮ったい。

 だが、その佇まいは素人でも分かるほどに強い。


「りょ、領主様!」


 受付人のその驚きで俺達も後から驚く。

 この街の領主が自ら試験官をやってくれるなど早々無いだろう。しかも、無名でこんな子供の相手をしてくれるとは誰も思わない。

 そもそも、領主が冒険者ギルドに居ること自体が珍しいだろう。


「そこのお前、名は何て言う?」


 いきなり、名前を問われて驚きはしたものの、冷静になって名を名乗る。


「ヴァイです」


「ヴァイか。俺はこの街の領主をやっているミカボシ・アマツだ。お前は刀を扱ったことがあるのか?」


 その名を聞いた瞬間、先程までの驚きが序の口かと思えるほどに衝撃の事実が明らかになった。

 この男、人類最強とまで呼ばれており、その強さはSランク冒険者の比にならなほどらしい。そんな男がこの街の領主だということも、今目の前にいると事実にも驚きを隠せない。


「ない、です」


 あまりの驚きに少しカタコトで返事をしてしまう。

 が、それを気にしている様子もない。


「じゃあ、なんでその武器にしたんだ?」


 今世では使っていないものの、前世では使っていたのでこの武器にしたのだが、それを正直に言える訳がない。


「えっと、何かしっくりくるからです」


「そうか」


 今の返事で合っていたのかは分からないが、何も追及されない辺り平気なのだろう。

 そして、ミカボシは暫く考え込んだ後に結論を導き出す。


「よし、俺に一撃入れたらCランクとしての冒険者登録をしてやる」


 それは願ってもないことだった。

 ランクが上であれば、ある程、情報収集がしやすくなるので当初の目的通り以上の成果が得られるかもしれない。

 だが、その反面、一撃を入れること自体が困難な相手だということ。人類最強と呼ばれている男に一撃を入れるなど今の俺には到底無理で夢のまた夢だ。

 しかし、その案を呑まないわけにはいかない。


 結果的にその案を受け入れ、人類最強の男との試合が決定する。

 その決定と共に試験会場へと向かう。


「大丈夫なの?」


 アスラから心配の声があがる。

 確かにこの模擬戦はいくら何でも実力差はありすぎる。


「た、多分……?」


「全く。無駄な所で運がいいのか、悪いのか」


 そこにはいろんな者が訓練をしており、各々が訓練に集中している。

 だが、ミカボシがこの訓練場に入った途端、訓練していた者は手を止め、注目が集まる。


 それもそう、この街の領主兼最強がわざわざここに来たのだから、不思議で不思議でしょうがない。そしてこの場の空気感は一気に変わっていた。


「これから、模擬戦がある。怪我をしたくないならどいてくれ」


 ミカボシは周囲にそう告げ、ゆっくりと闘技場の中央へと歩いていく。

 それに続き、俺も歩く。


 周りからは奇異の目で見られる。それもそのはず、子供と人類最強の男が模擬戦をするなど前代未聞であろう。


「それでは、只今より冒険者登録試験を始めます。両者、準備はいいですか?」


 受付人が双方の準備を確認する。

 勿論、どちらとも準備は万端でいつ始めてもいい状況だ。


 お互いに構え、相手をじっくりと見つめ合う。正直、どこまで通用するのかも分からないし、手も足も出ない可能性もある。それでも、やりきらないといけない。

 刀を握る手は手汗でべとべとで開始前だが、冷や汗を搔いている。それほどにまで緊張感が高まっている。


 目の前にいるのは中立都市コンコルディアの領主でもあり、人類最強とまで呼ばれている男。

 それを目の前にして、緊張感が高まらない者など何処にもいないだろう。


「それでは、始め!」


 その合図で試合が開始する。

 これが試験だからなのか、向こうは一歩も動かない。


「来ないのか、小僧?」


 それどころか、こちらを挑発してくる。

 その挑発に乗ろうが乗らまいが、こちらから仕掛けなければ一生始まらないのだろう。


 刀を両手で構え、ゆっくりと呼吸を整える。

 焦っても何も良いことはないのでゆっくりと覚悟を決める。


 今までは刀でなく剣で扱いに慣れていなかったのだが、今回使用しているのは刀。

 だから、いつもよりも振りやすさは段違いである。


 今回は一撃を入れれば勝利。そうなると、長期戦になればなるほどこちらが不利になる。

 故にこの勝負は短期決戦。より速く、そして確実に、それだけが今回の勝ち筋だろう。

 道び出した答は――、


 ――天然理心流《電光剣》


 相手の懐にまで一気に飛び込み、そして素早く斬りかかる、今回の勝負に打ってつけの技である。

 そして、今出せる最大の速度で斬りかかった。


 しかし、その刀は届かず、空うち、悠々と避けられる。が、それも想定内。

 それを見越しての二撃目を入れる。その二撃目は喉元に直接斬りかかるように放たれる。

 流石にそれは想定外だったのか、避ける身振りはない。


「なっ!?」


 その刃は一歩手前で届かず、人差し指と中指の二本で挟んで止められる。

 その力は凄まじく、その肉体からは考えられない程の力強さ、そして動かそうにも動けない。


「中々に良い技だな。次は防御の方を見てやる。これを凌げ、小僧」


 ミカボシがそう言えば、空いている手の方を構え、手のひらをこちらに向ける。

 そしてそれを思いっきり、空気を押し出すように俺の腹に向かって叩く。が、それを寸止め。

 一旦は何も起きなかったかと思えば、次の瞬間、その余波が強い衝撃と共にやって来て、後ろの方へと飛んでいった。


 持っている刀を捨て、受け身の態勢を取り、地面に転がる。

 仰向けになり、傷んだ腹を抑える。

 空は青く、最早、立ち上がることさえ難しい。この瞬間に勝負は決しただろう。


「そ、そこまで。これで模擬戦を終了したします。お疲れさまでした」


 受付人は何が何だか、分からず、取り敢えず試験を終わらせる。

 そして、ゆっくりと足音が近づいてくる。


「お前の試験結果を言い渡す。よく聞いとけ。その年齢でそこまで戦えることは評価する。だが、俺に一撃を入れようと焦り過ぎている。そこが治ればマシになるだろう。だから、お前をDランク冒険者としての登録を認める」


 それは願ってもない事だ。これで最初の目標を達成したのだが、腹が痛いせいで喜ぶことが出来ない。

 そして、この状況がなによりも気まずい。


「そして、お前の連れの方もDランクとしての登録を認める。大体の力量は分かるからな」


 しかも続けて朗報。

 これで全員がDランク冒険者として活動することだでき、滑り出しは上々だ。


「次に会う時を楽しみにしてやる。じゃあな、小僧」


 そう言いながら、ミカボシはこの闘技場から去っていく。

 俺はその日は治療に専念し、半日ずっと寝ころんでいた。

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