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今日も護衛の魔術師がかわいい  作者:
二章 地下水道調査
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十六話 冒険者になる(2)

 目の前に広がるは人混み。

 そこには様々な者がいて、剣や杖、盾を持っていたり、屈強な肉体、逆に細々とした者、更には絶望的なファッションセンスの人もいる。

 建物の作りは全体的に木材、そして所々に石などの頑丈な素材で作られている。


 そのまま、受付らしき場所へと真っすぐ歩く。

 俺達がまだ若いせいか、周りからの視線が多く、居心地が悪い。

 折角のファンタジーなのだから、楽しみたいのだが、そういう状況にはなれない。こういうのもファンタジーの醍醐味なのかもしれないが、少なくとも自分には合っていない。

 もっとも、俺がもう少し強ければ変わっていたかもしれないが。


 目の前のカウンター、受付とでも思われる場所に並ぶ。

 その間にも注目はされる。だが、注目はされるも誰も絡んでこようとはしない。こういう時は大体、絡んでくる奴がいるというのが相場だと思っていたのだが、どうやらそんなことはないらしい。

 そうこうしている内に順番が回ってくる。


「次の方どーぞ」


 前に進めば、カウンターに立っていたのは、やる気のなさそうな中年のおじさん。少しベテランそうにも見える。


「今日は何の用ですか?」


「冒険者になりに来ました」


「そうですか。それではこちらに名前と生年月日をよろしくお願いしまーす」


 一枚の用紙とインク付きの羽ペンを一つ机の上に置き、渡される。

 名前と生年月日を書いてほしいと言われているが、明らかに各項目が多く、本当にそれでいいのか不安になる。

 前世で言う詐欺みたいなものではないかと思ってしまう程に。


「こーら。ちゃんとしなさいよ。お客さんの前でそんな怠そーうにしないの!」


 受付人の後方からもう一人の受付人が出てきた。

 年は兄とそう変わらないくらいであり、ツインテールをした若い女性がやる気のない中年のおじさんの行動を指摘した。


「はいはい、分かった」


 だが、それを聞き流すように適当な返事でさっさと終わらす。

 それがいつも通りなのか、女性の受付人はもはや呆れて、ため息を吐いていた。

 そして、やる気のない中年のおじさんをどかし、割り込む。


「うちの職員がごめんなさい。私が代わりに担当いたします。それで、本日はどのような要件で?」


 受付人は机の上に置いてあった羽ペンと用紙を回収し、改めて要望を聞く。


「冒険者になりに来ました」


「冒険者登録ですね。それではお名前と年齢の方をお願いします」


 やはり、名前と生年月日は合っていたらしい。

 先ほどの紙が回収されたあたり、あれは職員が書き込み記録を取る用なのだろう。


「俺はヴァイで、こっちがアス、こっちはクリス」


 最後の一文字を無くしただけという非常に安直な偽名ではあるが、一番混乱しないだろうし、ぼろが出にくいだろうということで皆と話し合った結果こうなった。


「年は十三歳」


 この中でアスラが一番年上なのだが、身長は皆ほぼ一緒。なので、皆の間を取った十三歳という設定。ちなみに俺が十歳でクリスタは十二歳、アスラは十五歳らしい。つまり、俺が一番年下だということだ。


「そうですか。では、続いて魔力の方を測りたいのでこちらの水晶に手をかざしてください」


 そして、一番の懸念がこの魔力測定。

 本来ならば、魔力を偽装してしまうのは違法なのでしてはいけないのだが、今回に限ってはそんなことを気にはしていられない。

 魔力なしと分かってしまえば、冒険者になれない可能性があるのでそれだけは避けたい。ということで魔力を偽装する魔道具を使用している。

 腕輪のアクセサリータイプで見た目だけでは魔道具かどうかは分からないようになっている。

 正直これだけ準備してきて、失敗してしまうのは最悪なので少しばかり緊張してしまう。


「分かりました」


 受付人は机の下から水晶を取り出し、机の上に置く。

 そして、アスラ、クリスタの順に水晶に手をかざし、魔力を測定する。


「っ!? お二人とも魔力量がかなり高いですね」


 水晶に映った数字を見て受付人は呆気に取られていた。

 そこに書かれていたのは二〇〇と四九五。それは一般の平均魔力を優に超えており、クリスタに至ってはもう既に宮廷魔術師級の魔力量を有している。

 そんな二人に囲まれていると少し自分が惨めに思えてしまう。


「では、最後にヴァイさん。どうぞ」


 緊張しつつも、水晶の上にゆっくりと手をかざす。

 次の一瞬で今後の方針が決まる。それほどにこの魔力測定は重要なのだ。


「っ!? ヴァイさんも魔力量がかなり高いのですね」


 水晶に映った数字は三〇〇。この結果には流石の俺も驚いた。

 魔力なしがバレないよにするための魔力偽装なので平均位の魔力量に偽装出来れば上々だったのだが、それがまさかの平均の二〇〇上。

 この数値は偽装したものなのでどういう反応をすればいいのか困ってしまう。


「では、最後に試験官の方と模擬戦をしてもらいます。この試験でFからⅮまでの冒険者ランクが決まります。大抵の方はFランクからですので、そこまで気張らなくても大丈夫です」


 そして、次の模擬戦が今回の一番肝となる部分である。

 ここで出来るだけ上のランクを獲れば、その分仕入れる情報も多くなる。しかも、受けれる依頼の幅が大きくなるので調査もしやすくなる。

 今回のねらい目はEランク。正直FランクとEランクとでは受けれる依頼が非常に大きく異なり、調査のやりやすさも段違い。

 なので、そこを目標にとなぜかアスラが張り切っていた。


「では試験会場にご案内します。こちらについて来てください」


 受付人はカウンターから出てきて、俺らを先導するように歩いていく。

 向かって行くのは、左奥の扉でそこに近づいていくと剣と剣がぶつかり合う音がしてくる。


 扉を開き、そのまま奥へと進んで行く。

 そして、短い廊下を渡ればそこには小さな部屋があり、そこに色んな種類の武器が並べてある。剣や斧、メイス、弓など本当に多種多様な武器が揃えてあり、安全のためか、何れも刃は潰されている。


「それでは好きな武器をここから選んでください。原則、自前の武器の使用はお控えください。私は試験官を呼びに行きますのでこちらでお待ちください」


 そう言って受付人はこの場を去っていく。


 今まで剣以外の武器は扱ったことがないので剣を選ぶのが一番無難なのだろう。

 なので、剣の置いてある場所の前に立ち、そこに置いてある剣を一つずつ手に持ってみる。最近は体力が付いてきたとは言え、それでもまだ前世の自分には遠く及ばない。


 そして迷っている所にあるものに目を付けた。

 それは懐かしく、最後に触ったのはいつなのかも正直曖昧なくらいに。

 手にすれば、自然と馴染み、少し振ってみても違和感を何も感じない。

 前世で何度も目にし、数度だけ触らせてもらったもの。日本の伝統の武器とも言える刀であった。


「変な武器を選ぶのね」


「なっ! 別に変な武器ではないだろ」


 この世界であまり刀は浸透していない。それは扱いが難しく、力任せに振っては斬れるものも斬れない。必然的に使い手が少数であまり人気のない武器なのである。

 だから、アスラが言うことももっともではある。


「まあ、ヴァイス様が何を使っていようと勝手ですが、目的は忘れないでくださいね」


 当初の目的はEランクで合格すること。なので、使い慣れていない武器で大丈夫なのか、と問いたいのだろう。

 確かにこの世界では一度も刀は使ったことがないが、前世では嫌と言うほどに使ってきたので大丈夫だろう。それどころか、剣よりも扱える自信まである。


 こうして、各々、自分に合う武器を選んだ。

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