表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

79/86

コタロウの寝息、ゆずのしっぽ

全身が軋む。脚が言うことをきかない。

汗で冷えたシャツの感触が、肌にじわりと貼りついている。


コーチにしごかれた午後。

坂ダッシュ、腕立て、補強メニュー。

立ち上がれないほどの疲労に、

夕食も摂らず、早矢はベッドに沈みこんだ。


その夜、夢の中――

懐かしい草の匂い、やわらかな風。

どこかで見たことのある草原を、

一匹の老犬が歩いていた。


「……コタロウ?」


後ろ脚はもう弱く、前脚だけで、地面をゆっくりかいている。

でも、その姿には何か確かな意志があった。


「まだ……歩くの?」


老犬は、早矢に背を向けたまま、言った。


『おまえ、走ったんだろ。今日も。限界まで。』


「うん。正直、倒れるかと思った」


『でもさ――走るんだろ? 明日も』


「……たぶん、うん。だって……止まれないから」


コタロウはゆっくり振り返った。

濁った瞳の奥に、微笑むような光が揺れる。


『昔さ……覚えてるか?』


早矢の視界に、別の情景がにじむ。

夢の草原の奥で、ひとつの記憶が静かに広がっていく。



あの朝も、まだ空が青くなる前だった。


玄関には、眠そうに丸まるコタロウ。

起こすのはやめた。でも――


「今日も、行くかもしれないからね」


そう言って、いつも通りにハーネスをつけて、靴を履かせて。

それが早矢の役目だった。


眠ったままのコタロウをそっと撫で、

早矢はひとり、外に出た。


坂のあるあの道も、踏切の横のカーブも、

全部、コタロウと歩いた場所。


「今日は、あたしが見てくるね」

そう呟いて、重い脚で走り出したあの朝――

コタロウは、家の窓から、

静かに早矢を見送っていた。



夢の草原に戻る。

老犬のコタロウは、もう一度うなずいた。


『おまえ、変わらないな。

誰かの分まで走るクセ、ずっと持ってる』


早矢は目を伏せたまま、笑った。


「ううん……今は、自分のために走りたいの。

でも、自分の中には……あんたも、いるから」


コタロウは、何も言わずに前を向いた。


『なら、いいさ。俺は安心して寝てられる』


「寝てていいよ。

でも、たまには夢に出てきてね」


草原の風が吹く。


目が覚めた時、

早矢の脚はまだ痛んでいた。

でも、呼吸は不思議と軽かった。


窓の外で朝が始まる。

そして今日も、脚の奥がうずいている。


「おはよう、コタロウ。

今日は、あたしが先に行くね」


玄関では、今の相棒――

柴犬のゆずが、しっぽを振りながら待っていた。


※この物語は、実際に私が暮らす犬たちとの日々から着想を得て、

ChatGPTの支援を受けながら表現したフィクションです。

思春期の揺らぎと、命の温もりが、誰かの心にも届きますように。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ