その夜、折れたのはチョークだけだったか?
夜。
真帆の部屋には月明かりと、静かな執着があった。
机の引き出しをそっと開ける。
そこには、昼間の授業でこっそりもらってきた白いチョークが2本、きちんと並べられていた。
素材は石膏ではなく、粉が舞いにくい特殊配合。
しっとりとした質感で、手を汚さず、優しい触り心地。
なめらかな書き味と、高い耐久性――まさに、選ばれし教具。
「……摩耗しにくいって、こういうことなのね……」
真帆は1本をそっと取り出し、指先で何度も撫でる。
さらさらしていて、それでいて吸い付くような肌触り。
まるで生き物のように、手の中に温もりが宿っていた。
もう1本も取り出す。
縦に並べて長さを比べ、横にして太さを確認し、指でなぞる。
まるで誰かの身体を確かめるような手つきで――。
そのとき。
ポキン。
「……っ!」
小さな音とともに、手元のチョークが折れた。
そして場面は変わって、凌の部屋。
ソファでスマホをいじっていた彼は、何の前触れもなく。
「うっ……!?」
股間に突き刺さるような謎の痛み。
「な、なんだ……俺、いま何もしてないのに……!」
その痛みは一瞬だったが、妙に“折れた”ような感覚が残った。
彼は、天井を見上げながらつぶやいた。
「……まさか、真帆……?」
脳裏に浮かぶのは、昼の教室でチョークに異様な情熱を注いでいた才女の姿。
再び、真帆の部屋。
真っ二つになったチョークを手のひらに包み込み、彼女は静かに目を閉じる。
「……ごめん。でも、ちゃんと愛してたのよ……」
指先に残った白い粉は、ほんの少しだけ、あたたかかった。




