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『わたしの身体は、バラエティじゃない 』 喫茶店にて、女子三人の沈黙と激論(続)

 笑いのあと、また少し、言葉が途切れた。


 外は曇り空。窓際の席に座る3人は、それぞれの飲み物に指を沿わせながら、考えていた。


「……あたしさ、昔ちょっとだけ、動画上げてたことあるんだよね」

 と真帆がぽつりと言った。


「お弁当とか、ちょっとだけ手の込んだ朝食とか、写真撮って。『細いのにちゃんと食べてて偉い!』とか、『女子力高い!』って言われるのが気持ちよくて……」


「でも、あるとき気づいちゃったの」


「“これ、ほんとは自分のために作ってない”って。

 他人の“称賛”のために、食べてるフリをしてただけなんだって」




 早矢が、そっと真帆の方を見た。


「……そういうの、きつかったろ」


「うん。でも、フォロワーが増えるとやめられなくて……。

 でも今は、そよ風(※袖山そのか)とおにぎり食べる方が、何倍も心が満たされる」




「私は、逆だったかも」

 と澪が静かに続ける。


「“見せないこと”にこだわりすぎて、

 誰にも知られないように、ただ空腹を埋めるだけの食事ばっかりしてた時期があった」


「誰かに見せるのが怖かった。

 “女ががっつり食べるのって引かれる”って、どっかで思ってた。

 でもそれ、他人が勝手に決めた“私の身体”だったんだよね」




 真帆が小さく頷いた。


「私たち、どこかで“自分の身体が誰かのもの”だって思い込まされてたのかもね」




 早矢がストローをくるくる回しながら言う。


「誰かに見せるための身体じゃなくて、自分が生きるための身体。

 それを作るのが“食べる”ってことなんだよな、やっぱ」


「激辛とか大食いとかで、“命の入口”を笑いものにしてるようなの、

 あたし、ほんとにイヤなんだ」


「だってそれ、食べてる自分の身体にも、作った人の気持ちにも、全部失礼じゃん」




 ふと、テレビから別の企画の予告が流れた。


 “激辛ラーメンを完食しないと帰れません!”

 “女優●●、涙の爆食チャレンジ!”




 3人の手が止まる。


 その沈黙の中で、真帆が言った。


「“見ててスカッとする”って感想、コメントにいっぱいあるよね。

 でも、誰かが身体を痛めつけるのを見てスッキリするって……なんか、おかしくない?」


「うん。ほんとは“見せる”よりも、“生きる”方がずっと大事なのに」

 澪が応える。


「なのに、生きることって“地味すぎて映えない”って思われてる。

 でも、わたしたちは、ちゃんと――食べて、生きてるのにね」




 カップの中のココアは、すっかり冷めていた。


 でも、3人の胸の中には、さっきよりも温かい何かがあった。




 そしてその日、真帆は帰宅してからひとつだけ動画をアップした。


 映えるスイーツも、盛り付けたプレートもない。


 ただ、白いご飯に焼き鮭と味噌汁、それだけの食卓。


「きょうは、私が食べたいものを、食べました。

 自分の身体を、自分のものとして、大切にしたくて」


 数時間後、動画には静かな“いいね”が並んでいた。



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