『わたしの身体は、バラエティじゃない』 喫茶店にて、女子三人の沈黙と激論
日曜の午後、駅前の喫茶店。
カフェラテの泡にスプーンを落としながら、真帆が口火を切った。
「ねえ、ああいうのって、どう思う?」
カウンターのテレビには、“激辛麻婆豆腐チャレンジ”で顔を真っ赤にしながら汗だくで悶える芸人の姿。
真帆が眉をひそめた。
「なんか、食べるって“生きること”なのに、それを痛みとか苦しさに変えて見せるのって、ちょっと……乱暴じゃない?」
「……わかる」と早矢が低くうなずく。
「苦しむために食うって、あたしには無理。
食べるのって、“身体をつくること”だろ?
痛めつけるための道具にするって、自分の身体に嘘ついてる気がする」
澪はストローを止めたまま、しばらく黙っていた。
やがて、ポツリと言った。
「昔は好きだった。
“根性見せろ”って言われて、激辛でも全部飲み干せば、拍手もらえる。
達成感も、あった」
「でもさ――あれって、ほんとに自分のためだったのかな。
今思うと、“見せもの”になってただけかも」
真帆がうなずく。
「なんか、“命がけ”って言葉が、軽くなってる気がする。
それって本来、もっと“誰かを守るため”とか“自分の人生の選択の結果”じゃない?」
「それを、“おもしろい”ってだけで消費してる感じ。
しかも“女子が激辛に挑む”とか、“細いのに爆食い”とかでバズるの、ちょっと……」
「……見世物小屋と変わんないよね」
早矢の声は低かった。
「追い込むこと自体が悪いんじゃない。
でも“追い込み方”に、ちゃんと意味と尊厳があるかって、大事だと思う」
3人の間に、ふっと沈黙が落ちた。
誰も飲み物に手をつけないまま、それぞれの“生きている身体”を見つめていた。
やがて、真帆がふっと笑った。
「……でもさ、早矢のあの真っ黒い弁当、あれはあれで自傷系だったよね?」
「焦げは味だっつってんだろ」
笑い声が、喫茶店の片隅に小さく響いた。
身体を削らないということ。
食べることを、大事にするということ。
それは、日常の中で何度も問い直される。
でもこうして――言葉にしあえる友達がいるなら、
きっと、私たちはちゃんと生きていける。




