『鉄と木は、同じ家を支える。―剣道双生譚―』
玲央のモノローグ
玲央です。澪と双子です。
姉はいつも、ISOとかJISとか――そんな言葉ばかり口にしています。
正直、最初は意味もわからず「なんでそこまで?」って思ってたんです。
でも、不思議ですね。姉のそういう一途さに引っ張られるように、
私もいつのまにか、建築という世界に興味を持つようになっていました。
あるとき、木材にふれたんです。
触れて、香って、使われていくうちに、気づいたことがありました。
ああ、私って、なんだか木材みたいだなって。
硬すぎず、でも芯があって。
時にはしなるけど、折れない。
誰かの形にあわせて、寄り添うように生きることが、
私には向いている気がするんです。
……でも、澪は違います。
双子だけど、その“芯の材質”は、まったく別。
あの子には、鉄のような意志があります。
冷たくて、重くて、でも信頼できる――
揺るがない構造材みたいな。
私は、たぶん誰かに“固定”されて初めて、ちゃんと形になる。
澪は、自分自身が“構造”そのものになれる人。
そんなふうに思うんです。
だから私は、木材であることを誇りに思います。
しなやかに、あたたかく。
そして、鉄のような姉と一緒に――
支え合うことで、どんな家よりも強くなれる気がするんです。
澪のモノローグ
澪です。玲央とは双子だけど、あいつの考えてることは、いまだによくわからない。
いや――正確には、わかりたくなるから困るって話かもしれない。
私は昔から、考え方が“構造”っぽいってよく言われる。
何をするにもまず基準を調べるし、ルールがなければ落ち着かない。
安心って、そういうもんだと思ってた。
数字や規格で証明される強さ。
曲がらず、折れず、支えられること――それが、私にとっての「正解」だった。
……でも、玲央は違う。
あいつは、木みたいなやつだ。
手を伸ばせば、ふわっと受け止める柔らかさがある。
言葉も空気も、ちゃんと吸って、自分の中で調湿する。
私みたいに硬くて重たい材質じゃない。
でもな、不思議なんだ。
そのくせ、芯の通った強さがある。
誰にでも合わせてるように見えて、
一番大事なとこは、絶対に削れない――
あいつの“節”は、きっと誰にも触れられない場所にあるんだと思う。
私には、それができない。
私は“固定する”ために生まれた鉄。
正しさを求めすぎて、どこか不器用で、
誰かの揺れを受け止めるほどの柔らかさがない。
だから――
木材である玲央が、うらやましいときがある。
でもな、だからこそ。
私は鉄でありたい。
揺れるものを支える存在でいたい。
折れそうな誰かを、ちゃんと「留められる」人間でありたいんだ。
玲央。
お前が、あの木の匂いのままでいてくれるなら――
私は、この無骨な鉄のまま、お前の構造を、支え続ける。
双子試合「構造試験、開始」
合宿最終日。
剣道場の空気は、湿った板張りの匂いと、ふたつの呼吸で満たされていた。
「始め!」
パシン――!
最初に動いたのは玲央。軽い踏み込み。
でも、澪は動かない。微動だにしない構え。
(やっぱ、動かないな……)
玲央は打ち込まず、流すように間合いを切った。
一拍置いて、返すように澪が前に出る。
ズンッ――
重い足音。地響きのような気配。
その瞬間、玲央が風のように横へ避ける。
竹刀が交差する、空の音。
(――しならせて、止める)
玲央は思う。次の瞬間、間合いを詰めた。
澪の構えを崩すため、しなる一撃を放つ。
パァン――!!
打ち込んだ。
だが、その先で――
ギィィ……ッ!
澪の竹刀が、受け止めていた。
打たれたのに、崩れていない。
軋むような金属音のように、竹刀と竹刀がぶつかって震えている。
(なんで……崩れないの…?)
玲央の目が、揺れた。
その一瞬を、澪は逃さなかった。
「メェェン!!」
澪の一撃が、真っ直ぐに、玲央の面へと届いた。
試合、終了。
静寂。
どちらも竹刀を構えたまま、しばらく動けなかった。
「……やっぱ、鉄だよ。姉ちゃん。」
玲央がふっと笑う。
「……しなやかすぎて、捉えきれなかったよ。」
澪は目を伏せて、一言だけ返した。
「でも、お前の流れがなきゃ、私の剣は動かなかった。」
そしてふたり、
木と鉄で、ひとつの構造になったように、道場の床に影を重ねた。




