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フェロモンの交差点

 Scene:朝、校門前。

「はぁ……全然寝た気しねぇ……」


 凌は寝不足の目をこすりながら、校門をくぐった。

 昨夜の“事故”と、“夢”の残り香がまだどこか体にまとわりついている気がする。


(……ってか、洗濯間に合わなかったから昨日のTシャツ……)


 制服の下に着たインナーには、自分の汗と自己主張のあとの微かなにおいが、ほんのりと――


(……うわ、考えんな俺!バカか!)




 一方その頃――


「ふぅ……」


 早矢も、教室へ向かう廊下で、小さく息を吐いていた。


(やっぱ走ったあと、ちょっと残るな……)


 風呂に入らず寝たから、朝練の汗と混じって、どこか酸っぱい、けどちょっと鉄っぽいような匂いがスラックスの内側にこもっている。


(……まあ、いいか。強くなるって、こういうことだし)




 そんな2人が――


 廊下の角で、ばったり出くわした。




「おっ……は、早矢」


「おはよ、凌」


 ふわっと、すれ違う瞬間――

 お互いの“におい”が、空気の中で交差した。


 汗、体温、そして――昨日の名残。




(……え?なんか今、早矢から……)


(……ん?凌の服、なんか……甘くて、ちょっと……)


 一瞬、視線がぶつかる。


 だが、すぐにお互い、目をそらした。


「……な、なんか、今日ちょっと、汗くさ……いや、いやいや、お互い様だよな!!」


「うん。……まあ、あんたはいつも犬みたいに嗅いでるけど」


「うるせぇ!」


 照れ隠しで言い返すが、内心はドキドキだった。




(……なにこの空気……変に、意識する……)


(……あいつ、気づいた?……まさか、夢で何か……)




 お互い、“自分のにおい”を気にしてるはずなのに、

 なぜか相手のにおいの方が、ずっと気になって仕方なかった。






 Scene:部室前ベンチ

 始業前の部活時間。


 真帆がバタバタと走ってきた。


「はーい!おはようございまーす!」


 その手には、ビニール袋。


「ジャジャーン!今日の練習後用!バターの香りたっぷり、手作りバターロール~♪」


「……朝から元気すぎんだろ」


「はやぴーの分もあるからね!」


 真帆がトートから取り出したロールパンは、ほんのりと温かく、

 焼きたてのバターと小麦の香りが、ふわりと空気を包んだ。


「……うわ、なにこのにおい……ヤバ、めっちゃいい匂い……」


 凌の腹がぐぅ、と鳴る。


 すると、早矢がぽつりと一言。


「……なんか、いろんな“におい”が混ざってる朝だね」


「は?」


「汗とバターと、昨日の夜と、……なんか全部」


 そう呟いて、目を細める早矢。


 凌は思った。


(……こいつ、絶対気づいてる)






 Scene:放課後のモノローグ

 誰かが発した言葉じゃなく、

 ふとすれ違ったときに感じたにおいに――


 何か大切なものが、宿ってることってある。




 汗、バター、鉄のにおい。

 そのどれもが、“生きてる証拠”みたいに漂っていて――


 お互い、まだ名前をつけられない感情が、

 ゆっくりと空気の中で発酵していく。


 そして今日もまた、

 においで“想い”が伝わってしまう――

 そんな思春期の1ページが、そっと綴られていく。


 

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