震える芯に、声が届いた ~陸上部臨時コーチ桐谷獅真×佐々木早矢 魂の疾走~③
―第三章:痛みを愛すること―
わたしは、強いと言われてきた。
大会の表彰台に立ち、
腹筋が割れていると褒められ、
大蛇のような上腕を見て「さすがだね」と口々に言われる。
でも――
ほんとうは、ちがった。
本当のわたしは、
強くなければ、誰にも触れてもらえない気がしていた。
弱さを見せた瞬間、
見捨てられる。
置いていかれる。
そんな恐怖がずっと、わたしの背中に銃口が突き付けられたように貼りついていた。
だから、走った。
だから、鍛えた。
ただただ、強くなりたかった。
でも。
あの声を浴びせられたとき――
「限界まで走れ」と命じられたあの瞬間、
わたしの内臓の奥が、ひどく震えた。
筋肉が裂ける感覚とも、
肺が焼ける苦しみとも違った。
もっとずっと、深いところ。
子どものころに押し殺した声が、
そこから再び、じわりとにじみ出すように。
苦しいのか、嬉しいのか。
その震えは、何度感じても、判別できなかった。
けれど確かに、
それこそが、生きている感覚だった。
今なら――言える。
わたしはたぶん、
叱られるのが、好きだった。
否定されて、追い詰められて、
地べたに膝をついて、
それでもなお立ち上がり、「よし」と言われる――
その一瞬のために、すべてを投げ出せた。
変かもしれない。
でも、それがわたしだ。
強さとは――
きっと、痛みを愛することなのだと思う。
痛みを拒まないこと。
疼きを受け入れること。
だから、もう隠さない。
わたしは、
痛みの中で、生きていたい。
それが、わたしの“よろこび”だから。




