震える芯に、声が届いた ~陸上部臨時コーチ桐谷獅真×佐々木早矢 魂の疾走~②
―第二章:鍛錬、それは―
「腕を下げるな。お前の肘は甘い」
「そんな脚では、明日には潰れる」
そのたびに、皮膚の裏側が――じり……と焼けた。
感じているのは皮膚じゃない。
筋肉でもない。
臓器の裏側。
神経の、根。
そこが、鋭く熱く、焦げていくようだった。
桐谷コーチの抑揚のないその言葉が、わたしの神経の一点を正確に撃ち抜いてくる。
まるで、わたしの“身体の設計図”をすべて知っているかのように。
わたしの肉体に一切触れずに――骨の芯を、支配する。
「もう一本、全力で走れ」
背筋の奥、背骨の内側。
そのあたりが、ぞわりと震えた。
その振動に合わせて、汗が流れ落ちる。
自律神経が、言葉に反応していた――
そう気づいたとき、わたしは、自分の意志が誰かの声に“重なる”感覚を覚えた。
(おかしい……)
速いはずだった。強いはずだった。
誰よりも走って、鍛えて、戦ってきたはずだったのに。
なのに。
怒られるたびに、罵られるたびに、
わたしの内臓の奥が、じんわりと熱を帯びていく。
(……なに、これ)
わかってる。屈辱だ。
だけど、その震えが――
苦しみの形をした快楽に変わる瞬間があって。
脳が、追いつかない。
「黙って走れ、佐々木。お前の言い訳はいらない」
言葉の刃が、わたしの中の“なにか”を、
砕いた。
いや、違う。
それは――跪いたのだ。
“陸上の女王”?
“鋼鉄乙女”?
そんな称号なんてどうでもよかった。
桐谷コーチの声が、わたしを締めつけていく。
走る。
叫ぶ。
服従する。
そして、生きている。
“鍛錬”とは――
わたしにとって、それはもう“よろこび”だった。




