文化祭スピーチ「眠れぬ夜 気象通報が教えてくれたこと」
文化祭ステージスピーチ
『眠れぬ夜 気象通報が教えてくれたこと』
三ツ石真帆(3年 吹奏楽部)
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みなさん、こんにちは。
三ツ石真帆です。今日は、音楽と、科学と、ちょっとした恥ずかしさについて、私なりに語ります。
私、中学1年生のころ、よく眠れない夜がありました。
明日のこと、過去のこと、自分のこと、人のこと。
不安がぐるぐるして眠れないとき、私の枕元にあったのは――NHKラジオ第2の気象通報※でした。
夜の10時、静かなイントロのあとに、低い、穏やかな声が流れてきます。
私の脳内では、なぜかいつも堺正幸さんの声で再生されていました。
(※ご存じない方、ごめんなさい。平成初期の渋い声の名人です。)
そして、その声が読み上げるんです。
「アリューシャン海峡の東70キロに低気圧――」
……(カッコよすぎますよね?)
続いて、「渤海では、気圧の谷が停滞」
……(響きがなんかこう、濃密で、ひとりで赤面してました)
極めつけは、
「父島では、高気圧のへりがかかっています」
……わかります? “父”と“島”ですよ?
赤面の理由は、想像にお任せします。
でも、そんなふうに、
見たこともない地名と響きにドキドキしながら、
私は天気図を描き始めました。
長谷川先生が、私に一枚の天気図用紙をくれたんです。
「描いてみると、世界の動きがわかるかもよ」って。
最初はただの線。でも、だんだんわかってきました。
空気が、風が、雲が、海が、つながっていること。
日本も、中国も、アリューシャンも、父島も。
全部、空で、つながっている。
私が出会った、気象の絶対真理。
それは、
「等圧線は、枝分かれしない」ということ。
ぐねぐね曲がっていても、波打っていても、
ひとつの気圧は、ひとつのまま。
どんなに遠く離れても、同じ空の下で、必ずつながっている。
そして、どんなに雨嵐吹き荒ぶ夜でも、必ず止み、晴れる日が来るということ。
それは、私たちの心にも似ていると思いました。
だから私は、
不安な夜に、トランペットに息を吹き込みました。
その音が震わせた空気が、もしかしたら今、
世界のどこかで、嵐を起こしているかもしれない。
……それって、ちょっと壮大すぎるって笑われるかもしれません。
でも、音楽って、
空気を震わせて、世界をつなぐものだから。
今日、私は吹きます。
思春期と、気象通報と、父島の赤面を乗り越えて。
空に向かって。
風のように。
私の音が、誰かに届くことを願って。
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【演奏へ続く――曲名:『別れの日の理科年表1993』】
【気象通報とは?】
気象通報は、NHKラジオ第2放送で流れる「天気図作成のためのデータ音声放送」。
日本周辺や世界の気圧・風・天気を、専門的な地名と数値で淡々と伝える。
昔は1日3回(朝・夕・夜)放送されていたが、現在は16時のみ。
中学生や気象ファンの中には、これを聴きながら天気図を手描きしていた人も。
地名の響きや専門的な語句が、独特のリズムと詩情を持ち、
中には“アリューシャン海峡”“渤海”“父島”などで赤面してしまう青春感性の持ち主も存在する。




