謎の鉄骨屋根物語その2 ~水の中で、何かが目覚めた~
10キロランの時点で、凌の脚はすでに限界を超えていた。
膝は笑い、視界は揺れ、そして鼻は――機能停止。
「くっ…嗅げない…においが…!」
もうろうとしながら到着した市民プール。
「さ、次はスイムね。シャワー浴びて、着替えてきて」
早矢がタオルをくるりと肩にかけ、軽やかに更衣室へ向かう。
凌もふらつきながら男子更衣室へ。
(水泳なんて…中一以来かも…)
ふらふらとプールサイドに出ると、向こうのレーンに、彼女がいた。
佐々木早矢――競泳水着バージョン、初お披露目。
濃紺のシンプルな水着に、引き締まった肩、肩甲骨、そして腹筋が浮かび上がる。
いつものジャージ越しとは違う、むき出しの「筋肉の存在感」。
髪はタオルドライしただけで、うなじが濡れて光っている。
「凌、行くよ!」
そう言って飛び込んだ早矢のフォームは、水を割るように美しく、そして…香った。
凌の鼻がぴくり、と反応する。
(いま…確かに…)
水の中に漂う、塩素とは違う…汗とも違う…
「頑張った身体」の匂いが、かすかに届いた気がした。
(鼻が…再起動…した…!)
「はい、サボってないで来る!」
ばっしゃーん!!
無慈悲に水がかかる。
凌はバタ足で必死に食らいつきながら、頭の中はもう大混乱だった。
(競泳水着って、こんなに破壊力あるんだっけ!?)
(やばい、においとか、体の一部とか、また…)
(沈む!!俺、いまガチで沈む!!)
「おーい、浮いてー!」
早矢が戻ってきて、ぷかぷか浮く凌の腕を掴む。
「大丈夫?沈んだら私が“水中筋トレ”で助けるから」
「う、うん…それって、どんな…トレーニング…?」
「私の脚で挟んで水中で持ち上げてあげる」
「(天国と地獄が一緒に来た…!)」
――こうして、水中でも“匂い”と“愛”に揺さぶられる変態犬・凌は、
新たなフェーズへ突入したのであった。
ーーー
「だーかーら、バタ足が甘いの!」
再び水中に引き戻された凌。
早矢のトライアスロン・スイム編は、思った以上にスパルタだった。
(ちょっと待って…!俺もう限界…!酸素も理性も足りない!!)
それでも頑張る凌に、早矢は言った。
「はい、じゃあ次は――“水中浮遊筋トレ”。」
「ふ…浮遊…?」
「私の太ももで、凌の胴を挟んで…水中で浮かせてみる」
「はっ…?」
気づいた時には、水中でがっしりと早矢の太ももが凌の体幹を挟んでいた。
水の中でも伝わってくる筋肉の硬さ。太ももの圧迫感。
水中とはいえ、柔らかさと締めつけの“二重奏”。
(は…はさんでる…!俺、今…はさまれてるぅぅぅ!!)
そして次の瞬間、予想外の事態が。
自己主張。
水中で浮力と圧力のバランスが崩れ、
“とある部位”が抗議のように、ぐぐっと前に出た。
(やばい…!これ以上動いたら…見えるっ…!!)
「…凌?顔、赤いよ?苦しい?」
「だ、大丈夫…でも、ちょっと…上がれないかも…」
「え?筋肉つった?」
「……いや、違う意味で、今はちょっと…無理…」
「??」
そんな早矢の疑問に答えぬまま、凌は水面に漂いながら、
“冷水”と“羞恥”で己を落ち着ける戦いに入った。
(お願いだ、鎮まってくれ…!俺の中の変態魂…!)
ようやく落ち着いたころには、
他の利用者がプールに現れ始め、しれっとコースから逃げるように退散した。
その背中を見送りながら、早矢はポツリと。
「ふふ、変な凌。…でも、ちょっと、楽しそうだったね?」
(た、楽しそう…じゃない…よ…)
――水中に封じ込めた“自己主張”。
思春期男子の戦いは、まだまだ続く――!




