謎の鉄骨屋根(意味深)物語その1 〜俺、雨宿りしてただけなのに〜
「うわ、やべ…傘忘れた…」
梅雨の空が本気を出した放課後。下校しようと昇降口に立った凌は、雨脚にすっかり足を止めていた。
そこへ、凛と響くあの声。
「…もしよかったら。私の“鉄骨屋根”(意味深)に入って、雨宿りしない?」
ふり返ると、ジャージ姿の澪。濡れるのも気にせず、バールを片手に立っている。
「て、鉄骨屋根!? え、いいの!?」
(これは、もしや…澪の“体”のこと!? ほら、見上げると筋肉でできた屋根とか…腹筋傘とか…)
期待とともに、ドキドキが急上昇。鼻がフレアし、脳がフェロモン警戒態勢に入る。
しかし着いた先は、なんの変哲もない物置小屋。
「ここ、私の自主トレ基地。雨の日はここで“鍛える”の。」
「え? 雨宿りじゃなくて?」
「ほら、どうせ濡れたなら“追い込み”でしょ。濡れた体を絞り上げるのが、またイイんだよ。」
「え、いや、俺まだ心の準備が…」
「つべこべ言うな。はい、今日のメニューは“バール一本筋トレ”。」
どん、と差し出されるのは、やたら重そうな「37炭素鋼平バール」。
「何このサバイバル道具!?」
「これで全身いけるよ。持ち上げてスクワット。担いでランジ。握って前腕強化。振り回して体幹。踏み台にしてジャンプも。…つまり、私の“鉄骨屋根”ってのは、この筋肉で構築された精神と肉体の鍛錬場って意味。」
「うわぁぁああああ、俺、ただ傘忘れただけなのにぃぃ!」
「さ、雨がやむまで、無限サーキットいくよ。」
「ぬれた体が、乾かないどころか、汗でびちょびちょになるぅぅう!」
《凌・トレーニングという名の雨宿り地獄へようこそ》
ーーー
鉄骨筋トレルームから解放された凌は、髪もシャツもびしょびしょ、脚はガクガク、鼻も疲れ切って嗅覚ダウン。
「おれ…生きて帰れた…んだな…」
力なく歩き出し、校門を抜けたそのとき。
「…凌?」
ハッとして顔を上げると、そこには――早矢。
いつものトレーニングウェア姿、タオルを首に巻いて、キラリと光る瞳で仁王立ち。
「さっき澪といたって、ホント?」
「へ?あ、うん…ちょっと雨宿りというか…鉄骨というか…(目が泳ぐ)」
「ふーん…あの筋肉デストロイヤーと、二人きり?」
「いや違う!決してやましいことは!バール一本で筋トレを…!」
「……それ、言い訳になってないから。」
ピキッと眉が上がる。
「……まあいいや。雨も上がったし、トライアスロンコースの下見、行こっか。」
「えっ!? 今!?」
「うん、10キロラン→2キロスイム。あんた、さっきまで筋トレしてたんでしょ? じゃあ、ちょうどいい“追い込み”だね。」
「お、俺もう限界なんですけど…!」
「限界の先に“本当の自分”がいるんだよ。」
「どっかで聞いたことあるようなセリフぅぅぅ!」
「走れ、変態犬。あんたの“嗅覚”で、コースの匂い嗅ぎ分けて案内してよ。」
「俺、鼻死んでるぅぅぅぅ!」
こうして、変態犬・滝川凌の地獄のアフターフォロー嫉妬トライアスロンがスタートしたのであった。
妄想だけじゃ青春は語れない。早矢の嫉妬は、筋肉仕立ての愛情表現。
「10キロラン→2キロスイム」は彼女にとっての“スパルタラブコール”。
澪と過ごした雨の午後の“筋肉屋根”は甘く(?)、
早矢と駆けたトライアスロンの夕焼けは、切なく苦しい――
でも、どっちも生きてる証。
青春は、体力と妄想でできている。




