表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/86

特注「37炭素鋼平バール」とは

「え、澪先輩って、あれ竹刀じゃないんですか……?」


 驚愕する凌の視線の先で、澪はいつものように道場の隅で静かに素振りを繰り返していた。


 キィン。キィンッ。

 風を切るたび、ほんのかすかに金属音がする。


「アレはね、炭素鋼製の特注品。“37炭素鋼平バール”。」

 部長が呆れたように言う。「普通の女子中学生が使うものじゃないよ、あんなの」


 竹刀規格「37」にちなんだ114cmの長さはそのままに、重さはなんと3.7キログラム。

 竹のしなやかさなんてない。代わりに圧倒的な殺意と、前腕筋が育つだけ。


「小手打ち、されると骨ごと逝くって噂っすよ……」


「てか、重すぎて“打たなくても圧で勝てる”レベルじゃね?」


 凌は、息を呑んだ。


 そんなものを軽々と振るいながら、汗ひとつかかず、凛と立つ澪。

 竹刀ではなく、“鍛錬具”という名の鈍器。

 いや、これはもう――


「武器じゃん……」


 その瞬間、澪がこちらをチラリと見る。

 口元がほんのり上がる。


「……見たい?持ってみる?」


 差し出された“37炭素鋼平バール”。


 受け取った凌は、肘が抜けそうになった。


「ッッッ重ッッッ!!!」

 腕をプルプルさせながら、ぎりぎりで持ちこたえる凌。


 澪は満足げに頷いた。


「その重さが、私の“心の負荷”と比例してるの。毎日を鍛えてるんだよ、私は。」


 ――嗚呼。鋼鉄乙女は、竹刀の重さで人生を語る。


(嗅ぎたい、じゃなかった、抱かれたい)

 凌の心が、ちょっとだけ傾いた瞬間だった。

 凌の心が、ちょっとだけ傾いた――


 いや、正直に言えば、抱かれたい、と思ってしまったその瞬間。


「……今、なんか言った?」


 ぴくりと動いた澪の眉。


「あ、いや!いやいやいやいや、言ってない言ってない!“竹刀すごいっすね~”って感心してただけで……」


 凌の言い訳は、最後まで言い終わらなかった。


「じゃあ、いいよ。」


 その一言とともに、背後から澪の逞しい腕がするりと凌の首に巻きついた。

 ――まるで、筋肉でできたボア・コンストリクター。


「ッ、え、ちょ、え、ちょ、ちょっと、澪さ――!」


「“抱かれたい”んでしょ?遠慮すんなって。」


 ぐぐっ……!


 冗談じゃない強さで、澪の腕が締まる。

 鉄パイプのような二の腕が、首に食い込む。


「ひぃぃぃぃぃぃいッ!! あ、謝罪します!ちがっ、比喩だったの、メタファーッ!!」


「へぇ、匂いマイスターにも、息ができないことあるんだねぇ」


 真顔でとどめの一絞め。


 数秒後――


 床の上で脱力して転がる凌と、その隣に“37炭素鋼平バール”を構えたまま汗ひとつかいていない澪の姿があった。


 遠くの空に、トンビがひと鳴きした。


 ■ 東雲 しののめ・みお

「防具の中は、乙女の香り?筋肉の中に秘めたるは、必殺の絞め技!」


 剣道部所属。“37炭素鋼平バール”での素振りを日課とする、

 強くてカッコいいのに、実は恥じらい乙女なギャップモンスター。


 道場では無双のサムライ。

 だが、ひとたび防具を外せば、ピンクの小物を集めるロマンチスト。


 においマイスター凌を変態認定し、竹刀で滅多打ちしたかと思えば、

「ちょっと気になったんだけど。私の匂い、どうだった?」と

 爆弾発言をさらりと放つ天然爆裂ガール。


 とどめは――


「抱かれたい」と心の声を漏らした凌に対し、

 筋肉で絞め落とすという新時代の恋愛表現を披露。


「私の腕、ヘビだから。鋼鉄種だけどね。」


 その笑顔に、今日も誰かが窒息する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ