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放課後、袴の内に残る痛み

 放課後の廊下。

 雨の音が遠くに響いている。校庭は使えず、陸上部は黙々と校舎内を走っていた。


 水分補給のため、壁際に立ち止まった凌は、ふと視界の端に見覚えのある姿を見つける。


 道着と袴姿の澪がゆっくり歩いていた。

 よく見ると、いつものキビキビした歩き方ではなく、どこか足をかばっているようにも見える。


(ん?)


「澪先輩、どうしたんですか?」


 声をかけると、澪は立ち止まってこちらをちらりと見た。

 少しだけ、表情がゆるんだようにも見えた。


「後輩に胴、打ち損ねられてさ。

 ちょっと変なとこに当たっちゃって。」


 そう言いながら、袴のすそをちょいっと持ち上げる。


 一瞬だけ見えたのは、外側の太ももに広がる、濃い赤紫のあざ。

 皮膚の中で滲んだような痛々しさがある。

 凌はドキッとして、思わず視線をそらした。


「……って、何赤くなってんの?

 短パン履いてるし。期待すんなって。」


「ち、違います!純粋に心配で……!」


「ふふ、冗談。からかっただけ。

 てか湿布、持ってる?」


「ありますよ!これ、使ってください」


 凌がリュックから湿布を差し出すと、

 澪は一瞬受け取ろうとして、ふと手を止めた。


「……あー、ダメだった。

 私、湿布かぶれるんだよね。体質的に。」


 そう言って、苦笑する。

 少し気まずそうに、でもどこか開き直るように。


「だから、ほっとくしかないの。

 治るまで待つ、いつも通り。」


 再び歩き出す澪。

 袴の下から見える素足に目を奪われる。

 澪が数歩進んだところで、ふいに立ち止まり、振り返った。


「……あんたさ」


「はい?」


「見てればわかるけど、けっこう人のこと見てんじゃん。

 ドキドキするより、まず“心配”が先に出るタイプ。そういうの、悪くないよ。」


「……え?」


「だからさ。

 今は変態ってことにしといてあげるけど――

 その優しさ、大事にしなね。」


 そう言って、今度こそ本当に背を向けた。

 濡れたような竹刀の先が、床を軽く鳴らす。


 凌は、その背中を見送る。

 なんだか胸のあたりがじんわりあたたかい。


 湿布も貼れないのに、痛みに文句ひとつ言わない人。

 からかいながら、ちゃんと見てくれてる人。


 年上って、すごいな。

 そう思ったとき、また雨音が少し強くなった。




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